ヨリ

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●噂話し●

「久しぶり」

『久しぶり』

「元気にしてた?相変わらず変わらないね」

『元気も何も、こんなんだし。
…貴方はまた、年を取ったね』

「失礼な。まぁ、生きてるからね。年も取るよ」

『生きるって楽しい?』

「…何?突然」

『楽しい?』

「楽しいより、辛い事の方が多いかなー」

『そう…』

「何しょぼくれてるの。
少なくともここで、
あんたと喋ってる今は楽しいよ」

『…そっかぁ』

「そういえば、まだ続けてるの?
変な噂話を流す遊びみたいなの」

『うん。続けてるよ。私の使命だから』

「噂話流して、楽しんでるのが?使命?」

『楽しんではないよ。
この街の噂は、誰かの想いの形だから…。
誰かの噂話しが、
いつか必要としてる人に届くまで、
私は届け続けるよ。誰かの想いは、
誰かの助けになったり、道しるべになるからね』

「相変わらず小難しい…」

『…確かに最初は遊び半分だったかな。
大昔の事だけれど、この街を守る為に、
犠牲になってくれって、埋められた時は、
おばば達連中を呪ってやろうかと思ったけど、
やっぱり、私もこの街が好きで大切だからね』

「呪ってやればよかったじゃん…」

『まぁ、大昔の事だし、こうやって、
怒ってくれる友達もいるしね、
私は私で、この街での役割を見つけたから、
ずっと楽しいよ。
…あ!これって、生きてる事に似てる?』

「…大昔からずっと、あんたは生きてるし、
この街を守ってくれてると思うよ。
少なくともあんたは、
生涯忘れられない、あたしの友達だよ」

『…ありがとう。でも、まだ死なないでね、
寂しいから』

「はいはい」

『でも、貴方が死んだら、
私を覚えててくれる人、居なくなっちゃうな』

「そんな時こそ、噂話しを流せばいいじゃん。
“出会ったら幸せになる
海辺の座敷童の噂!”とか、
そうしたら、
忘れられない存在になるんじゃない?」

『…自分の事を噂に?自分で自分の事を、
噂として流すの?それは何だか恥ずかしい…』

「恥ずかしいなら、あたしが流そうか?
あんたの噂話し」

『んー。一瞬それもいいかなって、思ったけど。
やっぱ、いいや。昔も今も楽しいし、
今後も、一期一会でやっていくよ。
それが私にとっての“楽しい”と思う』

「そっか」

『…うん。ありがとう』

「いえいえ。どーいたしまして。

所で、あんたと初めて会った時に
教えてもらった、
なんちゃらおじさんの噂話しの事だけどさ…」


ーーーーー

浜辺に響く楽しそうな話し声は、
波の音と共に、月が出るまで続いていた。


fin.



#今回のテーマ(お題)は、
【忘れられない、いつまでも。】でした

5/9/2023, 7:36:59 PM