星乃威月

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6/3/2025, 9:05:11 AM

突然の土砂降り

慌てて軒先に駆け込むが、止む気配はない

服は、ずぶ濡れ

天気予報も当てにならない


『折り畳み傘、持ってくれば良かった……』

後悔しても、もう遅い

暫く、雨上がりを待つことにした


タッタッタッタッ……

項垂れてると、駆け足の音が、こちらに近づいてくる

「あーっ!参ったーっ!やられたー‼」

男性の声


見ると、かなり長い間、雨に打たれてたのか、

服が、ずぶ濡れになりながら、走っていた


「こんな天気になるなんて、言ってなかったじゃん‼」


多分、天気予報士に対しての独り言だろう……

私と同じ反応に、クスッと笑ってしまった


「なに?にやけて、やけに楽しそうじゃん?」

「センパ……」

驚いた

顔を伏せてたから、誰だか分からなかったが、

まさか、上司だったとは……


「お互い、傘を忘れるなんて、奇遇だね~
 これじゃあ、怒るに怒れないな」

「センパイこそ、
 後輩の目の前で、恥見られて、恥ずかしくないんですか?」

「恥ずかしくは、ないが……」

と、目をキョロキョロ泳がせている


「せ、センパイは、彼女とか、居ないんですか?
 このくらい、我慢して下さい!
 私だって、他に行き場がないんですから‼」

「も、申し訳ない……
 なかなか、雨に打たれる事、ないもんで……」

「いいから、向こうを向いててください‼」

気恥ずかしい……

どう見られてるのかは分からないが、

姿見がない以上、直すにも直せない……


「お二人さん、お困りかね?」

突然、背後から声がした


「おばあさん!もしかして、聞こえてましたか?」

「うるさくって、すみません……
 突然の雨に打たれてしまって、
 暫く、雨宿りさせて下さいませんか?」

「いやいや、いいんだよ~ぉ
 しかし、お二人さん、お急ぎじゃろ?
 傘をやるよ」

「「い、いいんですか⁉」」

「ホ、ホ、ホ、息ピッタリじゃの~?ほれ」


手渡されたのは、1本の雨傘だった


「失礼ですが、もう1本、貸して頂くことは……?」

「申し訳ないが、今貸せるのは、これだけでのぉ
 他は使われて、手元に無いのじゃ
 申し訳ないのぉ……」

「そ、そうですか……」


途方に暮れる2人

仕方なく、1本でどうにかすることにした


「お貸し頂いて、本当に有難う御座います
 必ず、返しに来ますから!」

「いやいや、いいんじゃよ
 ワシは、お留守番じゃから、気にせんでええ」

「そうは言われましても……」

と、困り果てる2人


「何があったかは分からんが、仲良くしいや
 ホ、ホ、ホ」

「あ、有難う御座います……」


妙な気遣いをされ、

私たちは、その場に居続ける訳にもいかず、

1本の雨傘を、2人でシェアすることにした


誰からも見られてない事を祈って……




ー傘の中の秘密ー

5/29/2025, 5:01:12 AM

皆のように

さらさらと描けるなら

苦労はしない


例え絵であろうと

小説の描写であろうと

私には

描けないのだから




ーさらさらー

5/16/2025, 2:52:48 AM

シンと静まった真っ暗な会場に、突然とスポットライトが当たる

キラキラと光るのは、グランド・ピアノ

美しいドレスに身を包んだ女性が、一礼して、席に着く


両手を鍵盤に乗せた後、フウッと一呼吸を置いた

ダーン、ギャーン、ダッダッダ、ダッダッダ~♪

ピアノが鳴るや否や、一瞬にして心臓が震え、手に汗を握る

彼女の動きに、目が離せない


確かに、暗闇で、演奏を聞いてるだけのはず

が、彼女の奏でる旋律には、熱意や希望に満ち満ちた光を感じた


なんて光景なんだ……

青々とした木々、川のせせらぎ、鳥の囀ずり

まるで、森の中をゆったり歩いては、移り変わる景色のような

時に、勇ましい波の音、荒れ狂う嵐にも襲われるが

その中には、彼女の奏でる旋律に、生きる希望の光があった


まだ終わらない、まだ終わりじゃない

彼女の奏でる旋律は、演奏後も、私の胸の中で根付いていた



ー光輝け、暗闇でー

5/15/2025, 3:46:59 AM

身体には不可欠な酸素

もし、世界から酸素がなくなったら……

と、考える時がある


もしも、酸素がこの世からなくなったら

たちまち、世界は死の世界へと変貌するだろう


オゾン層は破壊され、太陽の熱波は直に大地へと降り注ぎ

南極、北極の氷は溶け、得体の知れない微生物が放出されるが

もはや死の海と化した酸素のない海では、生存できないだろう


それは、海に生息してた魚介類や海藻類にも言える

たちまち海水面は上昇するが、もはや温水

湧き出た蒸気によって、雨雲は絶えず発生

酸素を含まない温水の雨が降り、地上に死の雨をもたらすだろう


地上も地上だ

酸素がなくなるということは、植物が全滅

すなわち、地に水を溜める機能が失われ

常に、熱風が吹き、地表が砂漠化になる事を示す


植物が生存できない世界では、酸素が作られない

もはや動植物の生存も、不可能であろう


もし、生存できてたとしても、

地上の灼熱地獄と脱水症状に耐えられず、

数時間と持たずして、死に至るだろう


水も、水として存在できておらず、

得体の知れない死の液体として、存在してるのだろう


そう考えると、必然とガスで覆われた木星が想像できる

もしかしたら、

母なる海で覆われた地球の未来は、木星なのかもしれない


もしも、世界から酸素がなくなったらを考えてみたが

考えれば考えるほど、酸素の重要性が分かってくる

酸素は、命の源でもある



ー酸素ー

5/13/2025, 11:24:07 AM

俺は突然

海に投げ出された


沸き立つ波飛沫

沈み行く身体

踠いても踠いても

重く重く沈み行く


" 嫌だ‼ 死にたくない! "


無我夢中で掻き分ける海水


いつしか軽さを増してゆき

目の前を

桜の花びらが掠めた


" えっ……? "


目を見開くと

まだ幼い頃の私と

その手を引く

今なき祖父


その笑顔は

満開に咲き誇る桜よりも

優しく

暖かさで満たされていた


" じい……ちゃん…… "

ボコボコボコ……


目の前が気泡に遮られ

真っ白になる


" シーツ……? "


とある病室


真っ白なシーツの布団に横たわる

頭に包帯を巻いた

母の姿が


" かあ……さん…… "


今では元気に復帰したが


当時は死んでても可笑しくなかったと

医者から宣告されたほど

事故の傷は生々しかった


" あの時は、
 なぜ俺じゃないんだと、責めてたな…… "

ボコボコボコ……


再び気泡に遮られる

今度は……


" だ……れ……? "


複数の人影が

ユラユラと揺れている

その姿は鮮明さを増し


" ……みんなっ‼ "


学生になった頃

お世話になった先生や友達

先輩や後輩

他校の友達などが

ユラユラと

鮮明さを増しては消えを

繰り返しては

代わる代わる

人が表れるのだ


" もう、会えないと思ってたのに…… "


小学生の頃に転校してったユウジ

その声も忘れかけてたのに


『また会おうって、言ったじゃないか』


と、ニコッと笑みを浮かべる


ああ、あの時から始まってたんだ

出逢いも別れも

その全てが

俺として生きる使命を

与えてくれたんだと


生きる希望を失いかけてた今

俺は

皆のためにも

生き直してみたいと思えた




ー記憶の海ー

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