LINEの通知音がして、スマホの画面を開く。
双子の弟からのLINE。
写真が1枚と『これ見て!』の文字。
そういえば今日は友達と出かけてくるとか言ってたっけ。
送られてきた写真を見て小さく笑いがこぼれた。
珍しいものを見つけて、はしゃいで写真を撮っている姿が目に浮かぶ。
楽しんでいるみたいで何よりだ。
『それで、その珍しい味のソフトクリームはおいしかったの?』
泣いてる顔のクマのスタンプが送られてきた。
ダメだったらしい。
中々眠れず、ようやく眠れたと思えばこんな時間に目が覚める。
いっそあきらめて起きた方がいいのではとも思い始めた。
暫し、思案。
そっとベッドを抜け出して、温かいコーヒーをいれてベランダへ出ることにした。
昼間はまだ暑さが残るけど夜は少し肌寒い。
いつもは賑やかな街もまだ眠っているようで、静かな景色をしばらくぼんやりと眺める。
そういえば漫画で読んだけれど、早朝の渋谷は青いらしい。ここは渋谷ではないけど青くなるだろうか。
……見てみたいな。
少しワクワクした気持ちになる。
きっと昼間寝不足で恐ろしく眠たくなるかもしれないけど、たまにはこういう日もあってもいいかな。
カレンダーに予定を書き込む習慣なんて今までなくて。
今日は何日だったかなとかそのくらいでしか確認することはなくて。
そんな僕のカレンダーに目立つように大きくつけられた丸。
どうやってお祝いしようかな、喜んでくれるかな。
ずっとそんなことを考えて過ごしている。
そうして今日も一日の終わりにカレンダーに斜線を引く。
君の誕生日まであともう少し。
ついにあの子を殺した。
今まで何度も殺せなかったあの子を。ようやく。
なんの抵抗もしなかった。ただ、微笑んでいた。
それでも私は、自分が死なないために、殺されないために、そうするしかなかったのだ。
――――本当に?
朝、目を覚ます。
いつもより少し遅めの起床。
顔を洗って服を着替えて朝食の準備をする。
そういえばあの子は食事にうるさかったから適当に作ったらまた不味いと文句を言うだろうか。
くすりと笑って彼の好きそうな味付けにする。
テーブルに乗せられた二人分の朝食。
やってしまったな、と呟く。つい、いつもの癖で。
依頼人が来る。依頼を受ける。謎を解く。
いつもの仕事。いつものこと。
ただ、時折後ろを振り返ってしまい、今日は一人なのだったと思い出す。
そういえば探偵というものを始めてからずっと二人で行動していた。
あの日助手になって欲しいと手を差し出した日から今日までを思い返す。
とても優秀な助手だった。
事務所に戻り、ソファに体を沈める。
ぼんやりと時計の針が動くのを眺める。
…………ひとりはこんなにも静かだっただろうか。
あの子と一緒に暮らす前は一人なんて当たり前だったのに。
いつから誰かが居る生活に慣れてしまったのだろうか。
目を閉じればあの子が笑って「先生」と呼ぶ声が聞こえるような気がした。
「……僕は、どこで何を間違えたんだろうな」
ぼそりと呟いたその言葉に応えてくれる人は誰もいなかった。