喜村

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7/5/2024, 8:08:42 AM

 暑い、燃えるように暑い。
 意識が朦朧として、体に力が入らない。
力が入らないどころか、手がびりびりと痺れている。
 立てなくなり頭から突っ伏したようで、顔面にコンクリートの感覚がある。
それもまた熱くて、まるでバーベキューで焼かれている肉のようだ。
 喉は乾いていない。
鼻での呼吸だけでは追い付かず、口を半開きで息をした。
 頭がガンガンと痛い。
ガンガンと共にぼんやりしていて、何も考えられなくなってきた。

「誰か! 救急車!」

 そんな誰の声かもわからない叫び声が聞こえた。
 あぁ、俺を助けてくれる人なんていたんだ、と、薄れつつある意識で思った。
 これがいわゆる、熱中症、なのだろう。
 熱中症なんかで死ねるのか?、とか思っていたけど、なるほど、これは逝っちまう気がする。
 でも、俺まだ10代だよ? 10代でも死ぬの?
こういうのって、高齢者だけじゃないんだな、と、とうとう目も開けていられずに閉じながらそう思った。

 救急車で運ばれて助かるか助からないかは、神様だけが知っている。 


@ma_su0v0
【神様だけが知っている】

7/3/2024, 11:14:39 AM

 老後2000万円問題、と、よく聞く。
その額があまりにも怖くて、20代から貯金を始めた。
 まだ結婚もしていないから、一人馬力でようやく半分にこぎつけた。
 これを貯めるまでに、様々な交友関係を断ちきった。
 ご褒美という名のご飯や、趣味だったソシャゲやアニメの推し活とかも全部辞めた。
 そうして積み上げてきた1000万円、だが……

 得たものはお金、失ったものは数えきれない。

 果たして、老後2000万円を貯めれたとして、この道の先には、俺の不安は払拭されて、幸せになるのだろうか?

@ma_su0v0
【この道の先に】

7/2/2024, 10:25:57 AM

 冬場はあんなに優しく心地よい日差しだったはずなのに、恵みの日差しと思えるほどだったのに。

「あ、あぢぃ……」

 七月に入り、梅雨時期となった。
 じめじめしていて、晴れている日は少ないので、恵みの日差しに変わりはないはずなのだが。

「湿っぽくて息苦しい……」

 蒸された空気は重く、気温はそこまで高くないのに、日差しが肌を焼く。
 そういえば、夏本番より今時期の日差しのほうが紫外線が強いと聞いたことがある。

「夏本番……やだなぁ……」

 誰に話している訳でもないが、暑くて頭がおかしくなってしまったのか、俺はいつもより多くの独り言を呟いた。
 夏の少し前の日差しは、じりじりと俺の肌を焦がしていた。



@ma_su0v0

【日差し】

7/1/2024, 10:15:07 AM

※微エロ注意

 俺の家の隣は、新築の一軒家がある。
つい先日できた真新しい建物で、そこには旦那さん奥さん、小学生高学年くらいのお子さん二人のどこにでもある一家が住んでいる。
 俺の部屋のカーテンを開けると、幸か不幸かお隣さんの寝室の様子が見える。
もう子どもとは別の寝室なのだろうか、たまに奥さんと旦那さんの姿しか見えない。

 夜はお互いにカーテンを閉めているのでわからないが、昼間はどちらも開けている状態。
 夏場も近付き暑いので、高校生の俺は期末テスト期間中で早く家に帰り、窓を開けて勉強をしていた。
 するとなにやら、なまめかしい声が聞こえてきた。明らかに、隣の奥さんのものだ。
 今日は平日の昼間だというのに、二人とも仕事は休みなのか?
 思春期の俺には耐え難い所業。気になって勉強が手につかない。
 よく耳を澄ませば声だけじゃない卑猥な音まで聞こえてくるではないか。
 窓を明けてプレイをしているとでもいうのか、とんでもない変態だな。

……だめだ、気になる

 ガン見する訳ではなく、横目にお隣さんの寝室をみる。
 窓越しに見えるのは、俺の知っている旦那さんではない男と、俺の知っているお隣の奥さん。
 俺は持っていたペンを落としそうになる。
ーーこれが、世に言う、不倫、というものなのか。

 見てはいけないものを見てしまった俺は、激しくどつかれている奥さんにばれないように、そっと窓とカーテンを閉めた。

@ma_su0v0

【窓越しに見えるのは】

6/30/2024, 10:28:12 AM

 気づいた時には、遅かった。
 真夜中の暗闇を息を切らしながら走る。
 行く場所など決めていない、とにかく逃げなければ。
 俺は、ようやっと、彼女の目を盗んで逃げ出した。
 最初は、ただ可愛い優しい女の子だと思っていたんだ。でも--

「どこに行くの? かくれんぼ? 鬼ごっこ?」

 息をのむ。
 俺の目の前に、逃げきろうとしていた相手がいる。

「なん、で……」

 思わずそんな言葉が口をついて出た。

「なんで?」

 女は、ゆっくりと俺の近くに歩みより、優しく俺の頭を撫でてくれた。
 ぼたぼたと脂汗とも冷や汗とも言えぬ汗が俺の頬を伝う。

「私とあなたは、赤い糸で結ばれているからだよ?」
「その赤い糸は……切れたりしない?」

 俺の問いに、ふふふ、と、女は笑った。
 満月に女の笑顔が妖しく映った。

@ma_su0v0

【赤い糸】

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