夢の中の私は看護師。
患者も私。
看護師の私は、病室で眠っている私の首を思いきり締める。患者の私はとても苦しそうで、芋虫のように気持ち悪く動いていた。
それでも私は無我夢中で、更に指に力を込める。
やがて私が動かなくなると、満足して私は私をベットから引きずり下ろし、窓から落とした。
患者の私は、会社の制服を着ていた。
そして看護師の私も、会社の制服を着ていた。
やがて看護師の私は、病室のベットに入り、眠りにつく。
明日もきっと同じ夢を見る。
同じことを繰り返す。
早く仕事を辞めたい。
……20XX年、明日で地球は終わりを迎える。
もし明日晴れたらどうする、そう貴方に聞いた。
そしたら貴方、僕達は明日死ぬんだよって、真面目な顔して言うんだもの。
私思わず笑ってしまったわ。
だって私達は死なないの。
いつか地球はまた生まれる。
そして新しい命に、私達の魂が吹き込まれる。
動物かもしれないし、植物か、もしかしたらミジンコかもしれない。
けれど、私達はそうして何かに生まれ変わって、また会えるの。
会えたら私、貴方を抱きしめて言うの。
今日はいい天気ねって。
そしたら沢山遊んで、沢山お話するわ。
ね、もう一度聞いていい。
もし明日晴れたらどうしたい。
ねぇ、アタシのこと誘ってみせてよ。
どうしたんだい。突然。
アタシだって、乙女なの。月が綺麗ですね位、言って欲しいわ。
キミが、乙女ね。
何がおかしいの。
ごめんごめん。じゃあ月が綺麗ですね。
ダメよ。もうアタシが言ってしまったもの。
好きです。
ダメ。
愛してる。
ダメ。
たとえ嵐が来ようとも君を守るよ。
ダメね。
はは。手厳しいな。
貴方なら、手慣れていると思っていたのに。残念だわ。
残念だけれど。僕は手慣れてなんかいないよ。
ふーん。
僕は好いた女の、爪先にすら触れられない。
キミが想像している男であったなら、
今頃僕は、獣になっているだろうね。
獣。けもの、ね。
そうだ。
僕は今もキミの手に触れたいと思っている。
欲を言ってしまえば、キミを喰いたい。
唇だけじゃない。頭から足のつま先まで、
しゃぶりつきたいくらいに。
……。まぁ、次第点てところかしら。
もう帰るのかい。
そうよ、貴方の家に。
僕の家にかい。
そう。
さっきの口説き文句の返事のつもりなんだけれど。
さっきの。
鈍いわね。
アタシ、貴方になら喰われてもいいと言っているの。でも残さずに食べてね。
残さずに、よ。
・鳥かご
・それが誰かのためになるなら+神様が舞い降りてきて、こう言った
○鳥かご
鳥かごを買った。
1ケース五千円。
鳥を飼う予定は、ない。
1
スーパーの帰り道だった。
今日はこのまま家に帰るのが、嫌で。
その気持ちから逃げるように、私は雑貨屋に寄り道をした。その時に見つけたのが、この鳥かごだった。
良く言えば運命的。
悪く言えば衝動的だった。
アンティーク調でクリーム色が可愛かったから。
そんな理由で、鳥を飼う予定などないのに買ってしまったのだった。
2
家に着いた頃には、時計の針は8を指していた。
あの人は帰って来ていない。
だから、いつも通り自分の夕飯だけ準備をする。
今日はやる気が出なくてスーパーの弁当。そして、缶ビールを3本。
その内の1本は、家に帰る途中に空けてしまった。だから、酔っているのかもしれない。私は鳥かごをテーブルの上においてまじまじと観察を始めた。けれど、結局鳥かごは鳥かごだった。
私は、少し期待していたみたいだった。
ちょっぴり悲しい。鳥かごなのか、あの人に対してかは分からない。
分からないのが、もっと寂しかった。
3
ゴーン……ゴーン……。
日付が変わる音がした。
私はいつの間にか眠っていたようだった。
結局あの人は帰ってこなかった。
昨日は結婚記念日だった。
あの人は鳥なのね。
そんな事を思った。
あの人はきっと何処かで、羽を休めているのでしょう。ずっと鳥かごに閉じ込められていたから。自由になりたかったのね。
鳥かごのゲージは開いたままだった。
だけどもう閉じることは無いのだろう。
私は冷蔵庫から、ショートケーキを取り出した。
あの人がいつか美味しいと言っていたケーキだった。やっぱり私は馬鹿だった。
ケーキを食べた。
なんだかしょっぱかった。
○誰かのためになるなら+神様が舞い降りきて、こう言った。
神様が私の目の前に現れた。
なんでも、一つだけ願いをきいてくれるらしい。
私は迷った。
自分の事に使うのか、誰かのために使うのか。
そして私は、誰かのために使うことに決めた。
「世界中から戦争をなくしてほしい」
神様は言った。
「そうか。私も上から人間の争いを見てきた。あれほど辛く、悲しいことはないだろう。私もいつか争いが無くなることを願っている。」
神様は消えた。
テレビを見た。
何も変わっていなかった。
結局神様は神様だった。
今日は、お母さんもお父さんもいない。
こんな寂しい夜は、アナタを呼んで一緒に遊びましょう。
お人形遊びをしたり、おままごとをしたり。
お母さんの口紅をつけて、大人ぶってみたり。
そして、大人ぶった私はアナタの唇にキスをした。
アナタの唇はひんやりしていて、かたい。
だけど心は、じんと温かくなった。
私は笑顔になる。
アナタも私と同じくらい笑顔になる。
アナタの口、おかしいわ。
口紅をつけたままキスをしたから、アナタの口にはワインレッドがベットリとくっついていた。
でも、お互い様ね。
私はお腹が痛くなるくらい笑った。
アナタも私と同じくらい、笑った。
「ねぇ、だれと話してるの」
お母さんが帰ってきた。
今日はもう遊びはおしまい。
じゃあね、また今度。
私はティッシュでワインレッドを拭った。
目の前には、私が居る。