『君は今頃なにをしているのだろうか。
私のことなんて綺麗さっぱりわすれてさ。
君と、君の大切な人が、かけがえのない時間を過ごせていたら、私はそれで……。
……。やっぱり嘘。
頭の隅でいいから閉まっておいて。
それで、雨にうたれる百合の花を見たら、私のことを思い出してほしいの。
わがままでごめんね』
今日やってきたのは、
『幼馴染の女の子が結婚して遠くへ行ってしまった』と話すお嬢さん。
彼女の、大好きな女の子へ伝えられなかった気持ちは
シロップに溶かしてスポンジに。
彼女の、大好きな女の子とその大好きな人の幸せを願う気持ちはクリームに混ぜ込む。
彼女の、大好きな女の子への最後のわがままは、たっぷりのお砂糖と一緒に、雨粒をまとった飴細工の百合の花となる。
出来上がったケーキを一口食べて、お嬢さんはとっても綺麗に微笑んだ。
その頬を滑り落ちた雫のことは、腕のいい店主と、可愛らしい店員さんと、彼女を思って作られたケーキしか知らない。
「先生、今日のケーキも素敵でしたね!
でも僕は、何だか切ない気持ちになりました」
「コルト、君も中々舌が肥えてきたね」
「ということは、正解ですか先生!?」
「さあね。……ああ、いけない。ケーキに名前をつけてもらうのを忘れていたよ。私はどうもネーミングセンスがないのだけれど、仕方ない。今回は私が考えよう」
『2/27 雨の百合』
「どうだいコルト?今回のケーキの名前は」
「そのまんまですね!20点です!」
「やれやれ、ケーキは好きでも随分な辛口に育ってしまったようだ」
『喫茶店・旅鳥 オーダーメイドのスイーツお作り致します 詳しくは店のものにお尋ねください』
2/26/2023, 4:00:24 PM