どうして、私だけ。
そんな悲観的に思うことがあるのではないだろうか。
隣の芝生は青いの現象で、本当は自分にも恵まれている何かがあるのに、他の人達に憧れ妬むことがあるのではないだろうか。
私には、ある。
どうしてこんなに頑張っているのに、評価されないのか。
どうして毎日やってるのに、身になってくれないのか。
どうしてあの他人より力量があるはずなのに、芽がでないのか。
私だけ、特別に、遅れを感じて焦ってもがいて、ふと回りと比べては悲劇のヒロイン。
だから私は、私だけ、の世界を作った。
私だけに隔離すれば、誰とも比較しないし比較されない。
そのかわり、評価もされなければ身になってるかもわからない。
でも、この作品を埋もれている作品の中から拾い上げてくれて、誰か一人にでも読まれていれば、一つだけでももっと読みたい🤍が押されてくれれば、私はもう報われた気分である。
自ら作った私だけの世界に、あなたの軌跡が残されることを祈らん。
【私だけ】
私には、お母さんがいない。
いや、正確には、いなくなった。
ずっと昔には、いた気がする。
でも、それもとても曖昧なくらい遠い日の記憶。
お父さんに聞こうにも、いざ聞こうとすると、言葉が喉につっかかって聞けず終い。
一緒に手を繋いでお散歩をしたり、一緒にお布団に入ってねむってくれたり、一緒にフードコートで昼食をとったり。
そんな他愛のない親子をやっていた記憶は、薄れつつあるが、ある。
どうしていなくなったのか、いつからいなくなったのか、それは私にはわからない。
聞かなければ、永遠と謎のままである。
今日は、私の誕生日。18歳になった。
父がショートケーキに1と8のろうそくをさしてご馳走してくれる。
私はゆらぐろうそくの日を眺める。
そうだ、こんな記憶も断片的にある。
「今日で成人だね、おめでとう」
「ありがとう……あのさ、お父さん……」
遠い日の記憶を胸に、意を決して私は口を開いた。
【遠い日の記憶】
あー、身体中がいてぇ……
俺は、狭い視界で空を見ていた。狭い視界、というのは、ヘルメットを被っているからである。
さっき、カーブしようとしたら、その対向車側に大型トラックがいて、おもいっきりぶち当たって、ガードレールを飛び越えて、この土手の上に着地、というより、落下した。
身体が全く動かない。足首少し、指先少し動かすだけで、どこかしら痛む。
頭を動かしちゃいけない気がする。俺の直感がそう言っている。
空を見上げているこの体勢以外、何もできない。
あー、俺しぬのかな
頭に浮かんだことはこれだった。
うーん、死ぬ前にやりたいこと、たくさんあったんだけどな。ありがとうとかごめんとか好きとか、言いたいことたくさんあったんだけどなぁ。
心に浮かんだことは、身近な人への思いだった。
まぁ、対向車側のトラックの人が通報するだろうから、俺のことも気付くだろう。それにしても、痛い、重い……。
俺は、ゆっくり瞼を閉じた。見上げていた空を自分で消した。
【空を見上げて心に浮かんだこと】
「終わりにしよう」
夏休みが始まる前の最後の下校の時、しばらく歩いてから、貴方はそう言った。
いきなりのことで、私はその場に立ち止まる。
貴方は、自転車を押しながら歩いていたが、私をおいて、そのまま歩いて行こうとした。
「……待ってよ……」
やっとの思いで声が出たが、貴方には届いていないようで、歩みを止めてくれない。
「ねぇ! 待ってよ!」
喉の奥が焼けるようだった。必死にそう大声が出た。
さすがに今度は聞こえたようで、振り向きもせず、あなたは立ち止まるだけ。
「なにを……終わりにするの?」
恐る恐る、口をわなわなさせて私は言う。
「明日から夏休みじゃん、だからさ、別れよう」
「意味わかんないよ! 何か悪いことした?」
「悪いことは、してないよ。でも、良いこともないんだ。お前に、魅力を感じなくなったから、終わりにしよう」
耳の奥の方で、海のさざ波が聞こえた。暑くて眩しいはずなのに、目の前が黒く塗り潰されていく。
私は、その場に膝をついて、しばらく彼の後ろ姿を眺めていた。
夏の日差しは私のことをこれでもかと突き刺してきた。
【終わりにしよう】
※【後悔】の続き
俺には、人には言えない特殊能力がある。他の人には見えないものが見えるのだ。
例えば、幽霊や妖怪などといったもの。
本日は七夕。雨雲があるが、今の段階ではまだ星が少し見え隠れしている。
俺は、見てしまった。
「彦星さま! 会いたかったわ!」
「織姫どの! 今宵は楽しみましょうぞ!」
「愛しています、彦星さま……!」
「私も愛しく君を思うぞ、織姫どの……!」
俺は、七夕が嫌いだ。
他の人は、彦星と織姫が会えればいいね、などと言うが、これを毎年、夜空を見上げると見せられる身にもなってくれ。
雲に隠れると、声も遠退く。雨が降れば、声もかき消される。
早く雨が降ってくれないかな。俺はそう願った。
瞬く天の川のその先で、二人の愛の劇場が始まりをむかえていた。
【七夕】