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「鏡の中の自分」

やあ、また会ったね。

パステルグリーンのカットソーを身に着けたその人は言う。
ずいぶん久しぶりじゃないか。元気にしてた?

俺は聞こえないふりをして作業を続ける。もう出会うことはないと思っていたのに最悪だ。

気分とは裏腹に手元は正確に枝の剪定作業を続けていく。
ぱちん、ばちん。
誘惑に負けてはいけない。見ろ、あんなにしかめつらでこっちを見ているじゃないか。こっちは仕事中なんだ。相手にするな、集中しろ。

つれないなあ。
あいつはため息をついて首を右にかたむける。
わずかに頬が緩んだ。ほら、そういうところなんだよ、
俺が嫌なのは!



「あら、あずきちゃん!ここにいたの?お兄さんのお仕事の邪魔しちゃダメよ」
ガラス張りの店舗から依頼主が現れた。
俺の足元の右下でウロウロしていたトイプードルのあずきちゃんはその声に顔をあげ嬉しそうに駆け寄る。

「大丈夫ですよ、いい子にしてましたよ」
俺は依頼主にそう声をかけた。

鏡のように磨き上げられたガラス窓には、笑いを押し殺そうとしてかえって不機嫌にみえる自分の顔がうつっていた。俺は目を背けて仕事を再開する。

仕事と犬は混同しない。それが俺のポリシーなんだ。
あずきちゃんの可愛さにニヤニヤする自分は見たくない。

11/4/2023, 7:16:29 AM