夜明け前が一番の闇だと、どこかで聞いたことがある。
今から朝という清々しい幕開け前の、早朝5時頃。
今までの夜の暗さよりも、更に闇は深くなっていた。
今から朝という光が差し込むというのに、最後の悪あがきのように、深くなる闇。
このまま飲まれてしまう。そう思った時に、段々と空が白んでいくのだ。
夜と朝が共存できないように、光と闇も共存できないのだろう。
でも、逆の時間帯に、その共存の時間帯がある。
夕方だ。
闇が深くなる前、じんわりと光が最後の一力をだすかのように、段々と闇に溶けて行く。
夜明け前は、お互いの主張が激しい闇と光ではあるが、夕方は光と闇のうまく共存できている狭間なのかもしれない。
そして人は、その狭間の時間帯をえらく気に入っている。
闇に染まりたくない、光に飲まれたくない。
もしかしたら、人は皆、未完のものと言われているゆえんもそこにあるのではなかろうか。
どちらにも染まらず、完成はしない、染まりきれない狭間。
光と闇の狭間で、私たちは生きているのでは、と。
【光と闇の狭間で】
まだ自分が幼稚園の頃。
先生が好きすぎて、ずっとまとわりついていた。
でも、先生はみんなから大人気。
なんであの子としゃべってるの? その子はいじめられっこなのに。
小さい頃なりの強い嫉妬を覚えた。
親に甘えまくっていた時。
最初こそ、自分が長子だったから、とても優しく、なんでもお願いも聞き入れてくれた。
でもいつしか、弟がうまれ、愛情がまるっきり感じられなくなって。
初めて身内にまで強い嫉妬を覚えた。
近付いてしまうから、こんな気持ちになるんだ。
塾とバイトでは好きな人ができた。
幼少期の近付きすぎを踏まえ、遠く離れた場所から好きな人を見ていた。
すると、好きな人に近付く他の異性が気になり始めた。そのまま付き合うパターンも見せつけられた。
自分は思いを伝えることもできず、ただただ辛いだけであった。
近付き過ぎると、ヒートアップして攻撃しそうになる。
遠すぎると、思いを募らすだけで進展がなく虚しくなる。
適度な距離、それは一体、どのくらいの距離なのだろう?
【距離】
好き同士で別れてしまったら、いいことなんてない、って聞いていたけど、本当だね。
お互いの夢のために、二年半付き合っていた彼女と別れた。
付き合ったのは、高校一年生の夏祭りの時。打ち上げ花火を見ながら
「もし、俺が付き合いたいって言ったらどうする?」
と、いう問いに、赤面しながら小さな声で、いいよ、と答えてくれたのが昨日のことのようだ。
それから大きな喧嘩もせず、体育祭や文化祭、修学旅行も、二人だけの思い出も作った。
でも、高校三年生に上がってからの君は、ずっと泣いていたね。
戸惑う俺に、君が言った。
「外国の学校に行って、ハリウッドとかのメイクアップアーティストになりたい」
ずっと思っていたのに、俺が枷になっていたのかな?
受験が近づくにつれて、卒業が近づくにつれて、君は毎日のように泣いていた。
泣かないで、そう言っても辛いだけのようで。
「……別れよっか、で、夢が叶ったら、また付き合ってくれないかな? 俺も、お笑い芸人の夢、叶えるから!」
そう言って、別れて早半年。
別れていても、毎日電話をしている。電話越しで、毎日泣いているね。
「泣かないで……」
「じゃぁ、泣き止むようなネタしてみてよ」
「えぇ……」
彼女を泣き止ませることができるネタができたら、俺も夢が叶う気がする。
今はまだ無理だから、口で、泣かないで、としか言えないけれど。
俺も、がんばる。
【泣かないで】
外が暗くなるのが早くなった、朝日が昇るのが遅くなった。
なんだか乾燥し始めた、朝晩が寒くなった。
そういう気候の変化で、あぁ、冬が始まったな、と思うのはごくごく普通。
冬のはじまりは、秋のおわり。
時期的に、ハロウィーンが終わると冬の足音が聞こえ始める。
クリスマスソングやイルミネーションが始まったら、最早、冬。
私的、気候的でも時期的でもない、冬のはじまりはこうだ。
ふらっと入るコンビニエンスストア。
その時、アイスクリームを意欲的に手に取らなくなると、あれ? もう冬かも?、と、思う。
毎週火曜日に新作のアイスクリームが出ても、夏場なら悩みまくって、あわよくばストックも買おうと思っていたのに、そんな感情がわかなくなった。
肉マンやおでんに目が行く、ホット飲料を買う……それはもう、冬の感じが強いけど。
アイスクリームを積極的に買わなくなった、が、個人的冬のはじまりである。
【冬のはじまり】
私の主は、創作家である。
特に、恋愛小説を書いている。
私は、今、主の書いている小説のヒロイン。
ただ、ここ1ヶ月程更新がない。
スランプなのかな?
現在、主人公の男の子と喧嘩をしてしまい、お互い好きだけどすれ違っている最中。
早くあの子に謝りたいのに! そして、あの子と付き合いたいのに! 主は一体、何を戸惑っているの!?
教室の窓際の席で、ぼんやりとあの子の事を思い続けながら早1ヶ月……。
「もうこの体勢飽きたね……」
教室の黒板を穴があくくらい見つめている、隣の席の女の子が、口だけ開いた。
「あなたもずっと空ばっかりみてて、首疲れるでしょ?」
「作品が更新されないとずっとこのままだから……仕方ないよ……」
そして、この恋も、このまま進展しない。
「知ってる? うちらの主の作者、今別の執筆始めて、そっちに集中してるらしいよ?」
「え?」
私は頭を動かさず、信じられない、と言ったように声を出した。
「このままうちらの設定忘れて、うちらのこと忘れちゃうかもね」
私の頭の中が真っ白になった。何も言えない。
それじゃあ、この私の恋は喧嘩をして終了? 何もなかったことになるの? 私、この作品のヒロインだよね?
嫌だ、終わらせないで。
お願い、主! 私達のことを作ったのは主だよね?
ちゃんと最後まで描いて! こんなところで終わらせないで!
未完の私達のことを! 作品であなたの帰りを待っている登場人物のことを! 忘れないで!
【終わらせないで】