高校三年生の時に、10年後の自分に手紙を書けという授業があった。
何十年後の自分には興味はないけれど、ちょっと近い自分なら、そんなに価値観も違わないだろうから、案外すらすらと書くことができた。
10年後の私は、今の彼氏と仲良く続いていますか?
子どもはできましたか?
仕事はうまくいってますか?
家は買えましたか?
もしも未来を見れるなら、手紙に書かずに自分の目で見たいけれど、現実的ではないので、私は10年後の私に手紙をしたためた。
【もしも未来を見れるなら】
※【10年後の私から届いた手紙】の続編
どうやら、赤ちゃんに転生したらしい。
色彩的な意味では、いろんな色がぼんやりみえるのだけれど、感情的な意味では、無色の世界。
それが転生して初めて思ったことだ。
快と不快しかない世界。
色でいえば、白と黒しかない世界。
他の感情の色はなかった。
快の白色と不快の黒色。
どちらにも染め上げられそうだけど、色付けるのが難しい無色の自分の世界。
これから生きていけば、色んな色に出会うだろうし、色んな色に変わってしまうだろう。
でも、この純な無色の世界を、もう少し堪能していたいと思った。
転生前の記憶が薄れていく、無色の世界に埋もれていった。
【無色の世界】
この間、開花宣言されたと思ったら、あっという間に満開になり、次の休みに歩きながら桜でも見ようと思っていたのに……
次の休みは五日後、まぁ、ギリギリ満開は逃しても遅咲きの桜は見れると思っていた。
しかし天気は日々変わるもので、開花から満開まではお天道様の頑張りで一週間足らずでそれに至ったが、満開からはあいにくの大荒れ天気。
暴風雨で、花散らしの雨どころか、樹木丸ごと飛んでいったニュースまで流れていた。雹も降ったり雷が鳴ったり春の大嵐である。
満開から五日後の本日、仕事は休み。
ダメ元で桜の木の下へと足を運んでみる。
うん、やはり枝には花どころか、葉っぱすらない。
はぁ、と、ため息をついて足元をみると、水溜まりや湿った地面に、桜の花びらの絨毯が広がっていた。
上ばかり、咲いた桜ばかりをみていたが、散った桜もまた風流ではないか。
俺は下を向いていたが、心は前向きになった。
嵐の後の空気も、気持ちがよいくらいに清々しかった。
【桜散る】
あたりは焦げ臭く、視界は煙で狭く、息苦しい。大きく息を吸うと思い切りむせ返ってしまう。
煙のせいで、今が夜なのか昼なのかもわからないくらいに暗い。暗いのに火の手で不気味に赤い光があった。
パチパチと物を燃やす音と、時折ズサズサと燃え落ち崩れた物の音が聞こえる。人の呻き声と子どもや動物の鳴き声も聞こえた。
あぁ、どうして私は、戦争がある世界に生まれてしまったのだろう。
安心して眠れない、満足にご飯は食べれない、衛生面なんて考えたこともない。今生きることに必死、今日死ななかったことが奇跡だ。
ここではない、どこかでは、戦争とは無縁なところがあるらしい。
いいなぁ、生まれた時から戦争が日常だった私には考えられない世界だ。
羨ましい、疎ましい、僻んでしまう。私もそこにいきたいな。
もし明日死んでしまったら、次生まれ変わる時は、戦争のない、ここではない、どこかで生きたいな。
起き上がる気力もない、横たわっている私に、火の粉が降り注いでくる。気付くと身体に無数の木材が突き刺さっていた。
戦争なんてなにもない。平和などこかで幸せになりたい。
【ここではない、どこかで】
四月の半ば、こんな新生活の時期に、私の地元で同窓会があった。地元とは疎遠となり、かれこれ十年ぶりの同窓会参加である。
毎年同窓会は通例で行っていたらしいが、最近の流行り病の影響か、同窓会自体が四年ぶりのようだ。
十年も会っていないと色んなことが変わる。
まさか担任の先生が亡くなっていたことも知らなかったし、海外に行ってしまった同級生がいることも驚きだった。
みんな良い大人になったんだなぁ、と感心してしまう。
そんな中、私は夢を追いかけて上京して、色々踠いたが夢は疎かになって、十年ぶりの帰郷。情けなくて、本当はこの場を離れたいくらいだった。
でも、少しだけ下心があって参加をした。
同級生の女の子、私の初恋の相手である。
当時は可愛らしいツインテールで目はくりくりで、えくぼがあって、お人形さんのような女の子。
しかし、現実は無情にもそれを打ち砕く。
「ママ~、おりがみ折って~」
「えー、今~?」
その初恋の女の子は『ママ』になっていた。
隣には、私が初恋をした当時のままのような、女の子が座っている。
--そうか、ママ、か。
今でも彼女のことが気になっていたのだが、この気持ちは伝えられそうにない、届かぬ思いとなってしまった。
宴会ムードで騒がしいはずなのに、何故か私の回りだけ無音になっていた。
【届かぬ思い】