喜村

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 気づいた時には、遅かった。
 真夜中の暗闇を息を切らしながら走る。
 行く場所など決めていない、とにかく逃げなければ。
 俺は、ようやっと、彼女の目を盗んで逃げ出した。
 最初は、ただ可愛い優しい女の子だと思っていたんだ。でも--

「どこに行くの? かくれんぼ? 鬼ごっこ?」

 息をのむ。
 俺の目の前に、逃げきろうとしていた相手がいる。

「なん、で……」

 思わずそんな言葉が口をついて出た。

「なんで?」

 女は、ゆっくりと俺の近くに歩みより、優しく俺の頭を撫でてくれた。
 ぼたぼたと脂汗とも冷や汗とも言えぬ汗が俺の頬を伝う。

「私とあなたは、赤い糸で結ばれているからだよ?」
「その赤い糸は……切れたりしない?」

 俺の問いに、ふふふ、と、女は笑った。
 満月に女の笑顔が妖しく映った。

@ma_su0v0

【赤い糸】

6/30/2024, 10:28:12 AM