篝火

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2/22/2023, 8:20:29 AM

「はてさて、何からはじめたものか」

荷物の入ったダンボールの山々がそびえ立つ。
白髪を綺麗にまとめた初老の男は、メガネのブリッジを押し上げながらぼやいた。

「とりあえず、中のものだしてダンボール片付けちゃいましょう!」

左隣から元気な声がする。
荷物の山に阻まれ姿は見えないが、腕まくりをしつつ気合を入れているのは容易に想像できた。

「そうだね。まずはカウンターで使う物を出していこうか」

そう言いながら、ダンボール箱をまたいでカウンターキッチンへ向かう。

「やっぱり今回も魔法は使わないんですか?」

「もちろんだよ。食器も沢山あるし、手元が狂ってしまってはいけないからね。万が一というものさ」

「『万が一』が起きないことなんて、先生が一番良くわかってるくせに……」

不服そうな顔の少年がひょこり、とダンボールの合間から姿を表す。
先生、と呼ばれた初老の男は、納得しきれない様子の少年に笑いかけた。

「さあ、早速はじめよう。できれば明日にはお店を開きたいからね」

「明日!?無茶ですよ!荷物はこんなにあるのに!」

「コルト。やってやれない事はないのだよ。我々は0からはじめるわけではないのだからね」

「それはそうですけど……」

コルトと呼ばれた少年は、ふわふわの黄金の頭部をフルフルと振ると、小さな両手で握りこぶしをつくる。

「そうですね!やってやれないことはない!」

むん、と気合を入れるコルトに小型犬を思い浮かべつつ、「先生」は近くのダンボールを開け、中の物を覗こんでみる。
納められていたのは、コーヒーメーカーだ。


「さて、この町ではどんなお客さんに出会えるかな?」

期待に胸を膨らませながら、「先生」は微笑んだ。


『喫茶・旅鳥、只今開店準備中。』

2/21/2023, 4:48:05 AM

「同情って言えば、『同情するなら金をくれ!』がでてくるなあ」

と言われたので、

「なにそれ?」

と聞くと、相手はうめき声を上げて天を仰いだ。

2/17/2023, 3:24:45 PM

昔から自己紹介欄の
「好きな食べもの」「好きなスイーツ」「好きなお菓子」
といった、好きなもの、いわゆるお気に入りのすぐに思い浮かばなかった。

好きなもの、すきなもの、私のお気に入り、なんだろう、わからないな

短い時間でそう考えたあと、私は大体嘘をついた。
だって、わからないんだもん

2/16/2023, 12:50:42 PM

「誰よりも、あなたのことが大好きです」

死の間際、あなたは私を枕元に呼んでそういった。


「すぐに生まれ変わって、またあなたに会いに行きます」


それが最期の言葉だと理解するのに時間はかからなかった。
呼吸をするのにも痛みが伴う中、苦しみながら口にしたのが、私への言葉だなんて。
ほんの少しだけ嬉しいと思ってしまう。
あなたが今すぐ生まれ変わったとしても、世界が広がるまでに私は年老いてしまうのだけれど。

最期の言葉に選んだくらいだ。
しょうがないから、待つだけ待っておいてあげる。

2/12/2023, 12:04:59 PM

伝えたい事がある。

そう言って玄関の前に現れた彼は、あの日と変わらない姿をしていた。

顔を見て伝えたい、開けてほしいと言う彼に思わず鍵を開けてしまいそうになる。
でもそれは駄目なのだ。何度も何度も己に言い聞かせ、できない、と答えた。

インターフォン越しの彼はそうか、と呟くと、そうだよなあ、と寂しそうに笑う。

ああ、その表情だって、あの日と何も変わらない。
今すぐ扉を開けて、彼を抱きしめたい。
彼のぬくもりを感じたい。
だが、それは最早永遠に叶うことがないことを、私は既に知っていた。

ゴメンな、大好きだよ

消え入るような声にハッとして、俯いていた私はかじりつくようにインターフォンの画面を見る。

彼は、やっぱりあの日と同じように笑って、それから夜に溶け込むように消えていった。

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