突然の土砂降り
慌てて軒先に駆け込むが、止む気配はない
服は、ずぶ濡れ
天気予報も当てにならない
『折り畳み傘、持ってくれば良かった……』
後悔しても、もう遅い
暫く、雨上がりを待つことにした
タッタッタッタッ……
項垂れてると、駆け足の音が、こちらに近づいてくる
「あーっ!参ったーっ!やられたー‼」
男性の声
見ると、かなり長い間、雨に打たれてたのか、
服が、ずぶ濡れになりながら、走っていた
「こんな天気になるなんて、言ってなかったじゃん‼」
多分、天気予報士に対しての独り言だろう……
私と同じ反応に、クスッと笑ってしまった
「なに?にやけて、やけに楽しそうじゃん?」
「センパ……」
驚いた
顔を伏せてたから、誰だか分からなかったが、
まさか、上司だったとは……
「お互い、傘を忘れるなんて、奇遇だね~
これじゃあ、怒るに怒れないな」
「センパイこそ、
後輩の目の前で、恥見られて、恥ずかしくないんですか?」
「恥ずかしくは、ないが……」
と、目をキョロキョロ泳がせている
「せ、センパイは、彼女とか、居ないんですか?
このくらい、我慢して下さい!
私だって、他に行き場がないんですから‼」
「も、申し訳ない……
なかなか、雨に打たれる事、ないもんで……」
「いいから、向こうを向いててください‼」
気恥ずかしい……
どう見られてるのかは分からないが、
姿見がない以上、直すにも直せない……
「お二人さん、お困りかね?」
突然、背後から声がした
「おばあさん!もしかして、聞こえてましたか?」
「うるさくって、すみません……
突然の雨に打たれてしまって、
暫く、雨宿りさせて下さいませんか?」
「いやいや、いいんだよ~ぉ
しかし、お二人さん、お急ぎじゃろ?
傘をやるよ」
「「い、いいんですか⁉」」
「ホ、ホ、ホ、息ピッタリじゃの~?ほれ」
手渡されたのは、1本の雨傘だった
「失礼ですが、もう1本、貸して頂くことは……?」
「申し訳ないが、今貸せるのは、これだけでのぉ
他は使われて、手元に無いのじゃ
申し訳ないのぉ……」
「そ、そうですか……」
途方に暮れる2人
仕方なく、1本でどうにかすることにした
「お貸し頂いて、本当に有難う御座います
必ず、返しに来ますから!」
「いやいや、いいんじゃよ
ワシは、お留守番じゃから、気にせんでええ」
「そうは言われましても……」
と、困り果てる2人
「何があったかは分からんが、仲良くしいや
ホ、ホ、ホ」
「あ、有難う御座います……」
妙な気遣いをされ、
私たちは、その場に居続ける訳にもいかず、
1本の雨傘を、2人でシェアすることにした
誰からも見られてない事を祈って……
ー傘の中の秘密ー
6/3/2025, 9:05:11 AM