篝火

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4/1/2023, 12:39:02 PM

「実はさー、おれ明日引っ越すんだよね」

「ハイ嘘ー!その手には乗らねえ!!エイプリルフルだろ!」

「秒でバレたか……」

「来年はもっとマシな嘘つけよなー!じゃあ、また明日!」

そう言って、笑いながら手をふるお前は知らない。

時計の針は12時を少し過ぎた位置にある事を。

俺が本当に明日引っ越す事を。

今日という日が、俺がお前と過ごした最後の日になることを。

「……じゃあな」

最後まで嘘をつけなかった俺は、遠のくお前にちいさく手を降った。

3/10/2023, 12:28:00 PM

「愛と平和ァ?

ラブアンドピースってか?

あとあれだ、結構前の車のCMで

キムタクが『ラブアンドジーンズ』って言ってた」

「もう、社長ってば!

冗談言ってないで書類整理に着手してください。

これ以上重要書類かもしれない書類の上に

コーヒーカップを置くのは嫌ですからね!」

「いや、ホントだってば」

「はいはい、わかりましたってば」

3/4/2023, 5:36:05 PM

「大好きな君に!」

なんてありきたりなメッセージを添えたチョコレート。

お菓子作りが好きな私は、毎年かなりの量のチョコレートを作って配る。
メッセージカードを添えるのもお決まりだ。

それを知っている君は、毎年ありがとうと言って受け取ってくれる。
毎年この日に貰う、君のチョコレートが一番美味しいんだ、と嬉しそうに笑って。

今年はどんなチョコレートかな、と楽しげに箱の蓋を開ける君は知らない。

君にだけ、毎年同じ文言のメッセージカードを添えている事を。

鈍感な君は、こんな事じゃ私の思いに気づいてなんてくれない。
分かっていても、純粋に楽しんでくれている君の笑顔を少しでも長く見ていたくて。

臆病な私はきっと、来年も同じメッセージカードを用意するのだ。

2/28/2023, 5:52:22 PM

『遠くの街』って、素敵な響きですよね。

こう、想像力を掻き立てられるっていうか。

実は私、自分の中に『こんな街があったらいいな』

っていう、自分だけの『遠くの街』があるんです。

そこは海沿いに広がる街で、

ヨーロッパの田舎町にあるような、

おとぎ話にでてきそうなかわいいお家が並んでいて。


私は運河沿いの、1階がお花屋さん、2階と3階が

アパートメントの3階の角っこの部屋に住んでるんです。

お部屋の中も考えてるんですよ。

聞いてくれますか?

2/26/2023, 4:00:24 PM

『君は今頃なにをしているのだろうか。

私のことなんて綺麗さっぱりわすれてさ。

君と、君の大切な人が、かけがえのない時間を過ごせていたら、私はそれで……。

……。やっぱり嘘。 

頭の隅でいいから閉まっておいて。

それで、雨にうたれる百合の花を見たら、私のことを思い出してほしいの。

わがままでごめんね』

今日やってきたのは、
『幼馴染の女の子が結婚して遠くへ行ってしまった』と話すお嬢さん。


彼女の、大好きな女の子へ伝えられなかった気持ちは
シロップに溶かしてスポンジに。

彼女の、大好きな女の子とその大好きな人の幸せを願う気持ちはクリームに混ぜ込む。

彼女の、大好きな女の子への最後のわがままは、たっぷりのお砂糖と一緒に、雨粒をまとった飴細工の百合の花となる。


出来上がったケーキを一口食べて、お嬢さんはとっても綺麗に微笑んだ。
その頬を滑り落ちた雫のことは、腕のいい店主と、可愛らしい店員さんと、彼女を思って作られたケーキしか知らない。


「先生、今日のケーキも素敵でしたね!
でも僕は、何だか切ない気持ちになりました」

「コルト、君も中々舌が肥えてきたね」

「ということは、正解ですか先生!?」

「さあね。……ああ、いけない。ケーキに名前をつけてもらうのを忘れていたよ。私はどうもネーミングセンスがないのだけれど、仕方ない。今回は私が考えよう」


『2/27 雨の百合』


「どうだいコルト?今回のケーキの名前は」

「そのまんまですね!20点です!」

「やれやれ、ケーキは好きでも随分な辛口に育ってしまったようだ」



『喫茶店・旅鳥 オーダーメイドのスイーツお作り致します 詳しくは店のものにお尋ねください』


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