月に願いを
月は夜の象徴
月は夜の支配者
月は夜の守護者
夜は眠りにつく時
夜は息を潜める時
夜は想いを馳せる時
夢を照らすのは月
命を照らすのは月
心を照らすのは月
どうか私の大切な人が
健やかでありますように
たとえ間違いだったとしても
それは、もうすぐで全ての雪が溶けて、沢山の命が起きだすような季節だった。
私は、いつものように部屋の窓から空を見上げていて、そこに大事な話があるって、あなたが来た。
「アルバート、ダメよ。あなたは間違っているわ。もう一度、ちゃんと考え直してちょうだい。」
「マリー…。たとえ間違いだったとしても、君にとって良くない結果なのだとしても、僕の答えは変わらないよ。もう何十回、何百回も考えた。毎日毎日、飽きもせずにね。
今までのこと、現状、未来のこと。どれだけ考えても、君のそばに僕がいないだなんて耐えられない。」
「…そんなことはないわ。あなたなら、大丈夫。沢山の人に愛されているから。みんな助けてくれる。そして私よりも、もっと素敵な女性と、幸せな家庭を築くのだわ。だから…」
「マリー、ねぇ、マリー。そんな、酷いことを言わないでくれ。これから、何十年の時が経とうとも、僕は君のそばにいると約束するよ。僕の鼓動が止まるその時まで、ずっとだ。だから、その時が来たら、君が迎えに来て欲しい。壁画でしか知らないような天使様じゃなくて、見たこともないような天国の扉じゃなくて、君がいい。」
あなたは、大事な話があると言って来て、大きく息をして、少し強張った顔で言うの。
「愛しいマリー、僕と結婚して下さいませんか?」
って。
あなたも、私も、本当にばかなのよ。
私は、もう長くは生きられないだろうって言われているのに。あなたはそれを承知でいるのに。
約束するわ。たとえ間違いだったとしても、最良で、最善で、最高の選択だったって最期に思えるように。
雫
雫というものは、基本的に落ちるものだ。
空中でとどまったりしないし、空に登っていくこともない。
世界一落ちる速度が遅い雫だって、10年に一滴くらいの頻度で落ちるって聞いたことある。
何故って、重力があるからだよね。超能力者でもない限り、雫が落下するのを防ぐのは難しいだろう。
今だって、髪の毛から落ちていく水が画面に張り付いている。煩わしい、ってこういう時に使う言葉だと思うよ。
でもね、重力があってよかった。
雫が落ちることが当たり前で、他のものもふよふよ浮いてなくて。地に足ついてるって感じ!
今日も、当たり前のことが当たり前のままでいてくれて、安心した。
何もいらない
生きていく上で必要なもの以外は、何もいらないと本気で思っている。
買い物をするのには車がないと不便だ、と思う程度の田舎に生まれた。もちろん、外食店だって家の周りにはないし、娯楽施設なんてもってのほかだ。
小学校と中学校は徒歩30分の距離にあり、高校もバスで1時間くらいの総合学科の学校。
大学は、あまり長く勉強したくはないけど高卒で働くのはなんか違う、少し家から出て見たいというだけで、県立で全寮制の短大に通った。
地元の中小企業に就職して後輩もできて、順調とは言えないけど、取り敢えず辞めずに仕事を続けている。
私のように、毎日をただ浪費するように生きている人間なんて他にもいるだろう。むしろ、そういう人の方が多いのではないだろうか。
今、それなりに仕事があって、貯金も少しはできている。一人暮らしは寂しいけれど、ネットに繋げば面白いものはゴロゴロ転がっていて退屈しない。
少し歩けばコンビニやスーパーがあるような、都会での生活は想像がつかない。そんなものはいらない。買い物なんて週1回で問題なく生活できる。
アイドルや推しのイベントがある都会で暮らしたいから頑張るとかもない。そもそもイベントとか行ったことないし。そう思えるほどの推しもいない。いらない。
嘘。
小学生の頃から、ずっと嘘ついてる。
勉強が理解できなくて、覚えも悪くて、兄姉にどうせ教えてもできないって馬鹿にされて恥ずかしくて泣きそうになった。だから勉強は嫌いって言って避けた。どうせわからないからって、自分のことも考えなくなった。担任の先生には、学年が上がるのが心配ですねって言われた。
友達が、大好きな絵師さんに会えるイベントがあって、感動して泣いてしまったって言ってた。他にもいろんなイベントにたくさん参加できるように、都会に住みたいって言うようになった。すごいなって思ったけど、同時に自分にはないなって羨ましくもなった。思わず涙が出るような、好きと言う感情を持てたことはない。憧れもない。そのために頑張ることもしない。悔しいような置いて行かれたような気がして、友達にその絵師さんの絵を見せてもらった時、馬鹿にしてみた。肘鉄くらった。こいつ空手やってたわ。
中学生では運動部がいいけど、ガッツリは無理だなって考えで卓球部に入った。部活内で万年最下位争いして、試合はいつも初戦敗退。頑張っても無駄だし、楽しく遊べたらそれでいいじゃんって、必死にやっても悔しい思いしかしないならそんなのいらない。って。練習は真面目にやってたけど、それ以上のことはしなかった。才能ないし。いらないし。上位の人には、なんだコイツって目で見られてた。
高校も、大学も、就職してからも、周りに流されるままに、適当に気楽にやってきた。嫌なことがあったら忘れるようにしてたけど、結局忘れられなくて、自分には才能がないから、めんどくさがりだから、努力なんてすごいこと、できないししたことないって言って誤魔化した。
何もいらない。優秀な頭脳も、絵や運動の才能も執着も、競争に必要な努力も、都会への憧れも。
私が生きていく上で、それらは必要のないものとしてきた。そうやって嘘をついてきたから、今更、何もいらないと本気で思っている。
夢見る心
いつも前を行く君は、どんな顔で夢を語っていただろう。
「私の夢はね!」
振り返る君の顔は、逆光になってしまっていてよく見えなかったと思う。
まだ若い君と、お互いの夢を言い合って笑っている。
夢を見ていた。若い頃の記憶を、夢として見た。
今、前を歩く君はいない。
「僕の夢を聞いてくれるかい?」
君と2人、歩く道。
夢見る心は、これからもずっと変わらない。