私が病院で死ぬ頃、雨が降ってた。
私は昔から人気者だった。
いつもクラスの中心にいて、いつも笑ってて。
けど、そんな人生にももう疲れた。
限界だった。ずっと
私が出会った友達の中で、一人面白い子が居た。
小学四年生の時だった。
「私は藍音!よろしく」
律儀に挨拶を交わしてくれたその子は藍音といって、よく喋る女の子だった。
藍音は、私のことをしっかり見ていてくれた。
他の人とは違って。
皆みんな、私の周りに集まっては私と話をしたがる。
けど、それが本当に私に対しての仲良くなりたい気持ちなのか、私には分からなかった。
けど藍音は私の奥底の気持ちに気づいてくれていたと思う。そう信じてる。
藍音と海で馬鹿みたいにはしゃいだとき、私は初めて自分を偽らずに笑顔で人の目を見て話せた。
藍音が本当の私を引き出してくれた。
誰も気づかない、気づくはずのない私の本音を理解しようとしてくれてた。
私は小学二年生の頃にこっちに転校してきた。
昔から好かれるタイプではあった。
誰からも可愛がられて、大事にされる。
前の学校でもそうだった。皆の中心の的だった。
けど
昔から患う心臓の病気のせいで、皆から常に見られることが怖かった。
皆から触れられたり、近くに寄ってこられたりすると脈拍がどんどん上がる感覚がしてた。
誰にも理解されないこの病のおかげで私は何度も苦しめられた。
もし私が「心臓が弱い」なんて伝えてしまったら皆離れるかもしれない。
「それはそれでいいんじゃない」?「病の方が重要」?そんなの、偽りでしかない。
私は人気者だ。
私は、皆から好かれている。
それは事実が証明してる。
そんな浅はかな考えだった。
だけど、藍音が私を変えてくれた。
藍音と海の中で遊んだときの私がそう言ってる。
私はきっと、藍音の前では病を気にせずに過ごせる。
藍音にもしさっきの私の考えを話したら、笑いながら
「皆が離れるわけないじゃん。凛のことが皆好きなんだから」って言ってくれると思う。
私は、藍音と居たらもしかしたら病気が治ってその内本当の私として元気に生きれるかもしれない。
翌年の6月6日、私は死んだ。
前日は、藍音の誕生日だ。
「おめでとう」すらも送れなかった。
梅雨でどんよりとした空気の中私は入院していた。
治療も、順調なはずだった。
上手くいけば、本当に私は病気が完治して生きていたかもしれない。
けど私は生きなかった。そんな選択肢、私にはなかった
「もしよければ、お見舞いに来てくれない?」
点滴が刺さった腕で必死に文字を打った。
『ごめん』
それが、藍音の返事だった。
別にそれが私の死因なわけじゃない。
けど、そうか。
やっぱり私を1番として考える人は誰1人いない、居ないんだ。
皆には皆の1番がいて。
私は、誰の一番にもなれない。
藍音なら私に会いに来てくれるかも、と、勝手に期待してた。
私の中にいる本当の私を理解してくれてる藍音なら、私からの誘いにものってくれると思ってた。
そのとき、私は混乱していた。
完全に頭がごちゃごちゃだった。
藍音の1番じゃないこと
病気が治ったら生きれるかもしれないこと
でも、病気が突然悪化するかもしれないこと
だれもお見舞いに来たいと思わないこと
母と父はもう病気の娘にきっと興味が無いこと
全てがもう、嫌になってた。
終わりにしたかった。
だから私は病院で首を吊った。
夜、雨は土砂降りだった。
けれど、何故か優しくそしてどこか冷たい雨音だった。
今なら私が泣いても雨で誤魔化せられるかもしれない。
そんな馬鹿なことを考えながら私は
自分を自分の手で
殺した。
もし私が死んだら、
誰かの一番に──────
※このお話は、去年の12/18の作品のもう一つのお話です。もし良ければそちらの方も読んでみてくださると嬉しいです。
5/25/2025, 6:18:20 PM