彗星

Open App
11/28/2025, 6:50:53 PM

厳しい寒さが肌をジンジンと刺激する。
呼吸しようとする度に白く染まる息が出て喉が詰まる。

「おはようハリー。」
長い紺色のスカートをぎゅっと握るその姿は、可愛らしさの中に愛おしさもあった。
「おはよう、ソフィア。」
私とソフィアは幼なじみだ。
ソフィアは昔、父親の仕事の都合で日本に引越してそれからずっと日本に住んでいた。
私はというと、母がモデルをしていてそれが日本で人気が急増してしまい日本からのスカウトや仕事を断り続けることができなくなってしまったため高校に入学する直前に引っ越してきた。
偶然引越し先がソフィアの住んでいる街で、昔からの幼馴染なこともあってソフィアが志望していた日本の私立高校に私も志望して、見事二人で合格した。家もお互いに近かったから毎日朝待ち合わせをして学校に行っている。
私たちが通っている学校はいわゆるお嬢様学校で、校舎も制服も何もかもが綺麗だった。
私は初め、ソフィアの制服姿を見たとき女神かと思うくらいに美しくて吃驚した。

ソフィアは昔から可愛かった。
幼稚園の頃から母親同士の間で、小学生の頃にはクラスや友達の間で噂されていた。
中学からはソフィアがそばにいない生活を当たり前に送っていたからソフィアが美人で、優しくて、面白くて、頭が良いことだってもう忘れていた。
けれど高校入学の初日の春、朝待ち合せして私の瞳に映ったソフィアは私の知ってるあの頃のソフィア以上に輝いていたし、美人だった。
私は、ソフィアを単純に尊敬していた。
頭の良さは同じ学校に通えているし変わらないと思われるかもしれないけど学年のトップを取るのはいつもソフィアだしどれだけ可愛い子がクラスに何人も居てもソフィアだけはいつも誰かに好かれていた。

いつからか、そんなソフィアのもとに私が居て良いものなのか考えてしまうようになった。


「ハリー、寒そうだね笑」
「うん。」
「私も寒いから今日はマフラーつけてきたよ。どう?」
少し意地悪そうなその視線を、私はすぐに逸らした。
「似合ってるよ」
「ふふ、ありがとう」
「ハリーは寒がりなのにマフラーとか手袋はしないよね」
「まあ、家にないからね」
「買えばいいんじゃないの?」
「面倒くさいだけ。」
「そっかー」
頬と鼻先を赤く染めた彼女の表情は、ずっと見てられるくらいに可愛いものだった。


学校────
「おはよう皆」
『ソフィアちゃんおはようー!』
『え!?マフラー着けてるじゃん!可愛い〜』
みんな隣に居る私には見向きもしない。
当たり前だ。ソフィアは可愛すぎるし、私なんて目に入るわけもない。
大人しく私は席に着く。
「うん、そうなの!実はこれ自分で編んだんだ〜笑」
『えー!凄すぎ!!編み物までできるの?』
「でも実は失敗作なんだ笑本命はまだ編んでる途中!」
『本命って手袋とか?帽子とか?』
「ううん、本命もマフラーなの」
『マフラー2種類も作るんだね!凄い〜なら今つけてるやつは予備とか?』
「まあ、そんな感じ笑」
『ほんとソフィアちゃんはなんでもできるよね可愛い』

周りからチヤホヤされてるソフィアを見るのは、なんだかいつも気が狂う。
別にそれは嫉妬とかじゃなくて、
「ね、ソフィアトイレ行こうよ。」
「うん、!分かった!ごめんね皆行ってくるね」
こうしてソフィアに用がないのに声をかけてしまうから。
「ソフィアあれ、自分で編んだの?」
「うん!すごい?」
ソフィアはいつもずるい。上目遣いをしながら可愛いかどうかとか、凄いかどうかとかを聞いてくる。
「凄いよ。」
「ハリーに褒められるのが1番うれしいんだ」
「嘘つけ、笑」
「本当だってー!」
ソフィアはよくこういう嘘をつく。
私の気も知らないくせに。

って別に、ソフィアに好意を持ってる訳じゃないから、からかわれた気分になる方がおかしいのは分かってる。


放課後───
『ソフィアちゃん一緒にカフェ行こうよ皆で』
「あー、ごめんね編み物があるから」
『今朝言ってたマフラー?凄いねほんと努力家すぎ!』
「そんなことないよ笑じゃあまた明日ね!」
『うん!バイバイー!』


「う〜寒すぎる、」
サクサクと音を鳴らしながら雪道を歩く。
「いいの、カフェ行かなくて。」
「えっ…ああ、聞いてたんだね」
「うん」
「別に大丈夫だよ、きっと私が居なくても」
「なにそれ。編み物が理由だったんじゃないの?」
「まあそれもそうなんだけどね、あの子たち皆わたしを神様みたいに思ってるでしょいつも笑」
「……まあ確かに」
「昔からだけど、わたしはなんでも出来るわけじゃないし皆だって得意分野くらいあるのに私を毎回崇めるようにしてもらっちゃ悪いでしょ」
「でも実際、ソフィアは得意なことが多いじゃない」
「ハリーからみてもそう思う?」
「思う。」
「ふふ、そっか。ハリーになら思われても悪くないかもね」
「なにそれ、」
「…というか、私ずっと思ってたことがあるの」
「なに」
「ハリーは私と違って美人でかっこよくてなんでもスマートにこなしてモテてるのに何で誰とも付き合わないの?」
「……先に言うけど、モテてないし前半の私への褒め言葉は嘘ですか」
「嘘じゃない!し、モテてるよ。私見たよこの間の」
「あー、もしかして神崎さんの?」
「うん、他にも建部さんとか四宮さんとか」
「……」
「ね、モテモテじゃん」
「別に、あれは皆が純粋に可愛すぎるだけ。ピュアすぎて私の性格の悪さとか出来損ないな部分が見えてないんだよ」
「私以外にも可愛いとか言うんだねハリー。」
「ソフィアに言う可愛いとはまた意味が違うけどね」
「…私は特別ってこと?」
「…そんな事より、もう家着いたでしょ、帰るよ」
「はあー、わかりましたー」
「また明日」
「うん、また明日ねハリー」


翌日───
「おはよう、ハリー」
「ソフィアおはよう。寒いね」
「マフラーしてないからだよ」
「それは関係な……わっ、」
いきなり私の首に抱きつくようにして、ソフィアが赤いマフラーを巻き付ける。
「な、なに急に」
「…プレゼント。昨日寝ずに頑張ったんだからね」
「っ!これ、もしかして昨日言ってたマフラー、?」
「うん、ハリーが寒がりなのは私が一番よく知ってるから」
「笑寝なかったって…わたしのために?」
「そうだよ」
「…ほんとに嬉しい。ありがとう。」
「そんなにハリーが喜んでくれるなら作ってよかった!私と色違いなんだよ」
「ソフィアは青色なんだね、似合ってる。」
「ねえハリー、」
「ん?」
「マフラーをプレゼントする意味って知ってる?」
「知らない」
「あなたに夢中って意味。」
「…なに、それ」
「ハリー、好きだよ」

この瞬間、初めて霜降る朝を寒く感じなかった。

11/27/2025, 6:01:10 PM

寝る前のこの至福の時間が、心の深呼吸をする時。

11/12/2025, 4:02:27 PM

高貴な音楽と共に足を弾ませて華麗に踊る。
沢山の人々の中に紛れて、手を取り合っていく。
美しいドレスが花のように広がって。
どこを見渡しても華美な絵画に置物に食事に庭がある。


「お嬢様、失礼致します。」
「どうぞ」
「舞踏会は無事終了致しました。本日も何事もなくご来客頂いた方々が安全で安心できるような舞踏会を開けられたこと誠に光栄でございます。お嬢様も本日は大変疲弊なさったとお思いですので休息なさってください。」
「ありがとうムッシュ。」
「とんでも御座いません。それでは、失礼致します」

気品高い細々とした物がこの部屋、城には沢山ある。
クローゼット1つにもクリスタルや価値の高い宝石が使われている。
誰もが憧れるこの豪邸に、私は王女として住んでいる。
私はこの国のトップに生まれた。
生まれたときからキラキラした輝いたものばかりに囲まれていて、食事も身の回りの事も全て執事やメイドがやってくれていた。
当たり前だけど、私だって国のことは沢山知っているし常に毎日勉強しなくてはならない。
学校という場所に通っていない限りは、物心なんかがつくそのずっと前からもう頭が良くないとならない。
けれど私は、この暮らしに嫌気がさしたことはない。
そもそも、容姿や中身で困ったことがない私は外に出て自由を望むわけでもない。外なんかに出たら、あっという間に世界中が大騒ぎするから。
かといって、いくら外の世界に出ない私でも私、いや私たち貴族に向けて世間からどんな風に見られているのかは知っている。
"なんでもかんでも召使いがやってくれる"、"自分達だけが良い暮らしをしてる"、"どうせお城の中は意味もなく高価な物だらけ"
そんな偏見は、私たちの耳にも入っている。
正直、中には事実もある。
生活のことは全て執事やメイドにやって貰っているし毎日豪華で健康な食事をさせて頂いているし、艶やかなお城に住んでいるのは事実。
だけど、私には一つだけ命のように大切な物がある。
それがティーカップだ。
それは、1つ1つのデザインが細々とした宝石でできていたり絵画が描かれていたりはしない。
飲み口が全体的に少しくすんだ赤色で、手で持つ部分は普通の形。決してお花のような形にはなっていない。
そんなティーカップのどこが良いのか、と思うかもしれませんが私は大事に大事にしています。
ここのお妃である母が病で亡くなってしまったときの形見ですから。
妃が存在しない国なんてと母が亡くなってから10日の間、ずっと言われ続けている。
私は母が亡くなってからこのお城の豪華さ、食事が毎日用意されている有り難をより理解するようになった。
全てが繊細で美しく作られていて、ドレスや靴も全てが特別な物だ。
けど、この少し小さくて今の私には足りないくらいの紅茶しか飲むことの出来ないティーカップが、私の生きる意味をまた少しづつ、伸ばしていてくれる。


"ティーカップ"

10/23/2025, 2:54:05 PM

無人島に行くならば、何を持っていくか。
よくある質問だ。
大抵の人間はライター、ナイフ、食料、水、スマホ。
ときには友達と答えるものもいる。
私は正直なんでもいい。
身一つあれば困ることもないだろう。
無人島で生活している者もいるのだから、何かをわざわざ持っていく必要なんてない。

皆さんは、無人島に行くならば何を持っていきますか?

10/1/2025, 3:01:13 PM

放課後、広いグラウンドとオレンジがかった夕日が私の心を今が永遠であればいいのにと思わせるほど美しく、満たされていった。

ガラガラ──
「あれ、まだ居たのか」
「直人…!部活終わり?」
「うん、恋雪は?」
「私は……勉強してた」
「へー、真面目だな。でももうそろ帰らないと先生に怒られんぞ」

青さをまだ忘れない夕焼けが、カーテンの隙間から彼の顔を照らす。
「うん、でもまだ勉強し足りなくて。」
「お前そんな真面目だっけ」
「失礼だなー笑真面目だよ」
「笑そっか、てか恋雪最近元気ない?」
「え、なんで?」
「いや、なんとなく。友達といるときもなんかぼけっとしてるっていうか」
「そうかなー」
「うん。なんかあったのかなって」
「うーん。そうだなー」
「?」
「…別に!なんにもないかも笑」
「ほんとか?」
「うん、考えてみたけどなんにも思いつかないし」

キーンコーンカーンコーン───
『あ、』
「鐘鳴っちゃったね」
「だな、そろそろ帰るか」
「うん…」
「?どうした?」
「いや、なんていうか」

彼と2人きりの教室は静かで、暖かくて、金木犀の香りが少し香る。
落ち着く空間で、なんだかこのまま二人で過ごせてしまいそうなくらい時間がゆっくりに感じた。

このまま、ふたりで______

「…」
「っ、おい、ばかっ…!」

カーテンが揺れ、私たちが影になる。
唇を重ねて彼の手を握った。

「恋雪っ、」
「……次また二人きりになっても、もうしないから」
「は…?」
「直人にこんなことして、許されないのはわかってる。だからもう、次こんな状況になってももうしない」
「…」
「ごめん、直人」
「……俺は、迷惑じゃなかった。」
「え、?」
「俺は恋雪のこと、ずっと、小さい頃からずっと──」

〈おーいまだ誰か居るのかー?もう下校時間だぞー。〉

冷たい風が金木犀の匂いと共に教室に広がる。
夕日は沈みながら、落ち葉を落としていく。

これは、秋の訪れなのかもしれない。

Next