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どこにも書けない事を、何故自分が抱いているのか、どうしても分からない。
立ち止まって目を閉じ、ため息をつく。

そんな事を考えるのが悔しくて、ずっと昔に捨ててしまったのに、今では捨てるのが、惜しくて惜しくて堪らない。
箱に仕舞って、忘れようとしたが溢れて鍵もかけられない。
こんな厄介事、面倒でしかなくて、いらないと全て手離したのに、どうして傍に繋ぎ止めているのか。

いつの間にか握り締めていた手を開いて、見つめた。
分からないから、書き出して、そうしてまた捨てたいのに捨てれない。
何もないはずなのに、透明で光るそれを大事に持っている。
何度も何度も捨てようとして、抱き締めている。
忘れたくて、鍵をかけても、それを覚えてしまっている。

握り締めた片手を、もう片方の手で包んで、唇に押し当てた。憎らしいのに、愛おしく感じるのは何故なのか。

箱を作って鍵をかけてまで、書くのを止めたのに、光を反射する水のように溢れてしまう。
見ないように目を閉じても、光って忘れさせてくれない。
書かせようと必死になる感情を、早く捨てたくて堪らないのに。

やがて、考える事こそがそれに溺れる要因かと、踵を返し歩き始める。

どこに書けば、愛と書かずに済むのか、分からない。



「どこにも書けないこと」

2/7/2024, 4:12:24 PM