辺りは木が鬱蒼と繁っている。足元の地面はぬかるんでいる。
困った、完全に遭難した。
こう行けば正規ルートに戻れるだろう、と、勘で行動していたら、もう元には戻れない場所に来てしまった。
引き返そうにも、数分前にどこを歩いていたか思い出せない。なんといっても、みる限り似たり寄ったりの木しかないのだ。
諦めて、斜面が下に向かっている場所を選び、ずっとあるか続けていると、ようやく人工物を見つけた。
吊り橋である。それも、かなりぼろぼろの漫画やアニメで出てくるような、木と縄で作られた壊れそうな吊り橋である。
吊り橋の下は、もちろん崖。それもかなりの高さである。
この吊り橋のその先にある道は、果たして人がいるのだろうか。
人がいるという保証があるなら、勇気を出して進もうと思えるものだが……。
他に道はないかと見るも、また獣道を探るしかない。
この道の先に、幸あれ--!
俺は突き進んだ。
【この道の先に】
春の日差しは穏やかで、夏の日差しは狂気に満ち溢れていて、秋の日差しは彩ってくれて、冬の日差しは温もりをより感じた。
四季折々の日差しで、でも日差し自体はなんら変わっていないはずなのに。
その時の感情や、気温や、風景で、人は日差しを感じ取っていた。
あなたの場所には、日差しは届いていますか?
それは温かいですか? それは痛いですか?
私に取って、日差しは恐怖でしかありません。
私はアルビノ。元より色が白いのです。
少しの日差しで、私の皮膚はただれてしまいます。日焼けではありません、重度の火傷になるのです。
みんなの言う、穏やかで温かな日差しを私も拝んでみたいものです。
【日差し】
蒸された空気で窓ガラスは結露していた。
今日も雨かとうんざりする。
素手で雑にその水滴を拭いてみる。
見慣れたいつものうちの庭。
……ではなかった。
「なに……!?」
思わず濡れることも構わず、服の袖でゴシゴシと窓を拭いてみる。
違う、うちの庭がそこにはなかった。
窓越しに見えるものは、炎。
雨のはずなのに、火の手が見えた。
火災? 近所で? いや、そういう炎ではない。
炎だけではなかったのだ、窓からみえたものは。
--ドラゴンがいたのだ。
「……うそ」
【窓越しに見えるものは】
私はあなたが大好き、見つけるとすぐに食いついちゃう。
目の前にいなくても、微かな音であなたの居場所もわかっちゃうんだ。
あ、今、その草陰に隠れたでしょう?
私はあなたが隠れた草陰に飛び付く。
ほーら、捕まえた。
羽をバタバタさせて、必死に私から逃げようとする。
そんなに暴れて、可愛いわね。
逃げられないのが分からないのかしら?
私とあなたは、赤い糸で繋がれているのよ。
羽をむしって、喉元に歯を食い込ませる。
赤い糸が赤い水溜まりに変わる。
やっと大人しくなったわね。
私は棲みかに持ち帰る。
ごめんなさい、赤い糸で結ばれていたのは、あなただけじゃなかったみたい。
私は電線に並んでいるあなたのお仲間を見て、にやりとした。
私には、電線から赤い糸が何本も垂れ下がってみえた。
【赤い糸】
人は俺の姿を見るとこういう。
「夏の空だねぇ」
と。
そんな悠長なことを言っていていいのかな?
今からこの場に、俺は大嵐をもたらそう。
大人達は、しみじみと夏の空とは言うものの、俺の正体を知っているので、そそくさと洗濯物を取り込んだり、建物の中へと入っていく。
子ども達は、俺のことを知らないらしく、そのまま外遊びを続けていた。
今までからっと晴れていて、夏空が広がっていたと思いきや、突然辺りが薄暗くなる。
そして、大雨と雷を轟かせた。
子どもが泣きながら家へと散り散りとなる。
今の大人達は、子ども達に伝えていないのだろうか?
俺の姿を、入道雲を見つけたら、雷を伴った雨が降る、ということを。
【入道雲】