喜村

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11/30/2022, 11:53:21 AM

 好き同士で別れてしまったら、いいことなんてない、って聞いていたけど、本当だね。
 お互いの夢のために、二年半付き合っていた彼女と別れた。

 付き合ったのは、高校一年生の夏祭りの時。打ち上げ花火を見ながら
「もし、俺が付き合いたいって言ったらどうする?」
と、いう問いに、赤面しながら小さな声で、いいよ、と答えてくれたのが昨日のことのようだ。

 それから大きな喧嘩もせず、体育祭や文化祭、修学旅行も、二人だけの思い出も作った。

 でも、高校三年生に上がってからの君は、ずっと泣いていたね。
 戸惑う俺に、君が言った。
「外国の学校に行って、ハリウッドとかのメイクアップアーティストになりたい」
 ずっと思っていたのに、俺が枷になっていたのかな?

 受験が近づくにつれて、卒業が近づくにつれて、君は毎日のように泣いていた。
 泣かないで、そう言っても辛いだけのようで。

「……別れよっか、で、夢が叶ったら、また付き合ってくれないかな? 俺も、お笑い芸人の夢、叶えるから!」

 そう言って、別れて早半年。
別れていても、毎日電話をしている。電話越しで、毎日泣いているね。

「泣かないで……」
「じゃぁ、泣き止むようなネタしてみてよ」
「えぇ……」

 彼女を泣き止ませることができるネタができたら、俺も夢が叶う気がする。
今はまだ無理だから、口で、泣かないで、としか言えないけれど。
 俺も、がんばる。

【泣かないで】

11/29/2022, 12:32:33 PM

 外が暗くなるのが早くなった、朝日が昇るのが遅くなった。
なんだか乾燥し始めた、朝晩が寒くなった。
 そういう気候の変化で、あぁ、冬が始まったな、と思うのはごくごく普通。

 冬のはじまりは、秋のおわり。
時期的に、ハロウィーンが終わると冬の足音が聞こえ始める。
クリスマスソングやイルミネーションが始まったら、最早、冬。

 私的、気候的でも時期的でもない、冬のはじまりはこうだ。

 ふらっと入るコンビニエンスストア。
その時、アイスクリームを意欲的に手に取らなくなると、あれ? もう冬かも?、と、思う。
 毎週火曜日に新作のアイスクリームが出ても、夏場なら悩みまくって、あわよくばストックも買おうと思っていたのに、そんな感情がわかなくなった。

 肉マンやおでんに目が行く、ホット飲料を買う……それはもう、冬の感じが強いけど。
アイスクリームを積極的に買わなくなった、が、個人的冬のはじまりである。

【冬のはじまり】

11/28/2022, 11:36:48 AM

 私の主は、創作家である。
特に、恋愛小説を書いている。
 私は、今、主の書いている小説のヒロイン。
ただ、ここ1ヶ月程更新がない。

 スランプなのかな?

 現在、主人公の男の子と喧嘩をしてしまい、お互い好きだけどすれ違っている最中。
 早くあの子に謝りたいのに! そして、あの子と付き合いたいのに! 主は一体、何を戸惑っているの!?
 教室の窓際の席で、ぼんやりとあの子の事を思い続けながら早1ヶ月……。

「もうこの体勢飽きたね……」
 教室の黒板を穴があくくらい見つめている、隣の席の女の子が、口だけ開いた。
「あなたもずっと空ばっかりみてて、首疲れるでしょ?」
「作品が更新されないとずっとこのままだから……仕方ないよ……」
 そして、この恋も、このまま進展しない。
「知ってる? うちらの主の作者、今別の執筆始めて、そっちに集中してるらしいよ?」
「え?」
 私は頭を動かさず、信じられない、と言ったように声を出した。
「このままうちらの設定忘れて、うちらのこと忘れちゃうかもね」

 私の頭の中が真っ白になった。何も言えない。
それじゃあ、この私の恋は喧嘩をして終了? 何もなかったことになるの? 私、この作品のヒロインだよね?

 嫌だ、終わらせないで。
お願い、主! 私達のことを作ったのは主だよね?
ちゃんと最後まで描いて! こんなところで終わらせないで!
 未完の私達のことを! 作品であなたの帰りを待っている登場人物のことを! 忘れないで!


【終わらせないで】

11/27/2022, 10:19:12 AM


 あなたは私をよく撫でてくれた。
たまに鬱陶しくて、それを私は避けていた。

 飼い主とかならいいけど、私は野良。優しくされる筋合いはない。
 でも、あなたがよくもってくる、あの◯~る、あれはずるい。あれがほしくて、私も私であなたの元へとよってしまう。

 私があれを食べている隙をついて、私のあちこちを撫で回す。
いや、ゆっくり落ち着いて食べさせて下さいよ。

 ふふふ、と、あなたは笑った。
愛おしそうに、何やら機械でぱしゃぱしゃと私を撮っていた。
子猫ならまだしも、この世に生を受けて5年以上の私をそんなに撮影して、何が面白いのだろう。

 またくるね、とあなたは言った。
また◯~るをよろしくね、と手を振るあなたに向かって私はないた。

 次の日は来なかった。また次の日もこなかった。気付けば一週間ほど来ず、吐く息が白くなるくらい冷え込む季節になっていた。
 野良人生もそこそこ経験しているので、食べ物に不自由はしていないのだが……

 寒い。

 季節柄も寒いのだが、何故だろう、一人になれているのに、心も寒い……?

「ごめんねー! テスト期間中で来れなかったー!」

 忘れた頃に、あなたはパタパタと駆けてきた。

「寒くなってきたから毛布持ってきたんだ~、木の側において置くね! ここが君のポジションだよね?」

 お、おう、よく分かっているじゃないか。
そうそう、その久々の◯~るも待ってました。
 私はあなたにすり寄る。

「かわい~!」

 一人でも生きていけると思った。
でも、あなたから貰える、エサも毛布もないと寂しいと気付いた。
いや、モノだけではなく、その撫でくり回す手からは、温かなモノを感じていた。これが、愛情、なのだろうか?

 私は、にゃあとないた。


【愛情】

11/26/2022, 11:25:21 AM

 朝からセミが騒がしくないている。
その音が自然のアラーム音として、目が覚めてしまった。

(あぢぃ……)

 セミのなき声の次に感じたのは暑さ。
 本日、8月30日。
最早9月になろうというのに、この暑さはなんだ。
 クーラーのおはようタイマーは早朝6時にセットしていたにも関わらず、それより先に起きてしまったようだ。
エアコンの機械音はまだしていない。

 まずはエアコンのスイッチを次にテレビのスイッチをつける。

『本日の関東の最高気温は42度となるでしょう』

 テレビからそんな声が聞こえた。一昔前ならば、驚きの気温だろうが、今はこれがふつうである。
中々夜にも気温は下がらず、そのまま翌朝へとうつるパターン。
 エアコンの現在の温度を見ると、37度。

「微熱かよ、体温じゃん……」

 寝起きのがらがら声で、本日の第一声を自分は出した。
それよりセミのこえの方が、何倍も元気であった。



【微熱】

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