一通の手紙が届いた。
「お元気してますか?」
たったそれだけだった。
「なに、この手紙…」
私が神社の掃除をしているとき、風にのせて、ある手紙が届いた。
いつもだったらそのままゴミとして捨てるところを、私は躊躇った。
綺麗に折りたたまれていて、達筆な字で「あなた宛」と書かれた紙に興味を引かれたからだ。
「あなた宛…?」
不自然な文章に疑問を抱きながらも、紙を開いてみた。
すると、中には
『お元気してますか?』
というたったそれだけの文字が丁寧に書かれていた。
「なにこれ、、」
手紙というのは、普通文章が連なって書かれているものでは無いのか。
私は、その手紙を閉じた。
「どこから送られてきたんだろう」
今日はいつもより風が強く、紅葉の枯葉も一段と音を鳴らして落ちていた。
そんな中で、たまたま神社に届いてしまった不思議な手紙がなんだか怖くも思えてきた。
一瞬、小学生が友達とふざけて「あなた宛」という手紙を紙飛行機のように風にのせて送ったのかと思った。
けど、小学生にしてはあまりにも綺麗でブレのない字だったことから、大人の人が書いている途中に窓でも開けて飛んでいってしまったのではないかと考えた。
「そろそろ終わりにしなきゃ」
神社の掃除を終わらせ、神主に挨拶を終えてから私は支度をして家に帰った。
その日はなんとなく、頭の中にあの手紙のことが残っていた。
翌日、私が神社について一礼をしたとき、足元に一枚の丁寧に折りたたまれた紙が目についた。
「これ、、」
昨日見た「あなた宛」の手紙が頭に過った。
中を確かめてみると、それは間違いなく「私宛」の物だった。
昨日と変わらない達筆な字で書かれた手紙に私は驚きながらも内容を見た。
『おかえりなさい。』
この文章だけが書かれていた。
私は、大人が窓を開けて紙を飛ばしてしまったわけではないことを確信した。
中央に綺麗に書かれたその文字は、少し不気味でもあった。
「一体なんなの」
私は思いきって空を見渡し、近くから誰かが見ている可能性を探した。
すると、近くの家の窓から人がこちらを覗いてるように見えた。
「あの人なのね」
私はこれ以上無駄なゴミを増やしたくないという気持ちで巫女の服を着替え、その家へ向かった。
家の前に立ったとき、私はふと気づいた。
「これ…」
私が普通の家だと思い近づいた場所は、まるで今は使われてないかのように廃墟化した1つの屋敷だった。
「どういうこと!?」
私が屋敷から神社の方へ向くと、そこには神社は存在していなかった。
「一体…夢なの?」
私は現実だと思えなかった。
すると、私の後ろから何かが落ちた音がした。
「紙…」
見覚えのある達筆な字と「私宛」であることが見て取れる文章に私は戸惑った。
恐る恐る紙を拾い、開いてみるとそこには
「全部夢だよ」
と書かれていた。
けどそれは、いつものように丁寧に書かれた字ではなく、血のような赤い液体で弱く書かれた文字だった。
私は恐怖でその手紙を地面にたたきつけた。
その瞬間、視界が一瞬でぼやけた。
気がつけば、私は布団の上にいた。
私の家だ。
急いで日付を確認すると、2回目の手紙が届く前日になっていた。
「どうして、、夢だったのね…」
私が唖然としていると、枕元に紙が置いてあることに気づいた。
「なんで、、!!なんでここに、!どういうことなの!!」
私は自然と紙に手を伸ばして手紙を開いていた。
そこには、信じられないほどの異臭を放つ濃厚な血で、こう書かれていた。
『おはよう』
「今日は大量の流星群が降り注ぐ日です。皆さん、願い事を星に届けましょう!」
ピッ───
朝からそんなニュースが耳に入る。
「おばあちゃん、ほんとに流星群降るんかな」
「…昔もよくあったのう、星に願いを伝える日が。」
「それ、流星群じゃなくて普通の星じゃないん」
「ちゃうと思うがな、」
「ふーん。てかもう学校行かんと!いってきまーす!」
田舎で育った私は、普段から星をよく見ていた。
夏は特に蒸し暑くて蝉の鳴き声と一緒に星が輝いてたのをよく覚えてる。
〈皆ー静かにしろー。
今日はな、転校生が来ている。入ってこい〉
「転校生!?」
「どんな子なんやろ」
「女子!?男子!?」
ガラガラッ___
その瞬間、綺麗な顔立ちをした生徒が教室に足を踏み入れた。
『神奈川県から転校してきた春風龍輝です。よろしくお願いします。』
「何だよ男かよー」
「まって、超イケメンじゃない!?」
「やばーい!私席隣がいい!」
「男はお呼びじゃねえっつの」
皆がざわつく中、私は密かに心を奪われていた。
あんなにかっこいい人、見た事ない…
そう思いながら、私は彼をじっと見ることしかできなかった。
〈はい静かに。じゃあ春風くんの席は…あそこかな〉
先生があそこ、と指を指した先には、私の隣の席が……ではなく私の前の席だった。
「よろしく、イケメンさんよ」
『よろしくね。ありがと笑』
前二人の会話が微笑ましく聞こえてくる。
「おい、夏那。お前の隣空いてるからって期待したべ」
そう喋りかけてきたのは春風くんの隣の席の矢沢だ。
幼稚園からの幼馴染で普段からよく話していた。
「はぁっ!?うるさいなー、お前だって桜ちゃんと隣なれなくて悔しがってたくせにー笑」
「だから俺はもう桜ちゃんのこと好きちゃうって…!」
「じゃあ前言ってた好きな人って誰なんですかー?」
「お前なっ…!言うわけないやろ!!」
『笑笑、2人は仲良しなの?』
「っえ、」
優しく笑いかけてくれた春風くんに戸惑う私。
「あー春風くんは知らんと思うけど俺ら幼稚園から一緒やねんよ。腐れ縁てきな」
「矢沢とクラス離れたことないよね、いい加減ついてくんなよほんま!」
『へー笑じゃあ仲良いんだ?』
「いや!仲良くないよ全然。こいつが変なちょっかいばっかかけてくるだけー、」
「はあ?お前だろ夏那!かまちょなくせに」
「違うしー!ごめんね春風くん、気にせんといて!」
『わかったよ笑…というか、君名前なんて言うの?』
春風くんが自然と私の名前を聞く。
「あーえっと、恋夏那!苗字珍しいってよく言われるからそれで覚えて笑」
『へー、"夏那さん"ね。』
「え、!?ああ、無理して名前で呼ばんくても大丈夫やけど、、」
※センシティブな表現が含まれています。激しい内容にはしていないので見たい方だけ見てくれると嬉しいです。
「じじゃーん!」
サンタのコスプレをしてはしゃいで彼に見せる私。
「…買ったの?」
そんな彼はいつものように平然としていて、私のこの格好を見て一緒に楽しんでくれるかと思っていた私は完全に唖然としていた。
「え!?ちょっと、せっかくクリスマス衣装着たのにそれだけ!?」
「まあ、イブだけど別に普通の平日と変わんないからね」
相変わらず冷めた彼に、私はこう言い返す。
「涼私の格好見てさ、なんか、ほら!ないの?」
「えー、まあ可愛いは可愛いけど、それはいつもだし」
「ちがくて!!なんか、なったりはしないの、?」
「笑え?」
私が恥ずかしそうに聞くと涼はニヤニヤしながら私にこう言った。
「なに、俺がそんなんで興奮すると思ってんの?笑」
「ち、ちがうし!!単純に男の子はなんないのかなーって気になっただけ!」
「ごめんだけど俺、それで興奮してたら夜街歩けないから」
「そうじゃなくてさ、彼女がサンタコスしてるんだからちょっとはなんかあってもいいじゃん!」
私が少し拗ねたように言うと、涼は私の耳元で言った。
「なに、笑なんかって、なんかしたいの?」
「っ…」
一気に耳が赤くなる私を、笑いながら見る彼。
「耳も身体も熱くなってるね。暑いの?笑」
「ち、ちがう!ちょっとびっくりしただけ、離れて」
「なんでよ、せっかく可愛い格好してるんだから近くで見たいじゃん。ね?」
「ーー!いいから!」
彼の思惑通りな気がして、嫌気がさす。
「もうこんなんなってるよ?おまえ」
「やめて、」
「俺の、当ててんのわかる?」
「、、わかんないから」
「えー笑こんなに当てまくってんのに」
「ねえ、涼興奮してる?」
「してるよ、めっちゃ」
そう言いながら彼は私と唇を重ねる。
「…涼っ、」
「なに今更恥ずかしがってんの笑キスくらい普通でしょ」
完全にそういう雰囲気になった私たちは、またいつもと同じ行為を繰り返す。
「涼、もう腰痛い、」
「えー、俺はもっとしたかったのにな。こんな可愛いサンタさんにめちゃくちゃできるんだもん」
「やめてよ」
「照れんなって」
「涼さ、もうすぐイブ終わっちゃうけどだれからも誘われてないの?明日笑」
「うるさ。おまえのために空けてたんだよ」
「うそつけ」
「ほんと」
涼のまっすぐな目を見て、私はまた好きになる。
「涼」
「ん?」
「好きだよ」
「なに急に笑」
「クリスマスイブだから特別」
「おまえしてるとき毎回好き好きうるさいけどな」
「もう!いわないでよいちいち!」
「はいはい笑俺も好きだよ」
彼からの「好き」をもらったとき、時計がちょうど0時になった。
"イブの夜"
私は、人を愛すことができないんだと思う。
どうしてかって、うーん。長くなるな
けど簡単には言えないこと。
私って仲良くなった子をすぐに切り捨てたりするし、新しくできた彼にも優しくなんてできなかった。
小学校4年生の頃、仲良くなった女の子がいた。
その子は明るくて優しかったし太陽みたいな子だなあって最初は思ってた。
けど、知っていくうちにどこか儚くて、切ない子だと思った。
悩みとかそういうものを打ち明けたりは決してしなかったけど、幼いながらに私も「ああ、何か抱え込んでるな。この子は。」って思った。
そのくらい、その女の子はいい意味で分かりやすかったしいい意味で大人だった。
私にきっと相談したくなかったんだろうなって。
けど本当は助けて欲しいのかなーって。
でもそれに気づいた頃には、もう遅かった。
彼女は、病院で自殺した。
理由は今でも分からない。
けど、その子の両親から聞いた話では彼女、凛は元々心臓が弱くて病気だったらしい。
そんな中、小学2年生の頃にこっちに転校してきて、慣れない環境と自分の患う病のせいで心のタンクから不安が溢れてしまった。
けどそれを伝える勇気が凛には無かった。
私から見た凛は皆の前では明るくてクラスの中心のように思えた存在だったけど、心の奥底では自由になりたかったんだろうなと今では思う。
昔馬鹿みたいに海の中ではしゃいだとき、凛の表情が凄く眩しかったのを覚えてる。
それは、クラスの真ん中で笑顔で話してるときの凛とは違って。
本当にやりたかったことはあれなんじゃないのかな。
凛が本当にしたかったことってああいうことだったんじゃないのかな。
なんて、今考えても遅いけど。
海で服もびしゃびしゃだし、髪も濡れてたけど、凛が心から笑いかけてくれたのはあの日が最初で最後だった。
凛が病院で自殺をする前の日に、私は凛からのお見舞いの誘いを断った。
今でも覚えてる。まだ小さな携帯に「そっか」と悲しそうに送られてきたメッセージを。
あの日は私の誕生日だった。
仕方ないといえば仕方なかった。
両親からお祝いをされて、ケーキを買いに行くところだった。
幼い私には、病気を患っている友人のお見舞いがどれだけ重要かだなんて分からなかった。
私は、親友より自分を優先した。
さっき仕方ないと言ったけれど、あれは嘘だ。
もし私が彼女のお見舞いに行っていたら?
「今すぐ行く」と送っていたら?
次の日に、凛は自分で自分を傷つけることは無かったかもしれない。
私がもっと凛の存在の大切さに気づいていたら。
凛と出逢ったのがあと少しでも大人だったら。
彼女は、生きる道を選んだかもしれないのに。
私はその後悔でいっぱいになった。
凛の両親からの話なんて、そのときは右から左だった。
凛が死んだ悲しさと悔しさで頭がいっぱいだった。
凛の悩みに気づいていたのに
心の底の気持ちに私だけは気づいてあげれていたのに
どうして私は凛を選ばなかったんだろう。
今考えても、もう遅い。
彼女の火葬は、とっくの昔に終えたのだから。
私はそこから、仲良くなった子をすぐに捨てたり関係を切ったりしてきた。
中学生になって彼氏が出来ても、そのときの恋愛なんて所詮子供の遊び。なんて大人な考えをしてた。
だから、自分から彼に別れを告げたり急に連絡を断ったりした。
高校、大学と生きてきたけど、私の心の中から凛が消えたことは一度もない。
けどその代わり、私は人を愛すということができなくなった。
でもそれって悪いことでも良いことでもない。
だって人はいつか裏切るし、あの時みたいに、急に目の前から居なくなったりする。
だから人を愛してしまったらもう最後なんじゃないかって私は思う。
だけど、人を愛さないこともまた悲痛だったりする。
結局、この話に結論なんてない。
きっと私が死んだとしてもこの話にピリオドがつくことはないと思う。
いつまで経っても、とりとめもない話だ。
眠れないほど彼を思い出す。