ヨリ

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5/12/2023, 5:56:45 AM

●塞翁が馬●

先日の事、
愛を誓い合ったはずの
彼の浮気が発覚して、

別れを言い渡した。

結婚式の時に浴びた、
チャペルでの祝福のライスシャワー、
やけに打球が強かった奴がいたが、
そいつが彼の浮気相手に違いない。

結婚から1ヶ月も経ってないのに、
ひどいと思ったが、

私も、同棲時代の彼の姿をみてて、
これで、うまくやっていけるのかな?とか
不安を抱えていたし、彼の浮気を知った時、

やっぱりね。とか、まぁ、いいか。と、
冷めてた所があったので、

これからの人生プランを練り直すには、
早く分かって、別れて良かった。


そして、
慰謝料もたんまり取ってやったし、

今、私は
傷心旅行に来ている。

私だって
全く傷付いていない訳じゃ無い。

沢山の思い出だってあるし、
確かに彼の事を愛してた。


適当に選んだ遠い異国の地、
観光地として来た場所は

世界の中心だとか
大地のおへそだとか呼ばれている場所。

残念ながら今は、
眺めることしか出来ないけど、
とても、大きくすごかった。

でも、日中はあまりの暑さに

「愛ってなんじゃい!」

と叫んでしまった。

不覚にも世界の中心の少しズレた所で、
愛への疑問を叫んでしまった。


暑さを我慢し、日が傾く頃、
大地のおへそは姿を変え、
…壮大な…何だろう、
言葉で言い表せないような、

今すぐにでも、世界が終わっても

全く後悔が無いような景色が
目の前一杯にひろがっていた。

私の心の傷なんて、
かすり傷と、いわんばかりに、

壮大な景色は私に語りかけていた。


そんな時、一人の観光客の外国人が
ハンカチを渡してくれた。

どうやら私は涙をながしていたらしい。
何の涙かは分からない。

「サンキュウ…」

カタカナ英語で精一杯のお礼。

「イイエ、ドゥイタシマシテネ!」

ハンカチを渡してくれた、
陽気で楽しそうなその人は

片言の日本語でそう言ってくれた。



彼は、後の私のダーリンになる人である。


そして、それはまた別のお話し。


fin.




#今回のテーマ(お題)は
【愛を叫ぶ】でした。

5/11/2023, 7:55:54 AM

●夢の石の墓標●

生まれ変わるのなら
アゲハチョウになりたかった。


こんにちは!
モンシロチョウの
モンちゃんと申します。

元人間です。
サナギの時までは悠々自適に
眠ってたんですけども、
目を覚ましたら、
モンシロチョウになっていまして、

まぁ、小さいながらもフヨフヨと
飛べるのは気持ちがよいものです。

ですが、先日の事、
呑気に飛んでおりましたら
人間の少年に捕獲されまして、

少年の部屋の机の上に、
1LDの住居を構えていただきまして

窮屈ながらも、外敵から襲われる
心配もなく、生活している所です。

その時、モンちゃんという名前も、
頂きました。単純な名前ですけど、
私はとても気に入っているんですよ。

机の前には窓がありますので、
空は見えます。飛ぶ者として
空が見えれば十分です。

少年は私の事を不憫に思ったのか、
一回だけ、私の事を離そうとしましたが、
元人間の性なのか
良く分かりませんけれど、

少年の事が何だかほっとけなくて、
そこに留まり続けたのです。

そうしたら、少年は諦めて
側に居る事を許してくれたのです。

その日から、私の住居は、
立派な吹き抜けになりまして、

家と少年の部屋を
自由に出入りできるようになったんです。

少年の部屋は私の住居より広いですので、
自由に飛び回るには十分。

少年は雨の日以外は
窓を開けてくれるので、
外の風が入ってきてそれはもう快適です。


そんな、
少年と生活を続けて
どれくらい経ったのでしょう。

人間と蝶では時間の経過が曖昧で
すごく長く感じます。

私が、少年をほっとけなった理由が、
少年はいつも寂しそうな顔をしていて、

なんと、今日は泣いているでは
ありませんか。

何故泣いているのか
理由はわかりません。

私がここにやって来て少し経った時の事、

少年が部屋から出て行って、
また部屋に戻って来た時、

その日はずいぶんと長く、
寂しい顔をしてたんです。

私は、そんな少年を励まそうと、
少年の周りをフヨフヨと飛んでみました。

そうしたら、少年は笑ってくれて、
それから、彼が寂しそうな顔をしていたら、
彼の周りをフヨフヨと飛んでみせるんです。


でも、今日は
いくら彼の周りを飛んでも、

膝を抱えて泣いていて、
全然笑ってくれません。

ねぇ、私をみて。
ほら、私、彼方の周りを飛んでるよ、
そして、笑って。

私は彼方の笑顔が大好きなの。

ねぇ、泣かないで。
私も悲しいよ。

こんな時、
私がモンシロチョウじゃなくて、
キレイで大っきな
アゲハチョウだったなら…

彼方は私の事を見てくれたかな。

ねぇ、泣かないで。

…泣かないで、ほら、
フヨフヨと彼方の周りを
ずっと飛んでてあげるから。

顔を上げてごらん。









「…ゆ…ゆめ…?」

私は、目が覚めると、
病院らしき施設のベットの上にいた。

『目が覚めましたね、ご家族を呼んできますね』

白い服がまぶしい、
ベテランっぽい看護師が、
テキパキと何かをPCに入力しながら言った。

「あの…私…蝶に」

私はさっきまで見ていた夢の話しをしようとした。

『まだ少し混乱してるようですね、もう少しお休みになられていいですよ』

看護師はそういうと、心が落ち着く薬ですよ。
と、点滴の管からそれを注入されて、
私は再び眠りについた。

夢の続きをと願ったが
続きを見る事はなかった。


結局、退院まで数日を要した。
家族は何も教えてくれなかったが、

そんな事より、
気がかりな事があった。

あの、蝶の夢の事である。

あれは、本当に夢だったのか?

ずっと、あの夢の事が気になって
モヤモヤする。


退院した翌日、
私は家族の目を盗んで外に出た。

1時間ほど歩いただろうか、
時間を気にすると急に疲れがやって来て、

どこかで休もうと、ふと視線をやった先に、

見覚えのある公園があった。

正確に言うならば、
見覚えはないけど見覚えがある公園。

ここは、
私が蝶だった時に、飛び回ってた公園だ!

と、瞬間的に思った。

そして、その公園にある花壇の片隅に、
私が夢の中で蝶だった時に、
少しの間一緒に居た少年の姿があった。

よかった。泣いていない。
と、私は思った。

「こんにちは」

私は、思わず声をかけてしまった。
これでは不審者ではないか。

『こんにちは』

少年は屈託のない笑顔で挨拶を返してくれた。
少年の足下には石で作った何かがあった。

「何してるの?」
変な事を気にする事を辞め、話しをする事にした。
いや、話しをしたかった。

少年は石で作った何かを見ると、
少し泣きそうな顔になった。

『もんちゃんのお墓』

「…もんちゃん?…お墓?」

『うん、モンシロチョウのもんちゃん。
ここで、捕まえて、お家で飼ってたんだ』

これは…夢の…。

『でも、何日か前に死んじゃった…。
もんちゃんは、とっても優しい子だったんだけど、僕のせいで…』

少年の大きな瞳から、
今にも涙があふそうだった。

“私のせいで泣かないで”

どこからか声が聞こえた気がした。

「それは、違うよ!」

とっさに出た言葉。

『え?』

「えーと、お姉さんね、
あ、えっと、不審者じゃないよ!」

『う、うん…』

「その…。もんちゃんから、
伝言を頼まれたんだよ」

『本当?!もんちゃんから!?
…でも…もんちゃん、怒ってたでしょ…?』

少年の輝く瞳が陰る。

「ううん。そんな事全然言ってなかったよ!
君に“出会えて、幸せだった”って。
“楽しかった”って。“ありがとう”って。
私に夢の中で教えてくれたの
そして、伝えてって」

『本当!?もんちゃんが?

…あのね、僕も少しの間だったけど
楽しかったよ、お家で寂しく無かったよ、
ありがとう、もんちゃん』

一瞬、自分に言われた気がしたけれど、
少年は、石で作ったお墓に話しかけていた。

そう、
私はモンシロチョウの
もんちゃんでは無いのだ。

でも、少年は笑っている。何だか私も嬉しい。

“彼方、やっと笑ってくれた!
嬉しい!”

また、どこからか声が聞こえた気がした。


「ところで少年、アゲハチョウとか好き?」

『え?アゲハチョウ?
うーん、モンシロチョウの方が、
小さくて可愛くて好きだよ。
アゲハチョウも好きだけど、1番はもんちゃん』

「よかった」

『?』

少年は私の独り言にキョトンとするも、
もんちゃんのお墓に、また手を合わせ、

後からやってきた友達と、
どこかへ行ってしまった。

少年に何の事情があるか分からない。
だけど、ずっと笑っていてほしい。と、
私は思った。

『バイバイ~!お姉さん、ありがとう~!』

少年は振り返って、手を振ってくれた。

私も手を振って、
その後もんちゃんのお墓に
手を合わせ、
また1時間かけて家路についた。

モヤモヤはとっくに消えていた。


その後、家をこっそり抜け出した事に、
烈火の如く叱られた事は、
私ともんちゃんの秘密である。



もし、また生まれ変わるなら、
モンシロチョウがいいなって
ふと思った。




fin.



#今回のテーマ(お題)は
【モンシロチョウ】でした。

5/9/2023, 7:36:59 PM

●噂話し●

「久しぶり」

『久しぶり』

「元気にしてた?相変わらず変わらないね」

『元気も何も、こんなんだし。
…貴方はまた、年を取ったね』

「失礼な。まぁ、生きてるからね。年も取るよ」

『生きるって楽しい?』

「…何?突然」

『楽しい?』

「楽しいより、辛い事の方が多いかなー」

『そう…』

「何しょぼくれてるの。
少なくともここで、
あんたと喋ってる今は楽しいよ」

『…そっかぁ』

「そういえば、まだ続けてるの?
変な噂話を流す遊びみたいなの」

『うん。続けてるよ。私の使命だから』

「噂話流して、楽しんでるのが?使命?」

『楽しんではないよ。
この街の噂は、誰かの想いの形だから…。
誰かの噂話しが、
いつか必要としてる人に届くまで、
私は届け続けるよ。誰かの想いは、
誰かの助けになったり、道しるべになるからね』

「相変わらず小難しい…」

『…確かに最初は遊び半分だったかな。
大昔の事だけれど、この街を守る為に、
犠牲になってくれって、埋められた時は、
おばば達連中を呪ってやろうかと思ったけど、
やっぱり、私もこの街が好きで大切だからね』

「呪ってやればよかったじゃん…」

『まぁ、大昔の事だし、こうやって、
怒ってくれる友達もいるしね、
私は私で、この街での役割を見つけたから、
ずっと楽しいよ。
…あ!これって、生きてる事に似てる?』

「…大昔からずっと、あんたは生きてるし、
この街を守ってくれてると思うよ。
少なくともあんたは、
生涯忘れられない、あたしの友達だよ」

『…ありがとう。でも、まだ死なないでね、
寂しいから』

「はいはい」

『でも、貴方が死んだら、
私を覚えててくれる人、居なくなっちゃうな』

「そんな時こそ、噂話しを流せばいいじゃん。
“出会ったら幸せになる
海辺の座敷童の噂!”とか、
そうしたら、
忘れられない存在になるんじゃない?」

『…自分の事を噂に?自分で自分の事を、
噂として流すの?それは何だか恥ずかしい…』

「恥ずかしいなら、あたしが流そうか?
あんたの噂話し」

『んー。一瞬それもいいかなって、思ったけど。
やっぱ、いいや。昔も今も楽しいし、
今後も、一期一会でやっていくよ。
それが私にとっての“楽しい”と思う』

「そっか」

『…うん。ありがとう』

「いえいえ。どーいたしまして。

所で、あんたと初めて会った時に
教えてもらった、
なんちゃらおじさんの噂話しの事だけどさ…」


ーーーーー

浜辺に響く楽しそうな話し声は、
波の音と共に、月が出るまで続いていた。


fin.



#今回のテーマ(お題)は、
【忘れられない、いつまでも。】でした

5/8/2023, 3:26:28 PM

●おやすみ●

一年前の今日、
世界が滅びるとか、
世界が終わるとか、そんな噂がたった。

私は、窓際のベットの上から
夜空を見ている。

夜空の主役、お月様は
周りを優しく照らし、
星達は負けじと
キラキラと輝いていた。


一年前、テレビやラジオ、
ネット配信…色んな媒体は、
世界滅亡の話題で持ちきりだった。

変な宗教団体も現れた。

でも、飽きっぽい我ら人類は、
変な宗教団体の存在を残して、

いつの間にか、
世界滅亡の噂は静かに消えていった。

そして、噂話が出て早一年、

今日の私も、変わらずの生活をして、
いつもと変わらず寝て、

また明日を迎えようとしている。

「ノストラダムスも、
何やかんやいって、予言…外したしね」

日付が変わる前、私の隣には、
猫のはっさくが居て、
私はそう話しかけていた。

今夜は少し冷える。

はっさくを
軽く抱きしめて、

「お休み、愛してるよ」と、言いって

静かに眠りについた時、私の世界は終わった。

陽が昇り、目が覚めたら、
また、私の世界が始まるだろう。


でも、念のため。


…お休み世界。



fin.



#今回のテーマ(お題)は
【一年後】でした。

5/8/2023, 6:49:52 AM

●指先の嘘●


学校の休み時間に、
友達の恋バナを聞いていた。

私はまだ、恋愛の事なんてよく分からないし、
今の所、近所に出来た
クレープ屋さんの方が気になるので、

友達の恋バナは半分聞いて、
半分はクレープの事を考えていた。

『…君の、素敵な所はね…』

もう一人の友達は、うんうんと、
目を輝かせながら話しを聞いている。

…この時期はイチゴのトッピングは
外せないな。

『そしてね、その時に教科書を貸してくれてね…』

「それは優しい人だね~」

〈それ、私も思った!〉

『そうなの!さりげない優しい所も好きで…』

私は、クレープの事も考えながらも、
友達の思い人の印象を、相づちがわりに言って、


ホイップクリームたっぷりの
イチゴのクレープの事を思い浮かべていた。

『これって、やっぱり初恋なのかな?』


初恋…。という言葉に私は反応した。


以前、興味本位でお母さんに、
そんな事を聞いたのを思い出した。

「あのさ、お母さんの初恋の人って、誰?」

『…あら、突然どうしたの?あなたが、
そんな話しをしてくるなんて珍しいわね。
もしかして、好きな人でも出来たとか?』

「ちーがーう!さっきやってたアニメで、
初恋は実ら無いだのなんだのって言ってたから、
気になっただけ!
お母さんは、どうだったのかなって」

『お母さん、一瞬期待したのに!』

がく然とするお母さん。

「何で期待するの?」

『母という者は、
娘の恋バナを聞きたがる生き物なんです』

…母というものは分からない。

「ふーん、で、誰?誰?」

『残念ながら、お母さんの初恋の人は~……
お父さんでしたー!』

「嘘だー!」

ずいぶんためて出た答えが、お父さん。
初恋って実るものなのか。
と、その時は思った。

そして、お母さんは
よいしょっと立ち上がると、
表紙に“希望”と大きく書かれた、
一冊の卒業アルバムを持ってきた。

ん?その表紙、見た事があるような無いような。


『お父さんと、お母さんね、
学校が同じでね…ほら、これ、お父さん』

クラス別のページで、個人がズラッと載ってる
一枠に、若き日のお父さんが居た。

「お父さん、かっこいいじゃん」

『でしょー』

「今は何か劣化してるけど」

『こらこら』

お母さんは、たしなめながらも
笑って、次々とページをめくっていった。

「あ!お母さんだ。若ーい」

『こら、今も若いでしょ!』

冗談を交えつつ、お母さんの当時の
思い出話や、お父さんとのエピソード
色んな話しをした。

しばらくして、
お母さんは私に見せた事の無い、
切ない顔をした。
それはたった一瞬の事だったけど、
私は見逃さなかった。


お母さんの指先には、
お父さんと友達等が映った写真があった。

けど、お母さんの視線の先には、
違う男子の姿があった。

お母さんの一瞬の表情に、
私は少し嫌悪を感じた。

何か嫌だ。知らない女の人みたい。

そして、悟った
お母さんの初恋は実らなかったのだと。


友達は好きな人の話をする時、
お母さんが一瞬見せた
切ないような嬉しいような、
あの時のお母さんと似た表情をしていた。


『ねーねー、放課後どうする?』

ぼーっとしていたら、
いつの間にか恋バナは終わっていて、
友達二人は放課後の話しをしていた。

「クレープが食べたいな」

そう、
恋バナとかはいいから、クレープが食べたい。

『新しく出来たところ?』

「うん。酸っぱくてビターな気分」

『じゃー、クレープ食べに行こう。
で、その後、テスト勉強ね』

「…テスト…忘れてたー」

『ふふふ』

友達二人は私に“らしい”ね、
と言って笑っていた。

別に悪い気はしない。

今の私には、クレープと、
目先のテストをどう乗り越えるか精一杯で、
恋とかそういうのは、まだいいのだ。


一つ思い出した事だけれど、
たまに卒業アルバムを出しては、
こっそり見ていた、お母さんの事は、
お父さんには、一生内緒にしておこう。


fin.




#今回のテーマは
【初恋の日】でした。

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