喜村

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 私には、お母さんがいない。
いや、正確には、いなくなった。
 ずっと昔には、いた気がする。
でも、それもとても曖昧なくらい遠い日の記憶。
 お父さんに聞こうにも、いざ聞こうとすると、言葉が喉につっかかって聞けず終い。
 一緒に手を繋いでお散歩をしたり、一緒にお布団に入ってねむってくれたり、一緒にフードコートで昼食をとったり。
そんな他愛のない親子をやっていた記憶は、薄れつつあるが、ある。
 どうしていなくなったのか、いつからいなくなったのか、それは私にはわからない。
 聞かなければ、永遠と謎のままである。

 今日は、私の誕生日。18歳になった。
 父がショートケーキに1と8のろうそくをさしてご馳走してくれる。
 私はゆらぐろうそくの日を眺める。
そうだ、こんな記憶も断片的にある。
「今日で成人だね、おめでとう」
「ありがとう……あのさ、お父さん……」
 遠い日の記憶を胸に、意を決して私は口を開いた。



【遠い日の記憶】

7/17/2023, 1:43:53 PM