好き同士で別れてしまったら、いいことなんてない、って聞いていたけど、本当だね。
お互いの夢のために、二年半付き合っていた彼女と別れた。
付き合ったのは、高校一年生の夏祭りの時。打ち上げ花火を見ながら
「もし、俺が付き合いたいって言ったらどうする?」
と、いう問いに、赤面しながら小さな声で、いいよ、と答えてくれたのが昨日のことのようだ。
それから大きな喧嘩もせず、体育祭や文化祭、修学旅行も、二人だけの思い出も作った。
でも、高校三年生に上がってからの君は、ずっと泣いていたね。
戸惑う俺に、君が言った。
「外国の学校に行って、ハリウッドとかのメイクアップアーティストになりたい」
ずっと思っていたのに、俺が枷になっていたのかな?
受験が近づくにつれて、卒業が近づくにつれて、君は毎日のように泣いていた。
泣かないで、そう言っても辛いだけのようで。
「……別れよっか、で、夢が叶ったら、また付き合ってくれないかな? 俺も、お笑い芸人の夢、叶えるから!」
そう言って、別れて早半年。
別れていても、毎日電話をしている。電話越しで、毎日泣いているね。
「泣かないで……」
「じゃぁ、泣き止むようなネタしてみてよ」
「えぇ……」
彼女を泣き止ませることができるネタができたら、俺も夢が叶う気がする。
今はまだ無理だから、口で、泣かないで、としか言えないけれど。
俺も、がんばる。
【泣かないで】
外が暗くなるのが早くなった、朝日が昇るのが遅くなった。
なんだか乾燥し始めた、朝晩が寒くなった。
そういう気候の変化で、あぁ、冬が始まったな、と思うのはごくごく普通。
冬のはじまりは、秋のおわり。
時期的に、ハロウィーンが終わると冬の足音が聞こえ始める。
クリスマスソングやイルミネーションが始まったら、最早、冬。
私的、気候的でも時期的でもない、冬のはじまりはこうだ。
ふらっと入るコンビニエンスストア。
その時、アイスクリームを意欲的に手に取らなくなると、あれ? もう冬かも?、と、思う。
毎週火曜日に新作のアイスクリームが出ても、夏場なら悩みまくって、あわよくばストックも買おうと思っていたのに、そんな感情がわかなくなった。
肉マンやおでんに目が行く、ホット飲料を買う……それはもう、冬の感じが強いけど。
アイスクリームを積極的に買わなくなった、が、個人的冬のはじまりである。
【冬のはじまり】
私の主は、創作家である。
特に、恋愛小説を書いている。
私は、今、主の書いている小説のヒロイン。
ただ、ここ1ヶ月程更新がない。
スランプなのかな?
現在、主人公の男の子と喧嘩をしてしまい、お互い好きだけどすれ違っている最中。
早くあの子に謝りたいのに! そして、あの子と付き合いたいのに! 主は一体、何を戸惑っているの!?
教室の窓際の席で、ぼんやりとあの子の事を思い続けながら早1ヶ月……。
「もうこの体勢飽きたね……」
教室の黒板を穴があくくらい見つめている、隣の席の女の子が、口だけ開いた。
「あなたもずっと空ばっかりみてて、首疲れるでしょ?」
「作品が更新されないとずっとこのままだから……仕方ないよ……」
そして、この恋も、このまま進展しない。
「知ってる? うちらの主の作者、今別の執筆始めて、そっちに集中してるらしいよ?」
「え?」
私は頭を動かさず、信じられない、と言ったように声を出した。
「このままうちらの設定忘れて、うちらのこと忘れちゃうかもね」
私の頭の中が真っ白になった。何も言えない。
それじゃあ、この私の恋は喧嘩をして終了? 何もなかったことになるの? 私、この作品のヒロインだよね?
嫌だ、終わらせないで。
お願い、主! 私達のことを作ったのは主だよね?
ちゃんと最後まで描いて! こんなところで終わらせないで!
未完の私達のことを! 作品であなたの帰りを待っている登場人物のことを! 忘れないで!
【終わらせないで】
あなたは私をよく撫でてくれた。
たまに鬱陶しくて、それを私は避けていた。
飼い主とかならいいけど、私は野良。優しくされる筋合いはない。
でも、あなたがよくもってくる、あの◯~る、あれはずるい。あれがほしくて、私も私であなたの元へとよってしまう。
私があれを食べている隙をついて、私のあちこちを撫で回す。
いや、ゆっくり落ち着いて食べさせて下さいよ。
ふふふ、と、あなたは笑った。
愛おしそうに、何やら機械でぱしゃぱしゃと私を撮っていた。
子猫ならまだしも、この世に生を受けて5年以上の私をそんなに撮影して、何が面白いのだろう。
またくるね、とあなたは言った。
また◯~るをよろしくね、と手を振るあなたに向かって私はないた。
次の日は来なかった。また次の日もこなかった。気付けば一週間ほど来ず、吐く息が白くなるくらい冷え込む季節になっていた。
野良人生もそこそこ経験しているので、食べ物に不自由はしていないのだが……
寒い。
季節柄も寒いのだが、何故だろう、一人になれているのに、心も寒い……?
「ごめんねー! テスト期間中で来れなかったー!」
忘れた頃に、あなたはパタパタと駆けてきた。
「寒くなってきたから毛布持ってきたんだ~、木の側において置くね! ここが君のポジションだよね?」
お、おう、よく分かっているじゃないか。
そうそう、その久々の◯~るも待ってました。
私はあなたにすり寄る。
「かわい~!」
一人でも生きていけると思った。
でも、あなたから貰える、エサも毛布もないと寂しいと気付いた。
いや、モノだけではなく、その撫でくり回す手からは、温かなモノを感じていた。これが、愛情、なのだろうか?
私は、にゃあとないた。
【愛情】
朝からセミが騒がしくないている。
その音が自然のアラーム音として、目が覚めてしまった。
(あぢぃ……)
セミのなき声の次に感じたのは暑さ。
本日、8月30日。
最早9月になろうというのに、この暑さはなんだ。
クーラーのおはようタイマーは早朝6時にセットしていたにも関わらず、それより先に起きてしまったようだ。
エアコンの機械音はまだしていない。
まずはエアコンのスイッチを次にテレビのスイッチをつける。
『本日の関東の最高気温は42度となるでしょう』
テレビからそんな声が聞こえた。一昔前ならば、驚きの気温だろうが、今はこれがふつうである。
中々夜にも気温は下がらず、そのまま翌朝へとうつるパターン。
エアコンの現在の温度を見ると、37度。
「微熱かよ、体温じゃん……」
寝起きのがらがら声で、本日の第一声を自分は出した。
それよりセミのこえの方が、何倍も元気であった。
【微熱】