柔らかい雨
金色の羽毛のような
柔らかい雨
ふわふわとあなたを包む
通学路の落ち葉のような
騒がしい雨
かさかさとあなたを揺らす
おびただしい数の雨粒が
街路樹の
そばの側溝を目指し流れつづけるならば
あなたが想う色とりどりの鳥たちは
そのくちばしにいちょうの葉をくわえて
羽ばたくことをやめないのだろう
雨がやまないかぎりは
「一筋の光」
嫌々ながらも明日の準備は終えた。あとは寝るだけだ。
彼女は昭和の小学生である。
毎日赤いランドセルに教科書を詰め込み、学校指定の黄色い巾着袋をぶら下げて登校する。
明日は算数と図工があり、大好きな音楽も国語もない木曜日。計算は苦手だし手先は不器用だから木曜日は楽しくない。しかしどうあがいても次の日はやってくる。
ひとりっ子の彼女は6畳の自分の部屋で眠る。ベッドはなく畳のうえに布団を敷いている。寝転がると閉め切ったふすまの下から一筋の光が差し込むのが目に入る。
光が差し込むのはふすまの向こうに起きている人間がいるからだ。彼女が眠ったあともしばらくは差し込むだろう光は彼女がひとりではない証。
明日は行きたくないな、と思いながらみた光を彼女は幾度となく思い出すだろう。
布団がベッドになり、ふすまがドアに変わり、差し込む光がなくなったひとり過ごす日々の夜に。
哀愁をそそる
「今日はお天気で良かったね」
「うん」
「なに乗りたい?」
「あえー」
「あれはまだ愛ちゃんの年じゃ乗れないんだって」
「じゃあー、あいシュー…お…しょるとたべたい」
「シューソルト?変わった名前のアイスねぇ」
やはり無理があるな、と彼は新しいフリップを取り出した。
「さあ!できた方は挙手!はい!では枚日亭なや丸さん!」
「鏡の中の自分」
やあ、また会ったね。
パステルグリーンのカットソーを身に着けたその人は言う。
ずいぶん久しぶりじゃないか。元気にしてた?
俺は聞こえないふりをして作業を続ける。もう出会うことはないと思っていたのに最悪だ。
気分とは裏腹に手元は正確に枝の剪定作業を続けていく。
ぱちん、ばちん。
誘惑に負けてはいけない。見ろ、あんなにしかめつらでこっちを見ているじゃないか。こっちは仕事中なんだ。相手にするな、集中しろ。
つれないなあ。
あいつはため息をついて首を右にかたむける。
わずかに頬が緩んだ。ほら、そういうところなんだよ、
俺が嫌なのは!
「あら、あずきちゃん!ここにいたの?お兄さんのお仕事の邪魔しちゃダメよ」
ガラス張りの店舗から依頼主が現れた。
俺の足元の右下でウロウロしていたトイプードルのあずきちゃんはその声に顔をあげ嬉しそうに駆け寄る。
「大丈夫ですよ、いい子にしてましたよ」
俺は依頼主にそう声をかけた。
鏡のように磨き上げられたガラス窓には、笑いを押し殺そうとしてかえって不機嫌にみえる自分の顔がうつっていた。俺は目を背けて仕事を再開する。
仕事と犬は混同しない。それが俺のポリシーなんだ。
あずきちゃんの可愛さにニヤニヤする自分は見たくない。