“音楽は人と人を繋ぐ魔法だよ”
そんな言葉を聞いたことがある。
まだ入学して間もないある日の夜、妙に眠れなかった僕は誰か同じように起きてる人は居ないかな…と談話室へ向かった。
そうして談話室の扉を開いた途端、耳に飛び込んできたのはピアノの音だった。
……綺麗な音色だなぁ。
ピアノを弾いている子は一生懸命練習しておりこちらには気づいていない様子だった。
そのまま談話室のソファに座って演奏を聴く。
ゆったりと心地良い時間が流れていくのを感じた。
その日から夜になると談話室に向かう…といった習慣ができ、いつの間にか自分もピアノを弾く側になり、あれよあれよという間に一緒にピアノを弾く仲間が増えていった。
__そして今に至る。
「私達が出会ってもう1年も経つのか…早いものだね。」
記念日を祝う学校の花火大会で、夜空に咲く大きな光の花に照らされながら幼馴染がしみじみと呟いた。
もちろんこの幼馴染もピアノを弾く演奏仲間の1人だ。
「見て、今の花火ドラゴンの形だった!」
そしてもう一人。あの日僕が談話室で出会ったピアノを弾いていたあの子は今や自分と幼馴染の事を兄や姉と呼んでくれる可愛い妹分である。
ただ、この妹分は勉学においても実習においても多才な為、普段から忙しくこうして三人揃って会うのはかなり久々だった。
「花火、綺麗だった〜!」
「去年の花火大会よりいろんな種類の花火が増えててびっくりした!」
「ほんと、あっという間だったね。」
花火大会の感想を話しつつ部屋へと戻る。
久々に三人揃ったのだから互いのピアノ演奏が聴きたいという話になったのだ。
〜〜♪〜♬〜〜♪♪〜〜
静かな部屋に各々が奏でるピアノの音が響く。ふと誰かが言っていた“音楽は人と人を繋ぐ魔法”という言葉を思い出した。
…なるほど確かにその通りかも。
どれだけ時が経っても、どれだけ離れていても、音楽は僕らを繋ぐ一つの魔法だと思った。
また来年もこうして君の奏でる音楽が聴けますように。
ピアノの音に願いを込めて。
#君の奏でる音楽 HPMA side.S
いつか来る終わりを考える。
その時が来たらきっと自分はあっさりそれを受け入れるんだろうな、と他人事の様に考える。
「何故かって?始まりがあるなら間違いなく終わりもやってくるのだから。決まってしまったことに抗ったって仕方ないじゃないか。」
そう言うと“彼”は少し困ったようにそれはそうだけど、と笑った。
「寂しくはないのかい?」
「そりゃ…もちろん寂しいとは思うだろうけど。」
「でも受け入れるんだろう?」
「そうだね、それが覆される事は無いだろうから。」
キッパリと答えると“彼”はそのまましばらく何か言いたそうな顔をしていたが、結局何も言わないまま静かに頷いて口を開いた。
「…君と僕達は確かにここで生きていた。その事をどうか忘れないでくれよ。」
__そこでハッと目が覚めた。
夢の中の“彼”がどんな顔をしてそう言っていたのか、霞みがかって思い出せない。
ただいつかくる未来の終点に対して、今はまだ来ないで欲しいとそう願った。
#終点 今朝見た夢の話
「…そういえば、最近あの子見かけなくなったのよね。」
カフェで二人お茶をしていた時、ふと目の前のおねえさまがそう零した。
「あの子って?」
「ほら、ちょっと前に知り合ったって言ってた他寮の…」
「あぁ、おねえさまが怪我の手当てしてあげたって言ってたブロンドヘアの人?」
「そうそう、あの子話してみると気さくで良い子だったから今度貴方にも紹介してあげようと思ってたんだけど、この頃あんまり会わないのよね…。」
まぁあの子も怪我なく元気にしてたら良いんだけど、と言って紅茶を飲むおねえさまは優雅で美しくて今日も世界一可愛い。
「ふーん……?」
変なの、と小首を傾げて目の前のケーキを1口頬張る。
甘酸っぱいラズベリーの酸味と滑らかなクリームの程よい甘みが口に広がり、思わず美味しい…!と頬を緩めた。
「ふふ…ほっぺにもついてるわよ。」
「んむ、」
そう言っておねえさまが私の頬についたケーキのクリームをそっと指で拭うとそのまま自らの口へと運ぶ。小さなリップ音と共にクリームはおねえさまの口に消えていった。
「〜〜お、おねえさまったら…!!」
「あらほんと、甘くて美味しいわね。」
ご馳走様♪と少し悪戯っぽく微笑んだおねえさまに思わず赤くなった頬を抑える。
その後「もう、おねえさま大好き…っ!」と私が零すと、ちょっぴり照れてはにかんでいたおねえさまが可愛すぎたという事もここへ記しておこうと思う。
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「〜♪〜〜♪〜♪〜」
鼻歌を歌いながら階段を下っていく。
おねえさまと私は寮が違うから、先程おやすみのキスをして別れたところだ。
そういえば、おねえさま気にしてたな…と“ブロンドヘアのあの人”の事を思い出す。
“キャッ…!な、何するの……!?”
“…やだなぁ分かるでしょ?次、おねえさまに近づいたらどうなるか……。気をつけてね?”
…ちょっとご挨拶しただけだもん。
物分りの良い人で良かった。
部屋に戻っておねえさまとのデートの為におめかししてたオシャレな服を脱ぐ。
そして寮カラーである緑の制服に着替え、うっすらと狡猾な笑みを浮かべた。
「大好きなおねえさまがずっと私だけを見ていてくれますように。」
#私だけ HPMA side.C
あなたがいたから、なんでも出来る気がした
あなたがいたから、毎日が楽しくて
あなたがいたから、幸せで仕方なくって
あなたがいたから、ここまで来れたんだよ
そう言って、君は僕の目の前から居なくなった。
もうどこにも見つからない。
#あなたがいたから
1日24時間、365日を毎日均等に過ごしているのに
1年経つのは早いなと毎年感じてしまう。
去年よりも成長できただろうか。
何か一つでも前に進めただろうか。
一つ、筆を取ってみよう。
拝啓、1年前の自分へ
楽しいこと、嬉しいこと、幸せなこと、この1年間で沢山ありました。
もちろんその分だけ悲しいこと、苦しいこと、辛いことも沢山経験しました。
だけど後悔してません。
あの日、その選択をしなければ今の自分はここに居ないのだから。
きっと大丈夫、全部乗り越えられる。
その先に今の未来が在るのだから。
#1年前
#未来