暑い。ここは灼熱地獄だろうか。
汗が吹き出る。いち早くこの場所から出たい所だが、まだその時ではない。
しばらくすると、どこからともなく熱風が吹き荒れる。
痛い。暑い。何故熱風が。どんどん息もしにくくなってきた。
死ぬかもしれない、いや、死んでしまってここは地獄なのかもしれない。
もうだめだ。
俺は部屋から出た。
すぐさま頭から水をかぶりたいのを我慢し、一度掛け湯をして汗を流し、水風呂に浸かる。
まだ天国には程遠い。
それから野外のイスに座り、目をつむる。
ようやく、天国にたどり着いたようだ。
そう、ここはサウナ。
何度もの天国と地獄を繰り返し、見えてくるのがこのととのいである。
こんな手軽に天国と地獄両方を味わえるのは、サウナだけではなかろうか。
【天国と地獄】
満点の星空の中、俺は田舎道を徘徊していた。
五月下旬、寒くも暑くもないこの気候、夜の散歩にはうってつけだ。
強いていえば、田舎すぎる故の、蛙の大合唱が少々鬱陶しいくらいだが、まぁ、それも風情と捉えておこう。
スマホはいじらず、目的地もなく、ただなんとなくの夜の散歩。
たまに夜空を見上げると、小さな星々が瞬いている。
街灯は少なく、街灯よりも自販機の方が多くて明るい。
小さい星も霞んで見えるのは、大きな月の周り。
星に願いをと人はいうけど、こっちの方が願い叶いそうじゃね?、と俺は思う。
流れ星を探すより、こっちのエネルギッシュの月に願いをしようか。
女の人は月からパワーを奪われるというけど、俺は足を止める。
「明日のアルバイトの面接、合格しますように」
さて、そろそろ帰るか。
俺はまた歩を進めた。
蛙はまだゲコゲコと大合唱をして、俺を見送ってくれた。
【月に願いを】
私の主は、創作家である。
特に、恋愛小説を書いている。
私は、今、主の書いている小説のヒロイン。
ようやく、主人公の男の子との喧嘩は、私から謝って仲直りをしたのだが、今、新たな章へと突入した。
辺りは大雨で、息がしにくいくらいだ。圧迫感のある雨。
私は自室でその雨を眺めていた。雨を眺めて早二週間となる。
そう、作者の主は、また私達をおいて小説を書く手を止めたのである。
どうせなら、仲直りした段階でハッピーエンドでよかったじゃないか。
雨が降っていて、しかもどしゃ降りで、これは絶対に、また新たな試練が始まるやつではないか。その書き始めだけ記して、消えてしまった主。
主がまたこの物語を書き続けなければ、私はこの雨を永遠と眺めていなければいけない。
いつまでも降り止まない、雨。
この物語が進んだ時、雨は止むのか、雷がなり始めるか。
物語の続きを私はここで待ってます。
【いつまでも降り止まない、雨】
※【終わらせないで】の続き(11/29のお題の続き)
冷たい雨が降る昼下がり、私はお母さんとはぐれた。兄弟ともはぐれた。
生まれてまだ一月くらい。まだ乳離れもしていないのに、私はひとりぼっちになってしまった。
絶望しかない。絶望でしかない。
出る限りの声でお母さんを呼んだけれども、返事はない。雨音にかき消されてしまう。
だんだん雨に濡れて身体も冷えてきた。ぶるぶるがたがた震えてくる。
気づいた時は昼下がりだったはずなのに、辺りがどんどん薄暗くなってきた。
あぁ、しぬんだ。
寒さに暗さにひもじさに。不安しかなかった。
人生終わったと悟った。
もう起きてられなくなった、声もでなくなった、歩く力なんてとうになかった。
あの不安だった私へ、寝たらしぬと思っていたよね。
でも、大丈夫。私は今生きてるよ。
可愛い首輪をつけてもらって、鈴の音色も聞こえるんだ。
寝ても大丈夫、お母さんはいないけど、新しいお母さんができた。優しいお母さんなんだよ。
「にゃーお」
私は大きな声でないた。
あの頃かき消された雨音よりも、強くお母さんを呼べるようになった。
【あの頃の不安だった私へ】
ここは空気の綺麗な片田舎。
都会の雑踏、騒音、汚いスモック、ばかでかい建物、明るすぎる電気の光る街、そんな呪縛から解放されたく、仕事も家族も捨てて、ここにきた。
見上げるほど高い建物はなく、燃費の悪そうな車がたまに通るくらいでうるささは皆無。夜空なんかは辺りが暗いからか、星の輝きの方が家の明かりよりも多く眩しかった。
ずいぶんと遠くまできてしまったが、友達や親との連絡のためにも、スマホ所持していた。
田舎の娯楽は少ない。カラオケもゲーセンもコンビニさえもない。そのため、早く寝るかスマホをいじるしかないのだ。
ネットを開くと、新しい映画情報やら、話題のスイーツやら、新作メニューなんかが飛び交っている。
都会に住んでいたら、全部見たり買ったり網羅できていたけれど、ここに住んでからというもの、全部スルー案件である。
SNSを開けば、その新作やブームに乗った投稿を目にする……自分が惨めになってきた。
田舎にきての利点は、都会の呪縛から逃れたかったから、なのに……
翌年、都会に出てきた俺。
田舎も都会も経験したが、一度楽を覚えてしまった人間はだめだな。
都会の呪縛からは逃れられないようだ。
【逃れられない呪縛】