〇自転車に乗って
貴方はもう忘れたかしら。
学生の頃だから、50年くらい前のこと。
あぜ道を自転車で走りましたね。
あんな細い道を、しかも2人乗りで。
私は覚えています。
あぜ道だから舗装などされていなくて、ガタガタと自転車は大きく揺れるものだから、私は強く貴方を抱き締めた。
貴方は何も言わなかったけれど、
私の腕から貴方の熱が伝わってきて。
また貴方の背中と夕日が重なるものだから、
眩しい、そう思ったの。
あれから私達はずっとそばにいて、
私は何度も貴方に恋をした。
先に貴方はいってしまったけれど、
もうすぐ私も会いに行きますので。
また自転車に乗せて貰えたら嬉しいです。
〇夜の海
海は好きじゃない。特に夜の海とか。
好きじゃないというか怖い。
波の音で私を暗い水底まで誘っているようで。
潮の香りが人の汗の匂いのように感じてしまって。
それでも私は海を求めてしまうから。
人間って不思議。
終点+麦わら帽子
知らない駅に降りた。
駅と言っても、駅名も時刻表も改札もない。
地に足をつければもう、辺り1面小さな花々が咲き誇る何とも不思議な場所だった。
振り返ると既に電車はいなくなっていて、代わりに麦わら帽子を被る少女がいた。
麦わら帽子で顔はハッキリとは見えなかったが、
僕はなんだか見覚えのあるような気がして。
僕は走って少女に近づいた。
そして目の前まで近づいた後、思い切り少女を抱き締めた。
夏に似合うジャスミンの香り。
そう少女は僕の、
会いたかった。
私もよ。
知らない駅に降りた。
けれどもう電車は来ない。
ここはもう終着点なのだから。
上手くいかなくたっていい
信じる心があれば、とか綺麗事いうんでしょ。
私が知ってる物語にはそういう場面があって。
大体主人公がそんなセリフを吐く。
でも不思議だね。
現実で言われたら凄く傷つくだろうに、
物語の主人公が言ってたら凄く嬉しいの。
なんだか切ないね。
鐘の音が聞こえる。
近くの教会で結婚式を挙げているようだった。
貴方が守ったこの国で、今日も誰かが幸せになっている。
私も貴方と結婚したかった。
夢の中の私は看護師。
患者も私。
看護師の私は、病室で眠っている私の首を思いきり締める。患者の私はとても苦しそうで、芋虫のように気持ち悪く動いていた。
それでも私は無我夢中で、更に指に力を込める。
やがて私が動かなくなると、満足して私は私をベットから引きずり下ろし、窓から落とした。
患者の私は、会社の制服を着ていた。
そして看護師の私も、会社の制服を着ていた。
やがて看護師の私は、病室のベットに入り、眠りにつく。
明日もきっと同じ夢を見る。
同じことを繰り返す。
早く仕事を辞めたい。