“夏”
「もうすぐ夏なのかな?既にめっちゃ暑いっすよね
これから梅雨だと思うと、うーん、気分が沈むなぁ」
湿気が元気な最近の気候が、くるくる髪の彼にはどうやらキツイらしい。続けてこう言う
「その点、君らはいいよね こんな涼しい教室で勉強できる環境が整えられててね〜、職員室なんてね…」
最近わかったが、彼はよく独り言を言う。どこかの何かで見たが、文章を作るのが上手い人は沢山の独り言を口に出すことで、自分の気持ち、考えを整理するらしい。きっと、彼の頭の中の引き出しは綺麗に整えられていて、背表紙の高さも、並ぶ題名の五十音順も、それぞれの系統さえも綺麗に整頓されているのだろう。そのくらい、彼は素敵な言葉を巧みに操る。そんな彼の素敵な言葉達を、あとどのくらい聴けるのだろう。けれど、ハッとした。まだ、夏にも移り変わっていないじゃないか。春夏秋冬ある内の、今はまだ春の終わり。まだ3つの季節を共に過ごせるじゃないか。珍しくポジティブになれたわたしを褒めてあげてほしい。そして、髪がちりちりなるほど撫でてほしい。それも、彼の手で。いや…待てよ…ちりちりは嫌か…と思ったけれど、彼と同じくるくる髪なら何の問題もない。ほぼ初めてと言っていいほどの、お揃いが生まれるのだから。そんなにわたしをわくわくさせてくれる夏は生まれて初めてだ。わたしに、どんな夏が待ち受けているのだろう。まだまだ先の夢を思い描いて、誰にも伝えられない期待を馳せてみる
“ここではないどこか”
ここではないどこかで出会ったとしても、きっと好きになっていたのだ。この出会い方でなくても、きっとどこかで出会ってた。この人生で、この生命でなくても、きっと世界のどこかできっと彼を好きでいた。だって、はじめからそういう運命だったのだから。ずっと前から、決められてた運命なのだから。
きっと地獄で彼に会うと、彼ははたまた輝いてわたしの道を照らすのだろう。地獄ではどんな生活が待ってるかは分からないが、彼のことが愛しいのだと、どんなに辛い環境下であっても確信しているのだ。そしてそれが、わたしの生きる糧と化すのだ。
きっと天国で彼に会うと、彼はあたりの光とは違う、彼にしか持ち合わせない輝きでわたしを照らしてくれるのだろう。天国ではどう足掻いても幸せなのに、彼がいることでもっと幸せになってしまうのだろう。そしてそんな彼を、わたしは痛いほど愛すのだろう。
彼には、彼にしかない褒めどころが山ほどある。そんな彼の素晴らしさがわかる人間がこの世のどこかにいるとすれば、それこそわたしの幸せなのかもしれない。そしてそれがわたしの本来の運命だとすれば、彼の幸せを、この世ではないどこかで見守るとしよう。
“君と最後に会った日”
それは今日、だけれど、、明日からまた4日間も会えなくなる。その間、彼は何をして過ごすのだろう。やっぱり、仕事か。それとも、他の誰かと休日を過ごすのだろうか。悔しさや憎しみよりも、ただ、羨ましい。
それはだって、きっと、私の知らない誰かと、私の知らない彼の幸せを作るのだろう。そして私がまだ知らない、愛おしい面持ちで眠るのだろう。ここでふと思ったけれど、私は彼の何も知らないのだった。年齢と職業くらい、この関係である以上深いことは知らない方が良いのだろうし、私の「彼との夢」を維持するためにも、知らない方が良いことだって多いのだろう。現実に起きることの無い、夢に満ちた幸せだって、その幸せを抱けてる間は抱いておきたいのだ。今は彼に夢を、見させてほしいのだ。知らない方が良い現実と、しかし彼の全てを知りたいというわたしの我儘は尽きることが無いだろう。
4日間も会えなくなる、と前述したが撤回しておこう。先程綴った「我儘」が先走り、きっと私は偶然を装い、彼が来るであろう道を歩く。そして、どきどきしながら朝の挨拶をする。少しでも彼の視界の中の私を更新できるように
高嶺の花っていうと、これはまた言い過ぎで、彼はそんなに綺麗じゃないのだけど、、と思ってしまう。悪口とかじゃなくて、これも愛なのだ。彼にはその、彼にしかない褒めどころがあって、それが異常にきらきらしてしまっている。いわば、魅惑の花、そんな感じだと、思う。
他とは違う、何かが極端に偏っているなという感じ。アイデンティティが完全に確立されている感じ。
きっとその中には大人の余裕があって、それらは全て、私がまだ社会に出ていないからこそ、未熟だからこそ好きだと感じてしまう要素もあるだろう。
ただ、ここで何より問題なのは、憧れと愛情を入れ違えないことだ。頭ではわかっている。これは憧れなのだと、憧れでないと、彼に迷惑なのだと。どちらかと言えば…自らを洗脳している。愛情に代わってしまえば、きっと今の関係は崩れ落ちる。培ってきた信頼も、全て。私は高校を卒業するまでの残り1年半、私の気持ちを隠し続けなければならない。それが私の宿命であり、彼の美しく魅惑な、けれど繊細ですぐに零れ落ちてしまいそうな花びらを、守り続けなければならないのだ。
“繊細な花”
きっともう、1年後の全ては既に決まっている。
けれど、どうなるか、全くわからない。これがまた、人生の醍醐味だと最近わかって来た。ただ続く馬車馬のレールではなく、しっかりと結果が残るのだと。人生を走らせる価値が、ここに確かに存在しているのだと。
私は特別顔が可愛いわけでも、賢いわけでも、運動神経が良い訳でもない。ただ、人並みに愛嬌があって、コミュニケーションが取れて、人より少しだけ、会話の勉強したという結果がある。これらは誰にも負けないと胸を張って言える。張る胸はないが、言える。
1年後にどうなっていたいかっていうと、もう少し勉強ができて、もっと君と近づいて、至極会話が上手くなりたいと思う。全ては、欲望に塗れている。このくらいわがままな方が、人は可愛いと思う。これらの欲望を全ては出さなくとも、君にかわいいと思われるくらいの、愛に丸め込んだ嘘と、真実を、伝えたい。君に愛してもらえるなら、本当の自分をも飲み殺せるんだ
“1年後”