天城サナオ

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1/15/2023, 7:54:23 AM

「どうして」

男女の駆け引きめいたことをしなくなって、何年が経ったのでしょうか。

実際にはそれほど経ってもいない気がするのですが、そもそも自分はそういったヒリヒリ焼け付くような精神活動から離れてしまった人間なのだと自覚すると、それだけで途端に老け込むような気がします。

無数…などと贅沢なことは言わないまでも、いくつかは自分に差し向けられた手の中で、何故私はあの人の手を取ったのでしょうか。
決定打はなんだったのでしょう。
理由はなんだったのでしょう。

いくつかは理由を述べることが出来ます。
それなりに説得力のありそうなものもいくつか出てきます。
見た目が好きだとか、安定した職業だとか、共通の趣味だとか。

だけど、それらは言い訳を並べ立てるようなものだと感じるのです。

本当は「この人だ」という結論がまず最初にあって。
それでも足元がおぼつかないのは安心できないから、とっくに見えているゴールに向かってあくせくと足場を組んでいるだけのような。
そうやって回り道をする中で、踏切のための助走をつけているような。

理由も理屈も要らないのが若者の青春なのだとしたら、若くない時分の青春には理由も理屈も必要なのでしょう。

私は、青春の果てに家族を得たのかもしれません。

1/13/2023, 1:31:27 PM

「夢を見てたい」

夢とは何なのか。

それについては、現代では「睡眠中に脳が記憶の整理している最中に再生されているものだ」という神経生理学的な理解が一般的になっています。

しかし、古くは現世ではない異世界と繋がるものであったり、神仏から賜るものであったり、己の内面を映すものとして捉える見方もありました。

どれもその時代、その分野においては間違いなく真実だったのでしょう。
知らせや御告げを受けて行動を変えたり、宗教的な儀式を行う例は沢山あります。

そんな中でも少し面白いのが、望月の歌で有名な藤原道長の「御堂関白記」です。

道長は夢想を根拠に外出を控えることが少なくありませんでした。
これは道長に限った話ではなく、当時の平安貴族達の中ではごく普通の習慣だったようです。
道長も例に漏れず、信心深く夢想告に忠実であろうとした…かのように見えるのですが、これがどうにも怪しい。

「御堂関白記」においても道長は度々夢に触れるのですが、その肝心の中身について詳細を記していることは少ないのです。

また夢のせいでやむを得ず行けなかった外出先は、元々道長が気乗りしない外出先であったと思われるケースが多く、信心深いどころか夢をズル休みの根拠に使っていたような節があるのです。

夢は神秘の塊でありながら、実利的に使える便利なツールでもあったわけです。

「夢で良くないと出たから」という理由で取れる夢想休暇。
いいですねぇ。そんな夢ならぜひ見たい。

1/12/2023, 11:32:13 AM

「ずっとこのまま」

石は不変の象徴としてよく用いられます。

とは言え手紙代わりに石板を使う時代でもありませんから、私たちの生活に最も身近な不変の石と言えば、私はやはり墓石を思い浮かべるのです。

しかし祖父のお墓は無くなりました。
昨年墓仕舞いをしたのです。

不自然に綺麗な区画が墓一つ分だけ残りました。
魂抜きをしたので、ご先祖代々の御霊ももうそこにはないそうです。あっけないものですね。

数十分車を走らせれば会えるはずだった祖父は、15年以上も前に日本の反対側へ行ってしまいました。
祖父の家は、私の背丈を刻んだ柱ごと無くなって、後には駐車場が残りました。

一人で新幹線に乗れる程度には大人になって、半日電車を乗り継いで、やっとの思いで会いに行った祖父の記憶からは、私が消えていました。

祖父は母の名前で私を呼ぶのですが、私は黙って受け入れました。
「ずっと会いたかったよ」と言うと、祖父がか細い声をしぼりだしてハッ、ハッ、と笑いました。
母はずっと祖父の中に居続けられるのだなと、羨ましかったのを覚えています。
もう声を出すのも辛いのだと、後から祖母に聞きました。

そんな祖父も、昨年亡くなりました。
焼けた骨のカサついた感触が、長い箸を通して私の指先に残りました。

祖父どころか、お墓すら無くなりました。

これから先、祖父を知る人も一人一人と居なくなっていくのでしょう。
正直、私ももう祖父の声がどんなだったか、あまり鮮明には思い出せません。

祖父の痕跡が世の中から消えていくのを知覚しているのに、それを止める術が私にはさっぱり分からないのです。

ただ、幸いにも私はまだ苦痛無く声を出すことが出来ますから、ことあるごとに祖父の話をするのです。

家の鍵を閉めたか確かめるように。
コンロの火を消したか確かめるように。
お風呂の水を止めたか確かめるように。
私がどんな風に「じいちゃん」と呼んでいたのかと反芻するのです。

それだけで、世の中に祖父の席が一人分くらいは空く気がして。

1/11/2023, 3:53:54 PM

「寒さが身に染みて」

クリスマスの時期によく出回る赤い葉っぱの植物を思い浮かべることができますか。

ポインセチアという名前の植物です。
クリスマスフラワーの異名もあります。

冬の季語でもあるポインセチア。

実は寒さに弱いってご存知でしたか。
乾燥には強いのですが、耐寒性は弱く、冬の植物だから大丈夫よね!なんて思って玄関先に出したりするとすぐ葉が落ちてしまいます。

長く楽しみたい時は、室内の日当たりの良い場所で。

冬に色づくくせに寒さが苦手だなんて世話が焼けますね。