人の心は空模様と言う。
めちゃくちゃ明るくて元気な時は、晴れ。
残業続きで疲れていたり眠い時は、曇り。
愛犬が死んだり恋人と別れた時は、雨。
何も感じない虚無感強めな時なら、雪。
激怒して制止も聞かなければ、雷雨や台風。
と、いった具合だろうか。
では、今の彼女の空模様を述べよ。
現在、そんな問題を出されている気分だ。
一緒にデートにきたはずなのに、いつものような笑顔はない。
だからといって、なんだか怒っているという訳でもなさそうだ。
何か言いたげだが、気乗りしていないからか言えずにいる、みたいな……物憂げな空、といったところか。
それは俺にも伝染して、こちらまで物憂げな空模様である。
「えっと……なんか秘密にしてることある?」
恐る恐る俺から切り出す。
彼女は少し迷いがあったようだが、照れながら口を開く。
「赤ちゃん、できたみたい」
物憂げな空は晴れ渡った。
【物憂げな空】
小学一年生の頃、アサガオの種を植えた。
土の中からいつ芽を出すのか、じっと見つめる。
水が地面に染み渡る。美味しそうにごくごく飲んでいる。
数日経つと、若干、芽のようなものが、ぐねっと曲がって出てきた。その様があまりにも不格好で、周りや上の土を掻き分けたい衝動にかられるも、そこは自然に任せなさいと制止をされた。
そうしてようやく、双葉がみえた。
少し白くて、でも双葉は緑色。
自分が毎日水をあげて観察していた小さな命。
枯れないように壊さないように、これからも育てようと思った命だ。
それから何十年と経ち、私はお腹に小さな命を宿した。
小学一年生の時のアサガオの時も、神秘的だな、すごいな、と思ったけれど、命は本当に奇跡的で神秘的で魅力的なのだと、子どもの時でも大人になった今でも思う。
命は大なり小なり本当にすごいものなのだ。
【小さな命】
なんて薄っぺらくて、なんてつまらない言葉なんだろう?
愛してる、好きだ、なんて、口に出して言うことになんの意味があるのだろう。
かっこよく英語でLove you?尚更胡散臭さが増す。
私は知っている、あなたはいろんな女の子に、そんな浮いた言葉を使っていることを。
私だけじゃなく、色んな女の子を手玉にとって、愛してるよ、好きだよ、I LOVE YOU、なんて文面を送っていることを。
色んな女の子にじゃなく、その言葉は私だけにかけてほしいのに。私だけの人になってほしいのに。
あなたのLoveは軽すぎた。
明日は金曜日、資金調達も下調べも完了した。やっとこれで会いにいける。
本当の愛を届けに行くよ。言葉だけじゃない、文面だけじゃない好きを。
「ふふ、Love you……」
私はスマートフォンで彼のプロフィール画面を見て呟いた。
【Love you】
※【溢れる気持ち】の続き
元気で明るくて、それでもって周りを熱く盛り上げるようなそんな存在。それがノドカのパパであり、私の旦那。
よくいう、太陽のような存在だった。
太陽はいきなり雲に覆われ、見えなくなってしまった。
それまでその温かさになれてしまい、太陽がいないとこんなにも寒いものなのかと思い知らされた。
寒くなると心細くなり、自暴自棄になってしまう。梅雨時期の憂鬱に似ている。
やはり彼は、私の太陽だったのだ。
「ママ~?」
ノドカが不思議そうに声をかける。
私は一人でこの幼子を果たして育てられるのかも不安である。
「なーに?」
「にこにこ!」
ノドカは無邪気に笑ってみせる。
私の不安を察したのか、笑顔をふりまいてくれる。
あぁ、私には太陽がもう一つあったようだ。
旦那は雲に陰ったのではなく、海に沈んでしまったようだ。もうその日の出を拝むことはない。
でも新たに、ノドカという太陽のような存在が上ってきた。この太陽は手におえないくらいの暴風雨の時もあるけれど、ね。
【太陽のような】
※【勿忘草】の続き
何もない0からのスタートは、誰だって怖いものだ。
0から1にするには、ものすごいエネルギーを使う。
それも、どれだけエネルギーを使っても1に辿り着かない時だってある。
だから怖いのだ。
逆に1から0にすることもまた、怖いものである。
それまでようやく1として作り上げた土台の安定を崩すというのも、そのあとまた0になると分かっているだけに、0から1にする苦労を知っているだけに、怖いのだ。
人間関係にしても、転職にしても、引っ越しにしても、0からのスタートは、とても恐怖でとても疲れることである。
0からのスタートだからこその発見や楽しみもあるのだが、果たしてみんなはそれを見出だすことができるのだろうか。
0からのスタートに、光を見つけられれば、それは素晴らしいスタートであり、有意義に1を作り上げられるだろう。
【0からの】