喜村

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6/11/2023, 12:04:36 PM

 かつて、街として栄えていたこの場所。
今では立派なシャッター通り。

 当時は沢山の飲食店や服、インテリア屋さんがあった。
 しかし今となれば、シャッターは閉まりっぱし、アーケードの中を歩いても人はいない。
店の入り口と思われる所にはスプレーで落書きも多々見受けられる。
 開発土地だ、なんて、囃し立てられて、たくさんの店が建った、よくわからない政党の事務所とかもあった。
 でも今は治安が悪いと言われるくらい落ちぶれて、色んな人がこの街を出ていった。

 あの時の活気はもう戻ってこないのだろうか、たくさんの人が行き交い、色んな買い物をしたり、それぞれの生活があったあの街は。
 吹きさらしになったアーケード、今は管理者もいなく廃れていく一方のこの街で、私はまだひっそりと暮らしています。


【街】

6/10/2023, 12:17:35 PM

 時間が足りなすぎる。
たくさん稼ぎたいけれど、時間は有限であって。
やらなくちゃいけないこともあるけれど、そういうのは後回しになってしまうものであって。

 仕事はたくさんして、お金をたくさんほしかった。
だから月に休みは片手で数えるくらい、残業時間も40時間もこえていた。
 やらなくちゃいけない家事とかもあるけれど、仕事が大変でおざなりになっていた。

 やりたいことをするためには、削れるところを削るしかなかった。
睡眠時間を削った。パフォーマンスが低下した。
食事の費用と時間を削った。体に不具合がおきるようになった。

 やりたいことをする時間を増やそうとすればする程、自分の身が削られていって。

 やりたいことは、絵を描くことです。小説を書くことです。歌を歌うことです。
……やりたいことは、身を削ってまでやることだったっけ……?
 自分からすれば、身を削ってまでやりたいことだけれども、端から見たら鼻で笑われることなのかもしれない、と。
 限りある時間に、やりたいことをするのは難しいとつくづく思う。

【やりたいこと】

6/9/2023, 10:42:42 AM

 カーテンの隙間からさしこむ光で目が覚めた。
時間はまだ五時。さすがに早い、まだ二度寝ができる許容範囲である。
(……ん? 朝日?)
 ぼーっとしたまま、しばしその光を眺めた。
 今は梅雨で、雨が続いている。久々に朝日を見た気がしたのだ。
 もし、日中に雨があがって、太陽が出てきたとしても、それはギラギラの夏に近い太陽である。
 でも、朝日はそんな攻撃的ではなく、朝ですよ、と、柔らかく包み込むような温もりを感じる。
 しかし彼女は寝返りをうち、朝日に背を向けた。
 朝日の温もりも心地よいが、今は布団の温もりの方が、何倍も気持ちがよいようだ。


【朝日の温もり】

6/8/2023, 10:47:19 AM

 6月上旬の梅雨入りした頃、俺の目の前に大きな二つの道があった。
就職するか、大学とかに進学するか、だ。
 進学するにしては、今から試験勉強をして追い付くか謎。就職するとなると、俺なんかが社会に出て働いていけるか不安。
 今の時代は大学卒業するのが当たり前。でも、親はお金は一切出さないと言いきった。奨学金で進学する? そのお金はきちんと返せるように働ける?
 謎と不安のループ。
 しかしもう六月。就職組はもう求人票置き場に足しげく通っているようだ。進学組もとにかく勉強をしているようだ。
 俺だけが、岐路に立たされたまま取り残されているのだ。
誰かと一緒にその分かれ道を選ぶのは違う。これは俺の人生だから。
 今年の梅雨が終わるまでには、決めなくちゃ、だよな。
 俺はしとしとと降る雨を眺めながら、大きくため息をついた。空模様と同じ、どんよりとした表情で。

【岐路】

6/7/2023, 11:00:54 AM

 どこかの大昔の預言者が、今日、世界が滅びると記述をしていたらしい。
そういう預言は、過去に何度かあった。
でも、滅びず今がある。
 しかし、今回はそうとは違うらしい。

 テレビをつけると、どこの番組も同じニュースを流している。
『巨大隕石接近中』とタイトルにはあった。
 世界中が混乱しないように、政府の中で隠していたらしい。あと12時間で到達すると言っている。
 恐竜が滅びた時以上の規模だとか、北半球の方に落下予定だとか。不安を煽ることばかり言っていた。
「朝からずっと同じニュースなんてみててもつまんないよー」
 彼女は俺の隣のソファーに座って、テレビの電源を切る。暗くなったテレビに俺と彼女が写った。
「なるようにしかならないでしょ? たまたまお泊まりデートの日でよかったねー」
「……よかったのか?」
「一人ぼっちで死ぬよりいいじゃん」
 世界の終わりに君と過ごす何気ない日常。
これからどうするのか、どうなってしまうか、わからない。
わからないけれど、君と一緒ならどうにかできるかな、と謎の安心に包まれた。
 彼女は、ねっ?、と俺の反応を伺う。
「そうだな、一人ぼっちより、好きな人と一緒のほうがいい」
 世界の終わりまで、隕石の落下まで、あと三時間と、最後俺がみたニュースには書いてあった。


【世界の終わりに君と】

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