《お嬢様の生活》
「んぅ…」
だんだん、意識が浮上していくのがわかる。
(今日は、寒いな…)
そんなことを考えながらおもい瞼をあける。
窓の外では、雪がしんしんと降り注いでいる。
(布団から出ない方法はないのかしら?)
お気に入りの布団をのけて、身体を起こす。
「フェアンツェ様、おはようございます」
「おはようございます、メリーサ」
側仕えに挨拶をして、身支度を整えてもらう。
「本日は、ローゼンハーツ様との面会が、六の時にございます」
「そう」
いつもは、3人ほどの側仕えに手伝ってもらって身支度を整えているが、今日は一人だ。
「ファウナとマリアは明日、里帰りから帰ってくるのかしら?」
「はい。明日の九の時だったかと」
「…そう。寂しいものね」
わたくしには、側仕えが八人いる。
そのうちの六人が、7日間の里帰りのため、実家へ帰っている。
どうやら、明日には、2人帰ってきて、四人になるようだ。
わたくしもあわせたら五人。
「明日の朝はきっと賑やかね」
「貴殿に守護の女神、マルアンテルーイの加護がありますよう、心よりお祈りを申し上げます。春の女神、コリンナターリアのもたらす、春の芽吹きが懐かしくなって参りましたが、お加減はいかがでしょうか」
「貴女に守護の女神、マルアンテルーイの加護がありますよう、心よりお祈り申し上げます。相、変わらずお元気に過ごされていることを心よりお祈り申し上げます」
貴族独特の長ったらしい決まり文句と化した挨拶をローゼンハーツ様と交わしたあと、席に着く。
「火急の用とお伺い申し上げましたが、ローゼンハーツ様、何かございまして?」
「……こちらを」
そう言って、黒い小さな箱を差し出してくる。
ローゼンハーツ様の表情を見て取れるように、きっと、誰にも聞かれたくない話なのだろう。
頷いて、黒い箱を受け取り、中に入っている盗聴防止魔具を額につける。
それを見て、ローゼンハーツ様はゆっくりと口を開く。
「……実は…兵衛士が反乱を…」
「あぁ、兵衛士が…」
兵衛士とは、この皇国の兵で、最近、反乱を起こしている。
「その兵衛士のうち一人が、皇帝の愛娘に傷を…」
「!?」
この皇国の絶対権力者の皇帝の愛娘に傷をつけたとなれば、死刑だけでは済まない。
「兵衛士のうちの誰かは分かりますか?」
「リョマインです」
「何!?」
リョマインは、わたくしの異母弟だ。
しかも、ローゼンハーツ様の娘の夫でもある。
もしやしたら、わたくし達にも影響が出るかもしれない。
「今すぐ、皇殿の官長に伝鳩を送ります」
「感謝します、フェアンツェ様。お礼と言ってはなんですが、其方の聖杯に魔液をお溜めしましょう」
聖杯とは、魔力を溜めるものだ。
魔力を溜めるには、魔力を魔液と呼ばれる液体にしなければいけない。
それはとても時間と労力がかかる。
「助かります。では、そろそろお時間もきました故…」
「春の女神、コリンナターリアの訪れが一刻もはやくなりますよう」
「春の女神、コリンナターリアの恵が充分に受けられますよう、お祈り申し上げます」
貴族の長い挨拶を終え、退室していくローゼンハーツ様。
わたくし達もうごかなくては。
「メリーサ、行きましょう」
「はい、フェアンツェ様」
今日は、一段と静かな夜明けでしたが、一段と騒がしい一日が始まりそうです。
2/6/2025, 11:57:07 AM