喜村

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7/3/2023, 10:46:23 AM

 辺りは木が鬱蒼と繁っている。足元の地面はぬかるんでいる。
 困った、完全に遭難した。
 こう行けば正規ルートに戻れるだろう、と、勘で行動していたら、もう元には戻れない場所に来てしまった。
引き返そうにも、数分前にどこを歩いていたか思い出せない。なんといっても、みる限り似たり寄ったりの木しかないのだ。
 諦めて、斜面が下に向かっている場所を選び、ずっとあるか続けていると、ようやく人工物を見つけた。
 吊り橋である。それも、かなりぼろぼろの漫画やアニメで出てくるような、木と縄で作られた壊れそうな吊り橋である。
 吊り橋の下は、もちろん崖。それもかなりの高さである。
 この吊り橋のその先にある道は、果たして人がいるのだろうか。
人がいるという保証があるなら、勇気を出して進もうと思えるものだが……。
 他に道はないかと見るも、また獣道を探るしかない。
 この道の先に、幸あれ--!
俺は突き進んだ。


【この道の先に】

7/2/2023, 12:07:12 PM

 春の日差しは穏やかで、夏の日差しは狂気に満ち溢れていて、秋の日差しは彩ってくれて、冬の日差しは温もりをより感じた。
 四季折々の日差しで、でも日差し自体はなんら変わっていないはずなのに。
 その時の感情や、気温や、風景で、人は日差しを感じ取っていた。
 あなたの場所には、日差しは届いていますか?
 それは温かいですか? それは痛いですか?

 私に取って、日差しは恐怖でしかありません。
 私はアルビノ。元より色が白いのです。
 少しの日差しで、私の皮膚はただれてしまいます。日焼けではありません、重度の火傷になるのです。
 みんなの言う、穏やかで温かな日差しを私も拝んでみたいものです。


【日差し】

7/1/2023, 12:55:04 PM

 蒸された空気で窓ガラスは結露していた。
今日も雨かとうんざりする。
 素手で雑にその水滴を拭いてみる。
見慣れたいつものうちの庭。
……ではなかった。
「なに……!?」
 思わず濡れることも構わず、服の袖でゴシゴシと窓を拭いてみる。
 違う、うちの庭がそこにはなかった。
 窓越しに見えるものは、炎。
 雨のはずなのに、火の手が見えた。
 火災? 近所で? いや、そういう炎ではない。
 炎だけではなかったのだ、窓からみえたものは。
--ドラゴンがいたのだ。
「……うそ」



【窓越しに見えるものは】

6/30/2023, 10:14:32 AM

 私はあなたが大好き、見つけるとすぐに食いついちゃう。
 目の前にいなくても、微かな音であなたの居場所もわかっちゃうんだ。

 あ、今、その草陰に隠れたでしょう?
 私はあなたが隠れた草陰に飛び付く。
 ほーら、捕まえた。
 羽をバタバタさせて、必死に私から逃げようとする。
 そんなに暴れて、可愛いわね。
逃げられないのが分からないのかしら?
 私とあなたは、赤い糸で繋がれているのよ。
 羽をむしって、喉元に歯を食い込ませる。
赤い糸が赤い水溜まりに変わる。
 やっと大人しくなったわね。
 私は棲みかに持ち帰る。

 ごめんなさい、赤い糸で結ばれていたのは、あなただけじゃなかったみたい。
 私は電線に並んでいるあなたのお仲間を見て、にやりとした。
 私には、電線から赤い糸が何本も垂れ下がってみえた。
【赤い糸】

6/29/2023, 1:01:14 PM

 人は俺の姿を見るとこういう。
「夏の空だねぇ」
と。

 そんな悠長なことを言っていていいのかな?
 今からこの場に、俺は大嵐をもたらそう。

 大人達は、しみじみと夏の空とは言うものの、俺の正体を知っているので、そそくさと洗濯物を取り込んだり、建物の中へと入っていく。
 子ども達は、俺のことを知らないらしく、そのまま外遊びを続けていた。

 今までからっと晴れていて、夏空が広がっていたと思いきや、突然辺りが薄暗くなる。
 そして、大雨と雷を轟かせた。
 子どもが泣きながら家へと散り散りとなる。

 今の大人達は、子ども達に伝えていないのだろうか?
 俺の姿を、入道雲を見つけたら、雷を伴った雨が降る、ということを。


【入道雲】

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