幼少期の私は他の子に比べて言葉の覚えが悪かったらしく、小中学生の頃は嫌がらせされたこともある。けれど私は人一倍勉強を頑張り成績は学年トップに。周囲の態度は変わった。
高校は進学校に入ったが、なじめずいつしか不登校になった。心療内科で診察を受けたところ発達障害の診断を受けた。
親戚からの猛烈な反対を押し切り、私は進学校を中退し通信制高校へ転校した。そこで独学で必死に勉強し、難関国立大学に合格。
そしてこの春、私は誰もが知る大手企業への内定を勝ち取った…
この人生逆転物語はネットニュースとして取り上げられ、この体験談を詳しく聞きたいという知り合いもいたし、親戚も手のひらを返して周囲に私のことを誇らしげに語った。
それが5年前の話。もう誰も聞いてこない賞味期限切れの物語。あの物語はあれで終わりだったけど、私の人生という名の物語はその後も続いているわけで。
障害者枠で入社した私にも職場の上司や同僚は優しかった。みんなが残業している中で毎日定時で帰らせてもらってるのはちょっと心苦しいが、週5でフルタイムが精一杯でそれ以上働ける気もしない。みんなより要領が悪く仕事もできないぶん、私は人一倍真面目に仕事に取り組み愛想よく振る舞う。それができないと居場所をなくしてしまいそうな気がする。
私は実家暮らしだけど、それは親が「障害がある子が一人暮らしなんて」と言うからだ。親戚は「障害者枠で入ったことは周りには言うな」と釘を刺す。親たちには感謝しているけど、時々一緒にいるのが嫌になる。
私はきっと恵まれている。なのに、この日々がこの先もずっと続くと思うと、なんだかしんどくなる。
ふと私は子供の頃の夢を思い出した。物語を考えるのが好きだったから、漫画家になりたかった。
だから今、私はちょっとだけ生きづらいこの日々を漫画にして描いてみたいなんて思ってる。
笑っても泣いてもよっぽどのことがない限りこの人生は続く。やりたいこともやれないようなつまらない物語で終わらせてたまるか。
今に見てろ。今からでも私の人生、めちゃくちゃ面白い物語にしてやるんだから。
春、はじめて会った君はスズメのように可愛らしい女の子だったから、僕は一目で君を好きになってしまった。
こんなに魅力的な君なのに、恋人がいたことがなかったことに驚いた。しばらく一緒に過ごしていくうちに、僕と君は両思いだと確信した。
夏、君と夏祭りへ行った。青い浴衣を着た君はカワセミのように綺麗だった。
最後の花火が打ち上がる直前、僕は君に告白した。すると君は涙を流してこう言った
「ごめんなさい…」
この日以来、僕は君と距離をおいた。
秋、君は突然入院した。それきり帰らぬ人となった。
後からきいた話、春の時点で君は余命半年と宣告されていたそうだ。
だから君は今まで特定の恋人を作らなかった。
だから君はあの日の僕の告白を受け入れなかった。
そうとも知らず僕は。後悔が押し寄せてくる。
春に現れて秋に空に飛び立って行っちゃうなんて、君はまるで渡り鳥のツバメみたいだね。
そんな感想を抱いてしまったせいで、毎年渡り鳥を見かけるたびに、今でも君を思い出してしまうんだ。
わたしの幼馴染は人気者。
さらさらとした髪をなびかせるあの子は美少女。
いつもクラスの輪の中心。彼氏だっている。
口下手で陰気なわたしと違って明るくてよく喋る。
どうしてそんなにサラサラと言葉が出てくるの?
わたしはそんなに頭が回らない。
あの子は人に愛される才能があって羨ましいな。
憧れる。
あたしの幼馴染は優等生。
さらさらと黒板に解答を書いていくあの子は才女。
いつも成績はクラスで上位。教師だって一目置いてる。
バカでお気楽なあたしと違って冷静でしっかりしてる。
どうしてそんなにサラサラと英語を話せるの?
あたしはそんなに頭は良くない。
あの子は努力できる才能があって羨ましいな。
尊敬する。
わたしが、
あたしが、
あの子に勝ってるだなんてさらさら思ってないよ。
あーあ、やっぱり幼馴染に負けてるなぁ
彼とはじめて会った日の夜に彼から連絡が来た。
それからメッセージをやりとりするようになった。
メッセージを交換するほど、私の中でじわじわと彼の存在が大きくなっているのを実感した。ある時それが恋だと自覚した。初恋だった。
しかしそれからほどなくして彼からの返信がなくなった。1年間ほど続いたやりとりは、そこで途絶えてしまった。
今までのメッセージを読み返してみて思うことがある。彼は私とのメッセージのやりとりを盛り上げようと、そして何とか続けさせようとしていた。
…もしかしたら、はじめて会ったあの日、彼は私のことを好きになったのかもしれない。
でも私は違った。最初の私の中の彼は一友人でしかなかった。それでいて初心な私だったから、彼の好意にも気付けなかった。
その温度差がきっと、彼の熱を冷めさせていったんだ。
連絡が途絶えてから半年、私は彼に連絡した。その日は彼の誕生日だったから、それを口実に「誕生日おめでとう」って。あわよくば、それがきっかけでまた前みたいにやりとりできたらって期待して。
彼は「ありがとう」と返してくれた。それから私は質問したりして彼とのやりとりを続けようとした。彼は普通に答えてくれたけど、私はある時悟って涙をこぼした。
ああ、もう元には戻れないんだな。
以前、語尾に頻繁に付いてた「!」は今の彼の文面にはない。前はあんなに私に質問してきてたのに、今はそれもない。
もう彼は私と距離を縮める気はないんだと、わかってしまった。
きっと、この質問もなにもないこのメッセージを送ってしまったら、このやりとりは終わってしまう。
もう彼から返信が来ることはないだろう。
そして私からも今後連絡しない。これで最後。
私は送信ボタンを押した。
私の初恋は終わった。
「あのさ、俺達付き合ったんだし、そろそろ、お互いに下の名前で呼ばない?」
君の名前をはじめて呼んだ日、私は幸せでいっぱいだった。
「ママ、今日の夕食は何?」
君も私も名前を呼ばなくなった頃、私は小さな命を守るので精一杯だった。
「おい、飯」
君が私を呼ばなくなった日、私は離婚を決めた。