残された時間があとどれくらいかわからない、それでも私には成し遂げなければいけないことがあるのだ。
ひとつ、あなたを見つけること
ふたつ、あなたと目をあわすこと
みっつ、あなたに伝えること
どんなに必死に探しても今日もあなたの姿を見つけることすらできない。はやく、はやく!もうあなたとはここでしか会うことができないのに!
立ち止まりその場でしゃがみこむ、諦めかけた瞬間視界に人影が見えた気がして追いかけようと立ち上がり一歩踏み出したその時、床が急に無くなったかのような浮遊感。
また会えなかった、ベッドの上でため息をつく。ここ最近の状況に喜ぶべきか悲しむべきかわからなくなってきた。
それでもきっと私はあなたを探すことをやめられないだろう。
「えっ、傘忘れたんだ。めずらしいな。」
自分はけっこう真面目だしどちらかというと人に頼られるタイプの人間だ。忘れ物は基本的にすることはない。
つまりなにが言いたいかって、朝は雨は降っていないけれど1日中どんよりとした天気で放課後もしかしたら雨が降り始めるかもしれない今日みたいな日に、折りたたみ傘を持ってこないなんて普段の自分では考えられないっていうこと。
「一緒に帰らないか?」
もしかしたらって思ってた言葉が彼から聞けて心が踊りだしそうなくらい舞い上がる、それを表に出さないよう返事をしてひとつの傘に普段より近い距離のまま帰り道を歩く。
家では置き去りにされた折りたたみ傘が玄関で私を待っている。
いまだかつて授業中にこれほど緊張したことがあっただろうか。左から感じる視線に押しつぶされてしまいそうだ。
私の隣の席に座る彼は寡黙であまり表情が変わらない人でこのクラスになってそろそろ一年たつが数えるほどしか話をしたことがない。
そんな彼がずっと見つめてくるなんて私はなにかやってしまったかと記憶を掘り起こしてみると、教科書を忘れて一緒に見させてもらったり、ペンを貸してもらったり先生に当てられたとき答えを教えてもらったりと彼に助けてもらった記憶ばっかりだ。言葉は少ないが実は優しい彼でも思うところがあるのかもしれない。
本日最後の授業が終わり意を決して理由を聞いてみようと隣を向くと、ぱちり、と目が合った。その瞬間わかってしまった、どんなに察しが悪くたってわかってしまう。耳まで真っ赤にした彼が目をそらした、常に無表情な人だと思ってたけど実は瞳に感情がでやすいタイプなのかも。
数年前までは夢でいっぱいだったはずの頭の中はいつしか焦燥感で満たされていた。
憧れをひたすら追いかけてここまできてしまったけれど案外世界は厳しくて少しも自分に優しくない。いっそのこと諦めてしまおうかと何度も何度も考えたけどそうするにはまだできることが多すぎる。
中途半端なまま醒めることもできず夢を見続けることもできない私は最後に何を成すことができるのだろうか。