ついにあの子を殺した。
今まで何度も殺せなかったあの子を。ようやく。
なんの抵抗もしなかった。ただ、微笑んでいた。
それでも私は、自分が死なないために、殺されないために、そうするしかなかったのだ。
――――本当に?
朝、目を覚ます。
いつもより少し遅めの起床。
顔を洗って服を着替えて朝食の準備をする。
そういえばあの子は食事にうるさかったから適当に作ったらまた不味いと文句を言うだろうか。
くすりと笑って彼の好きそうな味付けにする。
テーブルに乗せられた二人分の朝食。
やってしまったな、と呟く。つい、いつもの癖で。
依頼人が来る。依頼を受ける。謎を解く。
いつもの仕事。いつものこと。
ただ、時折後ろを振り返ってしまい、今日は一人なのだったと思い出す。
そういえば探偵というものを始めてからずっと二人で行動していた。
あの日助手になって欲しいと手を差し出した日から今日までを思い返す。
とても優秀な助手だった。
事務所に戻り、ソファに体を沈める。
ぼんやりと時計の針が動くのを眺める。
…………ひとりはこんなにも静かだっただろうか。
あの子と一緒に暮らす前は一人なんて当たり前だったのに。
いつから誰かが居る生活に慣れてしまったのだろうか。
目を閉じればあの子が笑って「先生」と呼ぶ声が聞こえるような気がした。
「……僕は、どこで何を間違えたんだろうな」
ぼそりと呟いたその言葉に応えてくれる人は誰もいなかった。
9/10/2024, 11:07:50 PM