喜村

Open App
4/29/2023, 12:41:24 PM

 病室の窓は換気のために少しだけ空いていた。
新年度が始まり、普通だったら私も今頃、高校生活をスタートしていたはずだろう。
でも、ちょっとした事故で、現在ベッドで寝たきり生活。ようやく上半身を二十度くらい起こせるくらいになった。
 少しあいた窓からは、もう桜のピンク色は見えず、萌える緑色の葉っぱ達だけが見えた。
風は北風から南風にかわり、少し温かい。
 そんな風にのって、どこからか歌声が聞こえてきた。
ここは五階なので、外からは聞こえないと思うのだけれども……と、なると、同じ病室から?
風も心地よいけれども、歌声もまた柔らかで心地よい。日向ぼっこに最適な日差しも差し込み、私はだんだんとうとうとしてきた。
 あわよくば、歌声だけでなく、私も風にのってこの病室から抜け出したいなぁ。


【風にのって】

4/28/2023, 10:14:21 AM

 飛び出してからは一瞬だった、これが『刹那』と言われるものだと思った。
嫌いなことも、怖いものも、最初の一歩はすごく踏み出すことを躊躇する。
 バンジージャンプのようなアトラクションも、受験や会議のような場面も、注射や手術のような治療も、謝罪や報告のようなことも。
行うまではハラハラで怖くて逃げ出したくて。
でも、いざやってしまうと、それは一瞬の出来事で過ぎ去ってしまう。
 もう終わってしまった、という呆気なさと達成感。または、やってしまった、という罪悪感と虚無感。
どちらに転ぶかは内容次第だが、一瞬その瞬間、刹那、決まってしまう。
 真剣を振りかざしたその刹那、などと時代小説ではよく聞くが、それと比べたら時間的には長いものの、長々と悩み苦しんでいた時間と比べると、最初の一歩を踏み出したあとは、刹那のように感じるのではないだろうか。


【刹那】

4/27/2023, 12:06:55 PM

 いちいち、自分は何のために生きてるんだろう、って、考えたことはある?
 生まれたての赤ちゃんだったあなたは、生きる意味なんて考えてなかったでしょう?
 親を悲しませないため、結婚してパートナーと幸せになるため、子どもを育て抜くため、仕事の欠員にならないため、全部後付けでできた生きる意味。

 生きるために意味なんて必要ないんだよ。
生きる意味を探すためにもがくのは、とても惨めだと思わない?
 そんな意味も分からないまま生まれてきた赤ちゃんは、毎日理由もなく必死に生きている。
そっちの方がよっぽど輝かしく見えない?

 生きる意味を見つけるのは自由だけれども、それにすがって生きなきゃという義務感は疲れるものだ。
たまには生まれたての赤ちゃんのように、意味など分からず考えず勝手に生きて息苦しさから脱してみよう。



【生きる意味】

4/26/2023, 12:42:39 PM

 光を当てると影ができるように、善きことの後ろには悪しきものがある。

 例えば仕事中、とある人が仕事が遅く、周りから目をつけられたとしよう。
その人が更に遅れをとらぬよう仕事を円滑に回るようにサポートをする、という善きことをしたとする。
確かに仕事は回るだろうが、その人の成長を妨げる悪しきことをしたとは思えないだろうか。

 例えばネットの世界、人気チャンネルの投稿再生の数字を伸ばそうと、自分の複数端末で再生数を伸ばす、という善きことをしたとする。
確かに数字は延びただろうが、色んな人がみた訳ではないという裏事情を知ったら、嬉しさ半減の悪しきことではなかろうか。

 ばれなければ、善きことは善きこと。偽善と呼ばれるものも含まれるが、善である。
 それが何らかの妨げになったり、偽善とばれてしまったら、あっという間に悪しきことにもなるであろうが。
 あなたの善悪は、きちんとつけれていますか?
それは本当に善ですか?


【善悪】

4/25/2023, 12:41:30 PM

 俺は吸血鬼である。
皆様ご存知、日の光を浴びることができない。
浴びてしまったら最期。そう、最期なのである。
 俺は昔からの言いつけを守って、陽の出ている時は外にはでない。窓際にも近づかないようにしている。
でも、俺にも子ども時代があった訳で。友達もいた。
子どもの時は好奇心旺盛で、できないこともやってみたくなるお年頃。
 ある日、友と陽が傾く前に遊んでいた。
春風がカーテンを翻し、陽の光が友にあたった。
あたって消えた。シャボン玉の歌のように。

 時は経ち、大人になり、たまにあの時窓際にいたらと考える。
 俺の時間は夜。
夜空を見ていると、時たま流れ星が通過する。
人間達は流れ星に願いをすると叶うというジンクスがあるらしい。
もしも吸血鬼でも叶えてくれるなら……
一瞬キラリと光横切る流れ星に、俺は願い事を唱えてみた。


【流れ星に願いを】
※【沈む夕日】の続編

Next