三月となり、春一番が吹き始めた今日この頃。
俺は高校を卒業した。
しかし、四月に大学に入学する訳でもなく、どこかの会社に入社する訳でもない。
俺はこの春、ニートになった。
わかってはいる、これが良いことではないことは。
親のすねをかじりまくる訳にもいかない、でも、進学する余裕もなく、就活の波には乗れずにこうなった。
絶望、とはいわないが、なんだか悪いな~、という焦りはあった。
親も最初こそは口うるさく就活就活言っていたが、とうとう何も言わなくなり、いよいよ見放されたような気がする。
たった1つの希望として、俺は趣味で創作活動をしている。
絵を描いたり、漫画を描いたり、小説を書いたり、音楽を作ったり。
下手の横好きで、といったらそれまでだが、なんやかんやフォロワーも千単位はいる。
今はアップして見てもらうことしかできないけれど、これは大きな1つの希望だと、俺は考えているのだ。
【たった1つの希望】
あれがしたいな、と思うだけ。
これがほしいな、と思うだけ。
思うだけであって、行動にはうつさない。
だってそれを求めて動いてしまっては、人の行いに背いてしまうから。
よく、欲望のままに動いてしまっては野生動物、みたいなことをいうけれど、欲求を満たしたいから動くことは、そんなに野蛮なことなのだろうか。
頭を使わず考えもせずに動くから、という意味でその例えを使うのだろうけれども。
自分は思うだけ。
でもその思いは、雪のように降り積もって溶けるわけでもなく、地層のように永遠と積み重なって行く。
その思いは風化することもなく、逆に脚色されることもあり。
この欲望は、いつか爆発してしまいそうだ。
自分は凶器を片手にゆっくりと家をあとにした。
【欲望】
「一人で大丈夫?」
「うん! 一人で行ける!」
温かい陽気の二月の最後、小さい女の子は、リュックを背負い、靴をはく。見たところ、五歳になったあたりだろうか。
「シチューのルー買う!」
「そう、シチューのルーならなんでもいいからね」
「わかったー!」
そう言葉を交わすと、女の子は小走りに行く。
一度振り返り、大きな声で「いってきまーす!」と叫んだ。
すぐそこのスーパーなのだろう、母親は姿がみえなくなると家へと戻った。
時はすぎ、あれから20年が経った。
「行っちゃうのね……」
母親は大きくなった彼女を見て涙ぐむ。
「年に一、二回くらいは顔を出すよ」
彼女は大荷物を引っ越し業者に頼み、自身はトランクを片手に持っていた。
「そうね、ずいぶん遠くの街へ行っちゃうからねぇ……」
よし、と呟くと、彼女は歩を進める。一度振り返り、か細い声で「いってきます……」と呟いた。
母親は姿がみえなくなっても、しばらく小さく手を振っていた。
二月の最後、とても良い日和であった。新たな門出にはとてもふさわしい程に。
【遠くの街へ】
人の心は空模様と言う。
めちゃくちゃ明るくて元気な時は、晴れ。
残業続きで疲れていたり眠い時は、曇り。
愛犬が死んだり恋人と別れた時は、雨。
何も感じない虚無感強めな時なら、雪。
激怒して制止も聞かなければ、雷雨や台風。
と、いった具合だろうか。
では、今の彼女の空模様を述べよ。
現在、そんな問題を出されている気分だ。
一緒にデートにきたはずなのに、いつものような笑顔はない。
だからといって、なんだか怒っているという訳でもなさそうだ。
何か言いたげだが、気乗りしていないからか言えずにいる、みたいな……物憂げな空、といったところか。
それは俺にも伝染して、こちらまで物憂げな空模様である。
「えっと……なんか秘密にしてることある?」
恐る恐る俺から切り出す。
彼女は少し迷いがあったようだが、照れながら口を開く。
「赤ちゃん、できたみたい」
物憂げな空は晴れ渡った。
【物憂げな空】
小学一年生の頃、アサガオの種を植えた。
土の中からいつ芽を出すのか、じっと見つめる。
水が地面に染み渡る。美味しそうにごくごく飲んでいる。
数日経つと、若干、芽のようなものが、ぐねっと曲がって出てきた。その様があまりにも不格好で、周りや上の土を掻き分けたい衝動にかられるも、そこは自然に任せなさいと制止をされた。
そうしてようやく、双葉がみえた。
少し白くて、でも双葉は緑色。
自分が毎日水をあげて観察していた小さな命。
枯れないように壊さないように、これからも育てようと思った命だ。
それから何十年と経ち、私はお腹に小さな命を宿した。
小学一年生の時のアサガオの時も、神秘的だな、すごいな、と思ったけれど、命は本当に奇跡的で神秘的で魅力的なのだと、子どもの時でも大人になった今でも思う。
命は大なり小なり本当にすごいものなのだ。
【小さな命】