星乃威月

Open App

俺は突然

海に投げ出された


沸き立つ波飛沫

沈み行く身体

踠いても踠いても

重く重く沈み行く


" 嫌だ‼ 死にたくない! "


無我夢中で掻き分ける海水


いつしか軽さを増してゆき

目の前を

桜の花びらが掠めた


" えっ……? "


目を見開くと

まだ幼い頃の私と

その手を引く

今なき祖父


その笑顔は

満開に咲き誇る桜よりも

優しく

暖かさで満たされていた


" じい……ちゃん…… "

ボコボコボコ……


目の前が気泡に遮られ

真っ白になる


" シーツ……? "


とある病室


真っ白なシーツの布団に横たわる

頭に包帯を巻いた

母の姿が


" かあ……さん…… "


今では元気に復帰したが


当時は死んでても可笑しくなかったと

医者から宣告されたほど

事故の傷は生々しかった


" あの時は、
 なぜ俺じゃないんだと、責めてたな…… "

ボコボコボコ……


再び気泡に遮られる

今度は……


" だ……れ……? "


複数の人影が

ユラユラと揺れている

その姿は鮮明さを増し


" ……みんなっ‼ "


学生になった頃

お世話になった先生や友達

先輩や後輩

他校の友達などが

ユラユラと

鮮明さを増しては消えを

繰り返しては

代わる代わる

人が表れるのだ


" もう、会えないと思ってたのに…… "


小学生の頃に転校してったユウジ

その声も忘れかけてたのに


『また会おうって、言ったじゃないか』


と、ニコッと笑みを浮かべる


ああ、あの時から始まってたんだ

出逢いも別れも

その全てが

俺として生きる使命を

与えてくれたんだと


生きる希望を失いかけてた今

俺は

皆のためにも

生き直してみたいと思えた




ー記憶の海ー

5/13/2025, 11:24:07 AM