喜村

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「ねぇ、お願いがあるんだけど」
 彼女が俺に声をかける。
俺はカメラを片手に、自分の彼女を被写体にしていたが、レンズの前にかけよってきた。
「何?」
「ここから撮って?」
 そういうと、彼女は波打ち際に立つ。
夕焼けが海に向かって落ちている。空が赤々と燃えているようだ。だがしかし、
「それだと逆光になって、お前の顔が映らなくなるよ」
「いいの!」
 彼女はバシャバシャと海辺へと入る。
「ほらー! 撮ってー?」
 大声で俺に頼む。
あまり乗り気ではなかったが、カメラを構える。
 波がキラキラと輝いている。本来なら同じくらい彼女も可愛いのに、やはり逆光で表情はわからない。
黒いシルエットが、夕日に照らされている。大きな赤く燃えた空に輝いている海、そこに彼女の黒いシルエットが、両手を広げている。
 表情は見えないはずなのに、なんでだろう、楽しそうにしている彼女が見えた気がした。
 自然と逆光と人物は、こんなに広大な画になるのか。
俺はシャッターを切ったあと、しばらく圧巻で呆けてしまった。


【逆光】

1/24/2023, 12:17:41 PM