tokiwa_x3_2

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3/22/2024, 2:24:41 PM

何日も寝れない日が続いた。
寝なければと目を瞑ると、彼が瞼の裏に浮かんでくる。怒りの様な喜びの様な、色んな感情に振り回されて、歪んでいるような。
 

それが最後に見た彼の表情だった。
 

それからどうなったか、記憶の無いまま「居なくなった」と彼の事をよく知る人から伝えられて、寂しくて悲しい、なんて良く分からず、ただ静かに状況を飲み込む。
最後に会う数週間前、彼から別れ話を切り出されて、戸惑ったが一瞬で「そうですか」と、ただその言葉を受け入れた。
特に何も言わず、表情一つ変えなかった彼が、私を殺す時にだけ複雑に歪んだのが心残りで苦しくなる。
 

浸かっていた顔を水から出す。
 

温水のプールなのに、体中を包む水は冷たく感じる。ただそれもどうでも良くなってきて、水底に自分をまた沈めた。
重力に逆らって空を見ているよりも、水の中でただ光の揺らめきを見ている方が楽しい。
寂しくて悲しい事も、その感情すら忘れられるような気がして、水の泡が光に吸い込まれるのを見つめる。
手を伸ばしてそれを掴もうとしたが、すり抜けて消えてしまい、何も残らなかった。

結局愛しているかどうか分からずに、関係は終わってしまって、私の愛も嘘だらけだったんだなと嫌になる。

彼に対して何を思っているのか分からなくて、好きでもないのに「愛している」と言われて、愛なら分かると手を取ったのに、最後には一人で何もせず沈んでいる。
残ったのは何色にも光ることの出来ない、透明な自分だけで、彼の最後の表情の意味すら感じ取る事が出来なかった。

息が続かなくなってきたけれど、このまま沈んでいけたら苦しさも忘れるだろうか。既に私は死んでいるのかもしれないと思うと、もうどうでも良かった。


彼を愛していると、私みたいなやつでも、
誰かを愛せると勘違いをして、
自分だけ浮かれて、本当に、



「バカみたい」
※再掲

2/7/2024, 4:12:24 PM

どこにも書けない事を、何故自分が抱いているのか、どうしても分からない。
立ち止まって目を閉じ、ため息をつく。

そんな事を考えるのが悔しくて、ずっと昔に捨ててしまったのに、今では捨てるのが、惜しくて惜しくて堪らない。
箱に仕舞って、忘れようとしたが溢れて鍵もかけられない。
こんな厄介事、面倒でしかなくて、いらないと全て手離したのに、どうして傍に繋ぎ止めているのか。

いつの間にか握り締めていた手を開いて、見つめた。
分からないから、書き出して、そうしてまた捨てたいのに捨てれない。
何もないはずなのに、透明で光るそれを大事に持っている。
何度も何度も捨てようとして、抱き締めている。
忘れたくて、鍵をかけても、それを覚えてしまっている。

握り締めた片手を、もう片方の手で包んで、唇に押し当てた。憎らしいのに、愛おしく感じるのは何故なのか。

箱を作って鍵をかけてまで、書くのを止めたのに、光を反射する水のように溢れてしまう。
見ないように目を閉じても、光って忘れさせてくれない。
書かせようと必死になる感情を、早く捨てたくて堪らないのに。

やがて、考える事こそがそれに溺れる要因かと、踵を返し歩き始める。

どこに書けば、愛と書かずに済むのか、分からない。



「どこにも書けないこと」