彗星

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11/12/2025, 4:02:27 PM

高貴な音楽と共に足を弾ませて華麗に踊る。
沢山の人々の中に紛れて、手を取り合っていく。
美しいドレスが花のように広がって。
どこを見渡しても華美な絵画に置物に食事に庭がある。


「お嬢様、失礼致します。」
「どうぞ」
「舞踏会は無事終了致しました。本日も何事もなくご来客頂いた方々が安全で安心できるような舞踏会を開けられたこと誠に光栄でございます。お嬢様も本日は大変疲弊なさったとお思いですので休息なさってください。」
「ありがとうムッシュ。」
「とんでも御座いません。それでは、失礼致します」

気品高い細々とした物がこの部屋、城には沢山ある。
クローゼット1つにもクリスタルや価値の高い宝石が使われている。
誰もが憧れるこの豪邸に、私は王女として住んでいる。
私はこの国のトップに生まれた。
生まれたときからキラキラした輝いたものばかりに囲まれていて、食事も身の回りの事も全て執事やメイドがやってくれていた。
当たり前だけど、私だって国のことは沢山知っているし常に毎日勉強しなくてはならない。
学校という場所に通っていない限りは、物心なんかがつくそのずっと前からもう頭が良くないとならない。
けれど私は、この暮らしに嫌気がさしたことはない。
そもそも、容姿や中身で困ったことがない私は外に出て自由を望むわけでもない。外なんかに出たら、あっという間に世界中が大騒ぎするから。
かといって、いくら外の世界に出ない私でも私、いや私たち貴族に向けて世間からどんな風に見られているのかは知っている。
"なんでもかんでも召使いがやってくれる"、"自分達だけが良い暮らしをしてる"、"どうせお城の中は意味もなく高価な物だらけ"
そんな偏見は、私たちの耳にも入っている。
正直、中には事実もある。
生活のことは全て執事やメイドにやって貰っているし毎日豪華で健康な食事をさせて頂いているし、艶やかなお城に住んでいるのは事実。
だけど、私には一つだけ命のように大切な物がある。
それがティーカップだ。
それは、1つ1つのデザインが細々とした宝石でできていたり絵画が描かれていたりはしない。
飲み口が全体的に少しくすんだ赤色で、手で持つ部分は普通の形。決してお花のような形にはなっていない。
そんなティーカップのどこが良いのか、と思うかもしれませんが私は大事に大事にしています。
ここのお妃である母が病で亡くなってしまったときの形見ですから。
妃が存在しない国なんてと母が亡くなってから10日の間、ずっと言われ続けている。
私は母が亡くなってからこのお城の豪華さ、食事が毎日用意されている有り難をより理解するようになった。
全てが繊細で美しく作られていて、ドレスや靴も全てが特別な物だ。
けど、この少し小さくて今の私には足りないくらいの紅茶しか飲むことの出来ないティーカップが、私の生きる意味をまた少しづつ、伸ばしていてくれる。


"ティーカップ"

10/23/2025, 2:54:05 PM

無人島に行くならば、何を持っていくか。
よくある質問だ。
大抵の人間はライター、ナイフ、食料、水、スマホ。
ときには友達と答えるものもいる。
私は正直なんでもいい。
身一つあれば困ることもないだろう。
無人島で生活している者もいるのだから、何かをわざわざ持っていく必要なんてない。

皆さんは、無人島に行くならば何を持っていきますか?

10/1/2025, 3:01:13 PM

放課後、広いグラウンドとオレンジがかった夕日が私の心を今が永遠であればいいのにと思わせるほど美しく、満たされていった。

ガラガラ──
「あれ、まだ居たのか」
「直人…!部活終わり?」
「うん、恋雪は?」
「私は……勉強してた」
「へー、真面目だな。でももうそろ帰らないと先生に怒られんぞ」

青さをまだ忘れない夕焼けが、カーテンの隙間から彼の顔を照らす。
「うん、でもまだ勉強し足りなくて。」
「お前そんな真面目だっけ」
「失礼だなー笑真面目だよ」
「笑そっか、てか恋雪最近元気ない?」
「え、なんで?」
「いや、なんとなく。友達といるときもなんかぼけっとしてるっていうか」
「そうかなー」
「うん。なんかあったのかなって」
「うーん。そうだなー」
「?」
「…別に!なんにもないかも笑」
「ほんとか?」
「うん、考えてみたけどなんにも思いつかないし」

キーンコーンカーンコーン───
『あ、』
「鐘鳴っちゃったね」
「だな、そろそろ帰るか」
「うん…」
「?どうした?」
「いや、なんていうか」

彼と2人きりの教室は静かで、暖かくて、金木犀の香りが少し香る。
落ち着く空間で、なんだかこのまま二人で過ごせてしまいそうなくらい時間がゆっくりに感じた。

このまま、ふたりで______

「…」
「っ、おい、ばかっ…!」

カーテンが揺れ、私たちが影になる。
唇を重ねて彼の手を握った。

「恋雪っ、」
「……次また二人きりになっても、もうしないから」
「は…?」
「直人にこんなことして、許されないのはわかってる。だからもう、次こんな状況になってももうしない」
「…」
「ごめん、直人」
「……俺は、迷惑じゃなかった。」
「え、?」
「俺は恋雪のこと、ずっと、小さい頃からずっと──」

〈おーいまだ誰か居るのかー?もう下校時間だぞー。〉

冷たい風が金木犀の匂いと共に教室に広がる。
夕日は沈みながら、落ち葉を落としていく。

これは、秋の訪れなのかもしれない。

8/29/2025, 5:43:00 PM

心は雨でも
見た目は晴れ

心は傷ついても
見た目は普通

心の中の風景なんて

誰にも分からない。

8/6/2025, 3:19:41 AM

突然ですが、人魚姫のお話を貴方は知っていますか。

人魚姫は自分が恋した王子のために魔女と交渉を行い、声をなくしてまで人間の姿になり、魔女に危機を迫られるも結果的に魔女を倒し王子を助け、その王子と結ばれるというお話です。
これはハッピーエンドで、誰もが人魚姫の純粋で素直な気持ちに心が持っていかれるおとぎ話。

では、人魚姫にはもう一つのお話があることをご存知でしょうか。
王子は最終的に助けてくれたのは人魚姫ではなく別の娘だと思い込み、結婚します。人魚姫は王子と結ばれなければ海の泡になり死亡してしまいます。
それを悟った人魚姫のもとにナイフを持ったある女性たちが現れます。
そのナイフは、女性らが魔女と交渉し自分達の髪と引き換えに貰ったものだというのです。
そのナイフを使って王子を刺せば、また人魚姫は人魚に戻ることができるのです。

しかしながら、人魚姫は最愛の王子を刺すことなんてできずナイフを捨て、海に身を投げました。
人魚姫はそのまま泡となり二度と愛する人にも会えなくなり消えてゆくのでした。


皆さんは、人魚姫のように自分の身を投げ捨ててでも最愛する人を守り抜くことができますか?
「泡になりたい」この気持ちを持つことができるのは、一見、純粋な気持ちに見えるかもしれませんが自分の命よりも愛しているものを守るのは果たして本当に純粋な気持ちなのでしょうか───

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