良いお年を!
お題「星に包まれて」
後日に書きます
Aroma
ガシャン
カップが割れる音が辺りに響く。
内臓を迫り上がってくる、何か。
自らの口から吐き出される赤い液体。
体が痺れていくのがわかる。
視界がだんだんと狭くなっていく中、私は正面にいる女性をみる。
(ああ、やっぱり)
少し前から感じていた違和感。
床の冷たい感覚を最後に、私は意識を手放した。
ピロン
午前2時、スマホがなった。
「は?こんな時間に誰?」
ゲームをしていたため、それを邪魔され少々の苛立ちを抱きながらチャット画面を開く。
「深川夜、?」
誰だ?
聞き馴染みのない名前が目に入り、不信感を抱く。
これが話題になっている、『詐欺』というやつか?
夜『こんばんは!覚えてるかな?深川夜です!同じ小学校で仲良くしてたよね!こんな時間に申し訳ないんだけど、百合ちゃんと明日同窓会的なことをやろう!ってなってて、声をかけさせてもらいました!小学校の同窓会だから覚えてないかもだし、嫌だったらこのメッセージ無視しちゃって大丈夫だよ!お返事待ってます☺️』
「同窓会、か」
同じ小学校と聞いて、確かに『夜』という名の女の子がいたような気がしてきた。
「既読もつけちゃったし…せっかくだし」
私は青白く光る画面に指を滑らす。
「参加してくれてありがとう!」
長い黒髪を揺らしてやってくる女性。
「改めて深川夜です!」
「あ、浅見ゆうきです、」
白い肌に長いまつ毛。ぱっちりと大きな目。いかにも美人、と言った顔立ちの夜さん。
平凡な顔立ちの私とは正反対だ。
「い、意外と人数少ないんだね…」
「そうなの〜!みんなに断られちゃって〜…」
「そ、そうなんだ…」
メンバーは、同じ小学校だった深川夜さんと、私のたったの2人。
(これ、同窓会というより、ただのお出かけなんじゃ…)
「ごっめ〜ん!遅れちゃった〜!」
すると息を切らせ走ってきた1人の女性。
「三山百合ですっ!お久しぶり〜!」
明るめの髪を緩く巻き、可愛らしい雰囲気を纏った彼女は三山百合。
「あ、お、お久しぶりです…浅見ゆうきです…」
きらきらした2人と違って私は…
「じゃあ全員揃ったね。行こうか」
「よ、夜さん…どこにいくんですか?」
「長喜館!」
「えっ」
長喜館。明治時代に建てられた古い洋館で、最近重要文化財になったらしいところ。
「たしかアフタヌーンティーとか…あるんですよね」
「そう!あの頃を思い出すわ〜!」
「うちらそこで同窓会的なことしよー!って思ったんだけど…」
「まあでも、ゆうきさんがきてくれたから」
3人で談笑しながら歩を進める。
しばらくして目の前に現れたのは
「お、おおきい…」
「ね〜!懐かしい!」
周りとは違う香りを放つ洋館。
中に入ると、あたたかな光を放つシャンデリアと繊細で艶やかな装飾が目に飛び込んでくる。
スタッフによってとおされたカフェは椅子やテーブルから、細かな調度品までまるで昔で時が止まったようなアンティークなもので揃えられていた。
「すごい…」
「うちらの席はここ〜!」
三山さんの隣に私は腰掛け、その正面に夜さんが座る。
その後、スタッフの説明をうけ、メニューを見る。
「紅茶もこんなに種類があるんだね…私知らなかった」
「それな!うーん…うちはこれ!桃のなんちゃら!」
その後、夜さんと私も注文をし、2人に向き直る。
「む、昔話でもします、?」
「うちらの小学生の頃かぁ〜…黒歴史しかないわ〜!」
「そういえば百合ちゃんって留学したんだっけ?」
「そ!イタリアに行ったの!」
「そ、そうなんですね!」
数分ほど談笑していると、紅茶が運ばれてきた。
「いい香り〜!」
そう言って三山さんが紅茶を口にした瞬間。
三山さんの手からティーカップが落ちる。
こぼれ落ちる血。
「み、三山さん!?」
三山さんに駆け寄る。
「夜さん!救急車を…あれ?」
さっきまで夜さんが座っていた椅子には誰もいない。
(ど、どういう…)
その時、三山さんが何かを呟いた。
『 La notte è morta molto tempo fa. 』
夜はとっくの昔に終わっていた。
お題 「静かな終わり」
「愛してる」
「俺も。愛してる」
私は、不倫している
相手も、不倫をしている
私だっていけないことだと分かっている
でも、ランスが好きなの
あいしているの
アイシテイルノ
ごめん
マリア
《お嬢様の生活》
「んぅ…」
だんだん、意識が浮上していくのがわかる。
(今日は、寒いな…)
そんなことを考えながらおもい瞼をあける。
窓の外では、雪がしんしんと降り注いでいる。
(布団から出ない方法はないのかしら?)
お気に入りの布団をのけて、身体を起こす。
「フェアンツェ様、おはようございます」
「おはようございます、メリーサ」
側仕えに挨拶をして、身支度を整えてもらう。
「本日は、ローゼンハーツ様との面会が、六の時にございます」
「そう」
いつもは、3人ほどの側仕えに手伝ってもらって身支度を整えているが、今日は一人だ。
「ファウナとマリアは明日、里帰りから帰ってくるのかしら?」
「はい。明日の九の時だったかと」
「…そう。寂しいものね」
わたくしには、側仕えが八人いる。
そのうちの六人が、7日間の里帰りのため、実家へ帰っている。
どうやら、明日には、2人帰ってきて、四人になるようだ。
わたくしもあわせたら五人。
「明日の朝はきっと賑やかね」
「貴殿に守護の女神、マルアンテルーイの加護がありますよう、心よりお祈りを申し上げます。春の女神、コリンナターリアのもたらす、春の芽吹きが懐かしくなって参りましたが、お加減はいかがでしょうか」
「貴女に守護の女神、マルアンテルーイの加護がありますよう、心よりお祈り申し上げます。相、変わらずお元気に過ごされていることを心よりお祈り申し上げます」
貴族独特の長ったらしい決まり文句と化した挨拶をローゼンハーツ様と交わしたあと、席に着く。
「火急の用とお伺い申し上げましたが、ローゼンハーツ様、何かございまして?」
「……こちらを」
そう言って、黒い小さな箱を差し出してくる。
ローゼンハーツ様の表情を見て取れるように、きっと、誰にも聞かれたくない話なのだろう。
頷いて、黒い箱を受け取り、中に入っている盗聴防止魔具を額につける。
それを見て、ローゼンハーツ様はゆっくりと口を開く。
「……実は…兵衛士が反乱を…」
「あぁ、兵衛士が…」
兵衛士とは、この皇国の兵で、最近、反乱を起こしている。
「その兵衛士のうち一人が、皇帝の愛娘に傷を…」
「!?」
この皇国の絶対権力者の皇帝の愛娘に傷をつけたとなれば、死刑だけでは済まない。
「兵衛士のうちの誰かは分かりますか?」
「リョマインです」
「何!?」
リョマインは、わたくしの異母弟だ。
しかも、ローゼンハーツ様の娘の夫でもある。
もしやしたら、わたくし達にも影響が出るかもしれない。
「今すぐ、皇殿の官長に伝鳩を送ります」
「感謝します、フェアンツェ様。お礼と言ってはなんですが、其方の聖杯に魔液をお溜めしましょう」
聖杯とは、魔力を溜めるものだ。
魔力を溜めるには、魔力を魔液と呼ばれる液体にしなければいけない。
それはとても時間と労力がかかる。
「助かります。では、そろそろお時間もきました故…」
「春の女神、コリンナターリアの訪れが一刻もはやくなりますよう」
「春の女神、コリンナターリアの恵が充分に受けられますよう、お祈り申し上げます」
貴族の長い挨拶を終え、退室していくローゼンハーツ様。
わたくし達もうごかなくては。
「メリーサ、行きましょう」
「はい、フェアンツェ様」
今日は、一段と静かな夜明けでしたが、一段と騒がしい一日が始まりそうです。