見た目も種族も違う君と僕。
仲間にはなれなくても、
一緒にいれば家族くらいにはなれるだろうか
きれいに掃除され、机もきっちりと並べられた教室。
開けられた窓からはらり、桜の花びらが1枚。
明日は入学式。
また1年、教室が騒がしくなる。
「それ、ずっとつけてるよね」
少し古くなったヘアピンを指さしてそう指摘される。
ああ、これね、とそっとヘアピンを撫でる。
いつだったかの誕生日に坊ちゃんからプレゼントを貰った。
小さな包みを開けてみると中から出てきたのは花の飾りがついたヘアピン。
俺には似合わないと思うけどなあ、と思いつつ「ありがとう」と頭を撫でてやった。
それでも坊ちゃんはきらきらした目で俺を見ていて、もしかしてこれをつけろとそういうことなのだろうか。
一瞬、考える。
いや、似合わないと思うんだよね本当に。
視線に耐えられなくてヘアピンをつけてやれば、満足そうに笑ってくれた。
「新しいの買ってあげようか?」
大きくなった坊ちゃんからそう提案されるが丁重にお断りした。
「物は大事にするタイプなんですよ。それに、これつけてないと不機嫌になるじゃないですか」
「子供の時の話だろそれ」
小さい頃の話を持ち出すと途端に呆れた顔をされた。
でもつけていたらとても嬉しそうな顔してたんですよ、貴方。そんな顔されたらちゃんと毎日つけるし、気に入るじゃないですか。
あはは、と俺は声を上げて笑った。
「ところでなんで花?」
「小学生が思いつく精一杯」
「もっと他にあると思うんですけど」
朝、目覚まし時計のアラームで目が覚める。
まだ少し眠たくて、意識がぼんやりとしている。
ああ、今日は平日だから仕事にいかなきゃ。
ふかふかの布団が気持ちよくて外に出たくない。
手探りで時計のアラームを止める。
……このまま時間も止まってしまえばずっと寝ていられるのになぁ。
カチ、カチ、と規則正しい秒針の音が心地いい。
…………。
ああ、いけない二度寝するところだった。
気がついたら閉じていた瞼を開いて無理やり布団から出る。
今日は金曜日。
一日頑張って行こうか。
あの日見た花畑のことを今でも時折思い返す。
かつて体験した不思議な出来事。
滅んだ未来の世界に咲き誇る一面の花畑。
気がつけば知らない場所にいて不安そうにしている僕にあの人が見せてくれた景色。
今まで見た事がないくらい、綺麗な景色だった。
子供みたいにはしゃぐ僕の姿を見て貴方はほっとした顔をしていた。
それから、一緒に終わった世界を数日のあいだ歩いて、帰る方法がわかった。
出来れば一緒にいたかった。一人残して行くのは嫌だった。
それでも僕は、自分の世界に帰ってきた。
やらなきゃいけないこと、貴方に託されたことがあったから。
もう二度とあの人に会うことは無い。
それでも、あの時見た花畑とあの人の笑顔はずっと忘れることはないだろう。