無色の世界
うつだな、と客観的に思う。
不意に電車の線路に飛び込んでいったスーツ姿の背へ、
刹那に羨望をそそぐ。
手も伸ばせない距離のはずが目蓋の裏に焼きついた。
鮮やかだったはずの赤は、
周囲の冷たい視線にさらされ
また日常の無色の世界に戻っていく。
あっけない、命の幕切れに慣れてしまった私はどこまで転げ落ちていくのだろう。
貧乏神(書く練習SS)
男は、ふと自分の枕元に影が立っていることに気がついた。
壁まで伸びた影は不気味に黒く、長く、そして長い鎌を持っているように見えた。
「もし、貴方様は死神でいらっしゃいますか?」
幻覚かもしれないと、思っても男は尋ねずにいられなかった。
『そうとも。お前の魂を連れていく』
短く死神は答えた。
「ああ!本当にいらっしゃるんだ、死神様…」
弱々しいながらも喜色の声をあげるので、死神は男を不思議に思った。
『お前はワシが怖くないのか。普通は怯えたり落胆したりすれど、歓迎されたのは初めてだ』
「これには、わけがあるのです……」
大きく息を吸った男は自身の生い立ちを語った。
両親、友達、周囲とも恵まれなく、金も実力も運さえも見放され、挙句が死にいたる病である。
聞くも涙、語るも涙の見事な不幸人生であった。
「……なので、これでようやく死んで自分は楽になれると。貴方様がおいでなすって喜んだわけです」
『いや、なに。事情がわかって納得したわい』
ふむふむと死神が頷いた。
『そしたら、あんたは神になる才覚があるのう」
「…神?、え⁉︎僕がですか!」
男の瞳にわずかな光が芽生える。
死神は指を差して告げた。
『いや、取り憑いてたそこで見てるあんた』
大切なもの
嬉しい記憶、嬉しい感情、覚えておきたいこと、覚えておいて欲しいこと。
私の幼少期から思春期の共有したい思い出を全部、家族みんなは覚えてないという。
そんなことあったかしら?
言った覚えないぞ?
そうだったっけ?
私が狂ってるのか、家族3人が狂ってるのか、答えはない。
でもあった。
大切な記憶はあった。
大切だという思いだけが、いまも宙ぶらりんなまま。
現実逃避
逃げたい、戦いたくない、傷つけたくない、傷つきたくない。
ただひたすら眠っていたい。
永遠に永遠に。
とぷとぷと、眠りの淵に記憶を溶かして。
息すら忘れて、深く深く黒く意識を塗り潰して。
二度と目覚めぬ夢を見る。
ああ、なんて贅沢な現実逃避(二度寝)!
君は今
叔母は歳をとらない。
それを知ったのは僕が10才の時だった。
不幸な未熟児で生まれた叔母は、10才の精神年齢で時が止まっていた。
「だからね、貴方が守ってあげてね」
母は僕にそう告げたときから、叔母は僕の『特別』だった。
しょうがいの人って可哀想って言ったアイツと喧嘩をしたり、寂しいと叔母が言ったら側にいた。
永遠に10才の叔母、幼い頃はお姉ちゃんで、今は小さな守ってあげる女の子。
祖母が亡くなったときには
「お母さんが居なくても○○君がいるから平気」
と涙をぬぐいながらも僕のことを頼りにしてくれていた。
その頃には家の方針で近くの施設に叔母は預けられていたが、時々は様子を見に行き笑顔を見せていた。
やがて僕の母の兄妹達も、母すら亡くなり、ついに叔母もたった昨日ガンが元で亡くなった。
永遠の小さな女の子は煙と共に立ち昇り、空で家族と一緒にいるのだ。
君は今、幸せですか?