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「一筋の光」

嫌々ながらも明日の準備は終えた。あとは寝るだけだ。


彼女は昭和の小学生である。
毎日赤いランドセルに教科書を詰め込み、学校指定の黄色い巾着袋をぶら下げて登校する。

明日は算数と図工があり、大好きな音楽も国語もない木曜日。計算は苦手だし手先は不器用だから木曜日は楽しくない。しかしどうあがいても次の日はやってくる。

ひとりっ子の彼女は6畳の自分の部屋で眠る。ベッドはなく畳のうえに布団を敷いている。寝転がると閉め切ったふすまの下から一筋の光が差し込むのが目に入る。

光が差し込むのはふすまの向こうに起きている人間がいるからだ。彼女が眠ったあともしばらくは差し込むだろう光は彼女がひとりではない証。

明日は行きたくないな、と思いながらみた光を彼女は幾度となく思い出すだろう。
布団がベッドになり、ふすまがドアに変わり、差し込む光がなくなったひとり過ごす日々の夜に。

11/5/2023, 10:51:19 AM