夕焼けが綺麗だった。
ご飯が美味しかった。
何処かの誰かから温かいハートが届いた。
そんな些細なことでも、今日の私の幸せ。
〝些細なことでも〟
「これをお前さんに。」
そう言って、神様は僕に一本のろうそくをくれた。
そっと火を灯し、僕の両手に握らせる。
瞳で跳ねるその小さな灯りは、僕の心を照らす温かさらしい。
「これから先、幾度となくこの灯りが消えかけることがあるだろう。されど、これだけは覚えていてほしい。」
「容赦ない雨風からその灯りを包み込み、お前さんを照らしてくれる〝灯り〟に出逢う日がきっと来る。」
神様はふっと目を細め、優しく頷いた。
あの日からどれだけの月日が経っただろうか。
社会に出てからというもの、僕の心は大嵐に見舞われることが殆どなような気がする。
神様……まだですかね? と尋ねたい自分の心では今日も、小さな灯りが静かに揺れているのであった。
〝心の灯火〟
一人寂しく、売れ残りのアジフライを口に運ぶ。
誰もいない家に咀嚼音が響くことにどこか虚しさを感じる。
スマホの通知音が鳴った。
どうせまた興味の無い公式アカウントだろう。
「は?」
鼓動が変に脈を打ち、背中に冷や汗がつたる。
僕は深呼吸をしてスマホを伏せた。
こんなもの既読をつけられるわけがない。
「こんばんは! 私はあなたのお腹の中のアジフライです♡♡」
〝開けないLINE〟
ピーピーピー
無機質な電子音が鳴る。
何もおかしくないはずなのになぁ、と中年の男が首を傾げた。
この男によって作られたロボット、それが僕だ。
人間のような感情をもつ最新型らしい。
ピーピーピー
何だろう、何かが足りない。
部品は全て揃っていて問題ないはずなのに。
人間はいつもこんななの?
〝不完全な僕〟
君に逢えた、ただそれだけで涙が溢れるくらい恋をしていた。
君の日々の不可欠でありたかった。
わかっているよ、もう会えないことなんて。
あの日からずっと、心から君が離れてくれないんだ。
君とすれ違った時に香る匂いが好きだった。
何の香水を使っているの、なんて聞けやしなかったから。
今宵も僕は、君のふりをした香水に包まるんだ。
〝香水〟