喜村

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3/17/2023, 11:01:45 AM

 小さい頃に、強い子はなかないんだよ、とお父さんに言われた。
泣かない方がお母さん嬉しいなぁ、とも言われた。
泣かない子は偉いし可愛いよ、とおじいちゃんとおばあちゃんに言われた。
 だから私はどんなことがあっても泣かなかった。

 おじいちゃんとおばあちゃんが死んでしまった時も泣かなかった。悲しくないはずはない。とっても可愛がってくれていたのだから。
 お父さんに初めて襲われた時も泣かなかった。すごく痛いし信じられなくて絶望的になったけれども。
 お母さんに無視されすれ違いだらけになっても泣かなかった。本当は助けを求めたいのに、辛くて旨が張り裂けそうになった。
 クラスメイトからいじめられても泣かなかった。もう自暴自棄になって、目の前で死んでやろうかとは思った。

「こんな夜中に寒いでしょ、どうしたの?」
 私の彼氏兼彼女、またの続柄を恋人のユウカちゃんが、自販機横で腰かける私に心配そうに歩み寄ってきた。
--見ないで
 こんな惨めな姿、愛すべき人に見られたくない。
「……泣かない、泣かないよ」
 私は自分に言い聞かせるように唱える。
泣いたら今までの人生が崩れるような気がしたから。
 とても綺麗な満月が、雲に陰って濁って見えた。




【泣かないよ】
※【お気に入り】の続き

3/16/2023, 12:28:29 PM

 暗いのが怖い。
何も見えず、何も把握できないのが怖い。
 痛いのが怖い。
痛いのが好きな人は中々いないだろう、恐怖でしかない。
 狭いのが怖い。
圧迫されて、そのまま押し潰されたらどうしようかと思う。

 逆に明るいのが怖い。
全てを照らし出されて、見られたくないところまで見られるのが怖い。
 優しいのが怖い。
いつ手のひら返しをされてしまうか、恐怖でしかない。
 広いのが怖い。
自分がいかにちっぽけなものかがわかってしまうから。

 生きるのが怖い。
これから先の見えない未来には、ワクワクよりも恐怖感が勝る。
 死ぬのが怖い。
その先に何がおきるのか、知っている人は本当に稀で怖さしかない。

 私は結局怖がりで、何が楽しくて生きているのかもわからない。何もするにもとにかく怖くて。
こんな怖がりな私でも、現実は突きつけられている訳で。
だから少しでも怖くならないように、もう何も考えないで、何も感じない、無になろうと思ったんだ。


【怖がり】

3/15/2023, 12:54:55 PM

 冬の空は綺麗だ。空気は澄んでいるし、なにより手に届きそうな程に星が近くにある。
 秋の空は遠いと授業で習った。遠ければ遠いで、より多くの星を大画面でみている気持ちになる。
 夏の空は暑苦しくてあまり出たくないけれど、夕涼みで点々と見える星空もまた良いもので。
 春の空はそれでいうと、気温もばっちりで長く見ていてしまう。

 それになにより、四季によって見える星は違ってくる。
絶対習うオリオン座は冬の星座だし、夏の三角形と呼ばれる夏に見える星もある。
 地球はあたりに星が溢れている。毎日ずっと同じではないのだ。
 今日はどんな星が見えるかな?


【星が溢れる】

3/14/2023, 12:47:05 PM

 人の目は嫌いだ。
何を思っているのかわからない。
全員の目が僕を殺しにかかっているかのような感覚に陥る。
 だから僕は人の目を見ない。
他の人からは、ちゃんと目を見ろだの視線そらすよねだの言われるが、知ったことじゃない。
 嫌いなのだ、怖いのだ。きっとこれは、一種の病気なのだろうと僕も思っている。

 家に帰ると、尻尾をぶんぶん振って愛犬が駆け寄ってきた。
飼い猫は主人の出迎えを一応はしてくれたが、相変わらず愛想はない。
インコが高い声で「おかえり!」と声をかけてくれる。
 やはり人間じゃない動物はいい。
人間と違って、目が穢れていない。安らかな瞳だ。
 どうして僕はこんな汚い人間に生まれてしまったのだろう。願わくは僕も人間じゃない動物になりたかった。



【安らかな瞳】

3/13/2023, 10:22:29 AM

 穏やかに晴れた日だった。
桜は満開で、あなたから珍しく「お花見に行こう」とデートのお誘いがあったっけ。
あたりは桜の匂いでいっぱいで、同じようなカップルや老夫婦、家族連れでごった返していた。
周りの人にあわせるように、あなたは私の手を繋いでくれた。

 夜なのに暑苦しい日だった。
年に一度の夏祭りで、カップルの定番行事でもあるので、私からデートに誘った。
浴衣姿の私をおだててくれて、満更じゃない私は浮かれて屋台巡りをした。
物凄い人並みで、あなたははぐれないようにと手を繋いでくれた。

 だんだんと寒さが強くなってきた日だった。
木の葉が色づき、生まれて初めて「紅葉狩り」というデートをしてみた。
出店もないし人混みも少なく、老人やペット連れが多い大人な空間。
カップルも多くないので、あなたは少し恥ずかしながら手を繋いでくれた。

 クリスマスに初詣、冬のイベントが盛りだくさんの時期。
ほぼ毎日あなたとすごして、たくさんお話して、たくさん手を繋いでくれた。

 ずっと隣でいたかったので、私とあなたが結婚して、ノドカが生まれた。
 ずっと隣でずっと一緒、幸せな家庭、絵に描いたような眩しい家族。

 台風が近づいてきた秋口。あたりには木の葉が散らばっていた。
雨は音を立てて降り、風は耳鳴りのように吹き荒ぶ。
あなたの手を繋ぐ。しかし、握り返してはくれなかった。
--ずっと隣で、ずっと一緒でいたかったのに……


【ずっと隣で】
※【太陽のような】の続き

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