喜村

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1/26/2023, 12:30:32 PM

 今日も残業、ようやく会社から解放され、もう日を跨ごうとしている。
車のエンジンをかけると、ラジオが流れてきた。
『時刻は深夜0時をまわりました。ミッドナイトラジオのお時間です』
 懐かしい、と、俺はラジオに耳を傾ける。

 学生時代、夜食のカップラーメンをすすりながら、よくこのラジオ番組を聞いていた。
今はやりの声優のラジオとかではなく、地元密着ラジオとかでもなく、ただ懐かしの歌謡曲や今話題の曲をなんとなく流しているような、そんな番組。
これといった目玉もないのに、まだこのラジオ番組は続いていたのかと驚いた。

 ただ何曲か音楽が流れるだけだったので、夜食のあとに続きの勉強をしたりしたっけ。聴きながら寝ていたこともあったな。
 あれから十年以上経ち、今じゃ仕事帰りに聞くラジオになってしまったのか、と、時の流れを感じた。
さすがに聞きながら寝るわけにも行かない、俺はミッドナイトラジオを聞きながら、ハンドルを握り、帰路へとついた。
 学生時代とは違うミッドナイトを感じながら。


【ミッドナイト】

1/25/2023, 12:54:55 PM

 入籍をした。その時は、これで別れることは容易ではなくなるので、すごく安心した。
 彼氏彼女の関係だった時は、いつ別れを告げられるのか、とか、浮気されたらどうしよう、とか、毎日毎日不安で仕方がなかった。
私自身がやましいことをしているわけではないのに、不安だった。

 入籍して、家族になったことで、浮気をしたら世間的にも立場がなくなるし、もう別れよう、と突発的に別れることはなくなる。
すごく安心した、はずだった。
 でも、世の中を見れば、不倫をしている人もいる訳だし、裏でこそこそと離婚の準備をしている人もいるらしいし。

……あれ?

 唐突に、安心が不安になった。
おかしいな、とっても嬉しいはずなのに、とっても怖い。
これが籍を入れるということなのだろうか。

【安心と不安】

1/24/2023, 12:17:41 PM

「ねぇ、お願いがあるんだけど」
 彼女が俺に声をかける。
俺はカメラを片手に、自分の彼女を被写体にしていたが、レンズの前にかけよってきた。
「何?」
「ここから撮って?」
 そういうと、彼女は波打ち際に立つ。
夕焼けが海に向かって落ちている。空が赤々と燃えているようだ。だがしかし、
「それだと逆光になって、お前の顔が映らなくなるよ」
「いいの!」
 彼女はバシャバシャと海辺へと入る。
「ほらー! 撮ってー?」
 大声で俺に頼む。
あまり乗り気ではなかったが、カメラを構える。
 波がキラキラと輝いている。本来なら同じくらい彼女も可愛いのに、やはり逆光で表情はわからない。
黒いシルエットが、夕日に照らされている。大きな赤く燃えた空に輝いている海、そこに彼女の黒いシルエットが、両手を広げている。
 表情は見えないはずなのに、なんでだろう、楽しそうにしている彼女が見えた気がした。
 自然と逆光と人物は、こんなに広大な画になるのか。
俺はシャッターを切ったあと、しばらく圧巻で呆けてしまった。


【逆光】

1/23/2023, 11:32:35 AM

 木漏れ日が地面を照らしている。
近くの小川のせせらぎが聞こえる。
遠くからは鳥のさえずりも聞こえた。
優しい風が体を包む。
少し歩けば山頂から広大な海も見えた。

 これは遠く昔の私の故郷の風景だ。

 アラームの電子音で目が覚める。
見慣れた天井、ほこりっぽい臭い。
カーテンを開けると行き交う人や車。
心なしか空気が濁っているように見える。
窓を開けると排気ガスの臭いと工事現場の騒音。

 都会も住めば都だと思っていた。
故郷にいた時は気づかなかったけど、今、故郷の夢を見て、あの時の良さを知る。
 こんな夢を見て、どこか私は、あそこに戻りたいと片隅にでも思っているのだろうか、と、考えさせられた。
 もう、あそこに戻ることはできないというのに。


【こんな夢を見た】

1/22/2023, 10:57:23 AM

 タイムマシーンを作ったから乗ってほしい?
 タイムマシーンがあったらどこに戻りたい?
どこぞの猫型ロボットのアニメの見すぎなのでは。

 俺はどこにも行きたくない。
過去にも未来にも大昔にも遠い先の未来にも。

 少し前に戻ってやり直したいとか、少し先に行って自分をみたいとか、大昔に戻って恐竜に遭いたいとか、遠い先の未来に行って宇宙をみたいとか。
そういうことは、一切考えないし、何より今で精一杯。

 きっと少し前に戻ってもあの時の俺が、それが最善だと思っていたのだろう。
少し先に行っても、自分の先を見たくもない。未来は今から俺が作るのだから。
 大昔に戻ったところで実体験として語ろうと誰が信じる? 遠い先の未来も同じ。

 タイムマシーンを作ろうと切磋琢磨しているその「今」は俺は評価したいけれど、実験体として乗れと言われたら、答えはノーだ。

【タイムマシーン】

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