#手を繋いで
······ザザンッ ザザンッ·····
寄っては引き返す
あの頃よくふたりで来ていた
手を繋ぎながら波打ち際を歩く
今日も、ふたり
ハンカチに包まれた骨と、私
#落ちていく
落ちていく·····
落ちていく······
〖離婚してください〗
落ちていく······
落ちていく······
〖私が結婚したのは農家の人じゃない〗
落ちていく·····
落ちていく······
〖このまま行けば一番の出世頭じゃないですか〗
落ちていく······
落ちていく······
〖あぁなったらもう上ってこれないゎ〗
落ちていく·······
落ちていく·······
付属していたものしか見てくれなかった人たち
ずいぶん高いところまで上っていた自分
あんなに遠くまで······、
ずいぶん無理をしていたらしい
登りはもう疲れた。
次は周りを見渡してみよう。
#宝物
ボクの唯一の家族であったおじいちゃんが亡くなった
おじいちゃんはいわゆる、資産家と言う人だった。
亡くなった後、おじさんおばさんが駆け付けてきた···
「財産分与はもちろん私にもあるわよね?」
「弁護士はまだか?」
家族とは···? いくら富があっても、虚しい
ボクに残ったのは、おじいちゃんと過ごした
この家と、学費と生活費程度のお金、
そして、書斎の金庫だった。
「何が入っているの?早くその金庫を開けて!!」
教わった通りにダイヤルを回すとなんの抵抗もなく
開いた金庫。中からは、僕が小さい頃に作った工作品
両親とおじいちゃんとの写真が埋め尽くさんばかりに入っていた。
「なんだ、用はすんだわね。それじゃ、私はお暇するわね」
お手伝いさんも帰って誰もいなくなった家で、
ボクは思いでの品物を一つずつ見ていった。
覚えているもの、覚えていられないほど
幼い頃の思い出をなぞるように······
品物に埋もれるように一台のパソコン
おじいちゃんの字で
〖ちゃんと覚えているかな?〗
パソコンの中には100万ほどの株が入っていた。
「おじいちゃん、ちゃんと覚えてるよ。」
教えてもらった〖知識〗
これがボクの本当に相続した財産であり宝物だ。
#眠りにつく前に
毎晩、布団のなかで考える
明日の朝、無事に目が覚めたら
おいしいコーヒーを入れよう
よい夢を
#紅茶の香り
「専務、こちらは?」
「後で目を通しておくから、そこにおいといて」
やっとここまできた、何もかも全てを捨てて···。
それなのに、ふと香ってきた匂いに引き戻される。
「頂き物なんですけど、たまにはコーヒー以外もいいかと思いまして···、どうぞ」
〖姉ちゃん、友達から紅茶のパックもらったんだ!〗
四畳半のぼろアパート、二つ年の離れた弟
遅くまで親は帰らず、私が親代わりだった。
始めていれた安物の紅茶は、
決して美味しいとは言えなかった。
「ありがとう······· はぁ、おいしい」