彗星

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3/9/2026, 5:09:51 PM

社会人になった今気づく。あの頃、大人たちが言ってきた「今だけだからね」という言葉を。
そんな風に楽しめるのは、とか甘えられるのは、とかことある事に「今だけ」と言われてきた。ただその頃の私はそんな言葉右から左だった。
友達としょーもないことでいざこざが起きたり、文化祭の決め事で男子と揉めたり、体育の持久走が嫌だとか補習がだるいだとかそんなありきたりな日常が今、どれほど青春だったかと思い知らされる。
会社では上司や先輩に怒られ、社内の女性関係も面倒くさく、朝から早起きして満員電車で出勤、帰宅する。
あの頃の好きな人がいたあの淡い感情や友達と授業をサボったときのあのハラハラが当時はすごく楽しくて新鮮だった。
社会人として2年目になり、後輩もでき始め教えたことを何ヶ月経っても覚えないことにイライラしたり動きが遅くて急かすようになったりと自分も段々とあー嫌な先輩になっているなとは薄々感じる。
だけど、社会ではそれが当たり前。
ピリピリした環境ならそれに合わせてもっと自分の出来をよくしなければならない。
"ホワイト企業"というのは残業代が発生するとか上司が優しいとかではなく、少し環境が整備されているグレーより少し明るいライトな企業だということも知った。
パソコンの扱いが覚えきれてない新人は先輩から気に入られないし、噂話に付き合わない女性社員は知らぬ間に距離を置かれている。
学校で購買に誰が行くのかをジャンケンしていたあの時間がよほど幸せだったんだと噛み締める。
過去を掘り返しすぎてもよくないから、私はいつもあまり考えないようにする。
ただ、過ぎ去った日々を思い出したとき、これは美化しているのではなく今が劣化しているんだとしみじみ感じる。

2/20/2026, 5:31:50 PM

クラスの人気者だった。
皆が私を見て、みんなが私を好いてくれる。
高二の春、私は事故にあった。
信号無視をした車に跳ねられて身体にひとつハンデを背負うことになった。
人気者だった私は、みんながお見舞いに来てくれた。
前まであった足がなくなっているのをみて、皆が目を合わせた。
「体育、大変になるね」
「次の体育祭のリレーアンカー明ちゃん出れないのかな。」
みんなが口を揃えて言う。
誰も可哀想だとは言わない。けど、私は分かる。
体育やリレーよりも、普段の生活をみんなが気にしているということを。
これから私は義足になるし、使いたくても思うように使えないものが増える。
そして、人気者という私に貼られたレッテルはこの事故を通してきっと無くなる。
お見舞いに来るみんなの顔を見ているとそうなるということは一目瞭然だった。
"人気者"から"可哀想な子"になる。
息がしずらかった。
退院後、初めて外で歩いた義足の感覚はぎこちなかった。周りの視線も痛いほど刺さった。
私は、以前より1つ少ない存在になってしまった。
みんな私に「命が助かってよかった」と言う。
まるで、損失と引き換えに救いを与えられたみたいに。
でも私にとっては、それは交換じゃなかった。
退院するときに看護師さんに言われた。
「大変と感じることもありますが乗り越えられるように私たちも全力でサポートしてまいります」
この言葉が、私を苦しめた。
私が失った"コレ"は、きっと今後も可哀想な慈悲の目で見られる。
ああ、戻りたい。
もうこれ以上、「同情」されたくない。

2/13/2026, 4:46:36 PM

※一つ前のお題です

伝えたい。
俺はアイツが嫌いだってことを。
小学校中学校高校と散々俺をいじってきて、かと思えば俺のことを好きだとか言い出して。
俺は嫌いだってのに、何故かそのときはOKしてしまった。今思えば若いが故のノリで付き合ったんだと思う。
だけど、俺はあの時も今もアイツが嫌いだ。

「熱出たの?」
「うん」
「はーーちゃんと体調管理しないからでしょ」
「うるせーよ、関係ないだろ」
「心配してあげてるのになにその言い方ー!!」
「別に心配なんていらねーよ」
「うざ。てかもう帰るの?」
「保健室の先生が帰れって」
「そう、じゃあまあまた来週」
「おう」


ピーンポン───
「はーい…って」
「やっほー」
「お前なんでここにいるんだよ」
「お見舞い来てあげたんでしょ!ほらほら」
「なんだよこれ」
「ゼリーと今日の授業のノート!一応全部の授業分書いといたから。ゼリーで元気だしなよ〜」
「え、やってくれたの」
「まあね笑どう?うれしい?」
「…まあ」
「笑笑ツンデレすぎー!じゃ、お大事にね」
「ああ、うん」

アイツは俺が熱を出したら必ずお見舞いに来るし勝手にノートをとってきたり賞味期限ギリギリのゼリーやプリンを渡してきたりする。
まあ、ノートは正直ありがたかった。


『好きです、付き合ってください』
「あーごめん私彼氏いるんだ」


「わ!びっくりした、なに、居たの?」
「別に。通りかかっただけ」
「本当は嫉妬してるくせに笑」
「……うるさ」
「…えっ?」
「はあ、早く帰るぞ」
「もー!素直に言えば〜??笑」

アイツはよくモテたし俺もよくアイツと付き合ってるのが羨ましいとか言われてた。
どこが?とずっと思ってたし言ってた。
お人好しだし、可愛げないし、すぐ怒るし、煽ってくるし、小さい頃のミスを大人になってもイジってくるし。
だけど真面目で、意外と繊細で、顔に出やすくて、泣き虫なくせに努力家で、無理しやすくて。



そんなところが、好きだった。






アイツの火葬が終わってからずいぶん日が経ったとき、アイツの父親が家に押しかけてきた。
アイツの遺書が見つかった、と。
そこには俺のことを書いているものもあって、アイツとは昔からの幼馴染である俺にはすぐに渡さないとと思ったらしい。
紙には、俺が知らないアイツの一面や俺が知りすぎているアイツの姿があった。
昔から病を患っていることは知っていた。
だから、他人の体調不良には人一倍敏感だったのも知っている。
俺がアイツにお見舞いにくるなと言っていたのは、単に照れ隠しだけが理由じゃない。
ただでさえ自分の病の治療で忙しいのに、他人の体調なんか気にするなと、そう思っていたからだ。
俺が知らないところでアイツはこんなにも悩んで、こんなにも絶望していたんだ。
それが、アイツの遺書でわかった。遺書の中でも時に無理して俺に笑いかけてくる。
アイツは、遺書を用意するくらい病が悪化していることを自分で理解していたのに幼馴染である、彼氏である俺にまで気を遣ってくれている。
本当に馬鹿なヤツだ。心底そう思った。
アイツが他の男から告白されているのを見て、俺は嫉妬してた。子供っぽすぎるそんな感情、アイツには絶対表向きにしたくなかった。
なのに、気づいてたんだな。
いや、俺が分かりやすすぎただけかもしれない。
アイツの遺書には、俺の名前が何度も出てきた。
『海が嫉妬していることも、私にはお見通しです。それに、海が私のお見舞いを本当は嫌に思っていないことも。私を心配してくれてたんだよね。』

その通りだった。

『わたしは正直、この昔からの病のせいでずっと苦しかったししんどかった。だけど海がいるおかげでなんだか少しだけ長生きできるような、しているような、そんな浮ついた気持ちでいられた。』

知っていた。アイツがよく俺が居ないところで咳き込んでいるのも、薬を飲んでいるのも。
アイツが俺といることで楽な気持ちになっているのは、気づけなかったけど。

『でも、私はもう生きられないみたいなの。海と一緒にまだまだ色んなとこ行きたかったな笑こんなこと言ったらまた気持ち悪いとか海に言われちゃうのかな〜笑
私は、海と少しでも長い間一緒にいれてよかった』

俺も、と思わず声が出た。返事は無い。

『あいしてるよ、大好きだよ。海、長生きしてね』

長生きするのはお前の方だろ。
俺はアイツが病で苦しんでいるのを知ってるはずなのに、しょーもない照れ隠しでアイツの"好き"にも返せてなかった。俺は、アイツが嫌いだったんだ。
無理ばかりする、馬鹿なアイツが。
でも馬鹿なのは俺の方だった。
アイツに好きだとか無理するなとか心配してるとかそんな言葉をかけてやれなかった。
アイツがいない世界はまだ朝なのに静かすぎて夜みたいだった。
あの時に、伝えられなかった。もう遅いかもしれないけど、でも、
伝えたい。
俺はアイツ、涼華が好きだってことを。


"伝えたい"

2/6/2026, 7:21:45 PM

カチ カチ───
時計の針が進む。
『開始っ!』
張り切りのある先生の声で皆一斉に答案用紙を捲る。
スラスラと書き始める周りの音に、気を取られる。
教室に足を踏み入れたとき、周りの皆が頭の良いまるで天才のように見えた。
その天才と今、私は戦っている。
数学──。
この問題、なんだったけと頭を張り巡らせる。
公式、代入の仕方、途中式、図形の描き方全てがわからなくなってくるような気がした。
答えがあっているか、回答がズレてないか何度も見返した。
英語は単語帳をあんなにボロボロになるまで使い古したのに、それが無意味だったかのように感じるくらい単語やその意味を思い出せなくなった。
時計の針の音、隣に座っている人の咳、ペンの音、次々と問題用紙を捲る音、全てに気を取られていた。
その後もあの今までの努力が全て嘘のように結果に対しての手応えが感じられなかった。
面接も、せっかく用意してきた回答が頭が真っ白になってできなかった。
自分でも解っていた。
落ちた、と。
あの時もっと時間配分に気をつければ、周りに気を取られなければ、確実に受かったのに。
あの日は何故かお腹が空いていたのに、今は食欲が湧かない。あの日の方が絶対に緊張していたはずなのに。
時計の針を巻き戻したくても、もうあの瞬間には戻ることはできない。
だからこそ、あの時、あの瞬間に1秒でも問題を理解して解いていれば努力していれば今笑えていたのかもしれない。
後悔先に立たず、とはまさにこの事だと思った。
時計の針は巻き戻せない。それは、自分の受験番号がまぐれで書かれていてもきっとそう思うはず。

だから今、頑張れ受験生──頑張れ、私──

1/26/2026, 3:37:06 PM

ヴーッ───
スマホが光る。

『今から来て』
たったそれだけのメッセージが送信されている。
「今から来てって…ほんと、、」
呆れたようにスマホを手に取り、私は考える。
今は深夜2時。今日は朝から仕事で、帰ってきてからも色々な作業をして、やっと今から眠りにつくところだった。
本当だったら、行くべきでは無いと思う。
疲れてるとか面倒くさいとかそれ以前に
彼の"都合のいい女"になりたくはなかった。
けれど、もう既に私は何度も彼とそういう事をしてきたし彼からの呼び出しに結局応えてしまっていた。
そして今も。

『ちょっとだけね』

そう彼に送り、私は軽いメイクと身支度を終え家を出た。香水とリップは一応つけておいた。


真夜中、暗い道を一人で歩く。
「迎えくらい来てよね」
彼が車を持っていないことを分かっていながらもそう思ってしまう。

ガチャ───
「おじゃまします」
「おーおつかれぇー、」
「ちょっと、なんか臭いんだけど」
「えぇ〜?そんなことないよ笑」
明らかに酔っ払っていた。
私が前に片付けたはずの部屋がもう既にお酒の缶やタバコの灰皿が散乱していた。
「もう、せっかく綺麗にしたのに」
「いいじゃん、きにしなくて」
「ダメだよ。ほら綺麗にするよ」
「待って。」
「?」
「それより先にさ、ほら」
彼が少し含みを持たせた言い方をしてきた。何を思っているのかは分かる。私だって、それを理解した上でこの家まで足を運びに来た。
「はあ…ほんとにちょっとだから」
「ん、はやく。自分からしてみて」
彼のそういう不意な発言にはいつもドキッとさせられる。
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私たちは事を終えてから、すぐに解散した。
正確に言えば事を終えた後に彼が寝てしまったから、解散せざるを得なかった。
ちょっと、と自分で言っていたものの、私の方がもっと一緒に居たがっていたし彼の方がもう満足といった態度だった。
私は、彼の寝顔を見ると毎回思う。
"都合のいい女"に自分がなっているのは彼のためになるならそこまで嫌なことじゃないんじゃないかって。
二人繋がってるときも、彼は私の香水の変化やリップの色の変化にも気づいてくれる。
私はいつも嘘をついて変えてないとか、つけてないとか言うけれど彼の全て見透かしてるようなその目が好きだった。
また明日も明後日も彼から真夜中に呼び出されることを少し期待してしまう。この世界に二人きりかと錯覚するような、そんな時が好きでもあり嫌いでもある。
私にとって一番幸せで辛い時間はこのミッドナイトだ。


ミッドナイト

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