喜村

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 あたりは焦げ臭く、視界は煙で狭く、息苦しい。大きく息を吸うと思い切りむせ返ってしまう。
 煙のせいで、今が夜なのか昼なのかもわからないくらいに暗い。暗いのに火の手で不気味に赤い光があった。
 パチパチと物を燃やす音と、時折ズサズサと燃え落ち崩れた物の音が聞こえる。人の呻き声と子どもや動物の鳴き声も聞こえた。

 あぁ、どうして私は、戦争がある世界に生まれてしまったのだろう。
安心して眠れない、満足にご飯は食べれない、衛生面なんて考えたこともない。今生きることに必死、今日死ななかったことが奇跡だ。

 ここではない、どこかでは、戦争とは無縁なところがあるらしい。
いいなぁ、生まれた時から戦争が日常だった私には考えられない世界だ。
 羨ましい、疎ましい、僻んでしまう。私もそこにいきたいな。
 もし明日死んでしまったら、次生まれ変わる時は、戦争のない、ここではない、どこかで生きたいな。
 起き上がる気力もない、横たわっている私に、火の粉が降り注いでくる。気付くと身体に無数の木材が突き刺さっていた。
 戦争なんてなにもない。平和などこかで幸せになりたい。


【ここではない、どこかで】

4/16/2023, 12:52:20 PM