「誰か」
誰か、助けてくれ。
何度、そう思ったか。
けれども、頭の奥底では自分を本当に助けられる誰かなんていないと、分かっている。人も、神も、悪魔も、助けるふりをして全員に不幸を振り撒いているだけなのだから。
誰か、はいない。
でも、誰か、この声を聞いてよ。なんて思ってしまうのは、仕方のないことなのだろうか。
「モノクロ」
モノクロ映画が好きになった。今、自分が見ている景色と同じだから。
鮮やかな色たちが、少し前から苦手になった。もう、自分には世界がモノクロにしか見えないから。現実味のないものたちが自分と同じように動いていることに苦痛を感じた。
君がいなくなって、世界が色づくことはなくなった。
ただひとり、大切な人を失っただけなのに。
「永遠なんて、ないけれど」
永遠なんて、ない。そんなことは、とっくの昔にわかっている。友情も、恋情も、家族に対する情さえも、永遠なんてない。絶対なんてない。ひどく脆くて、弱いものなのだ。
永遠のものなんて、ないけれど。それでも今は少しだけ、少しだけ君を信じてみたいと思う。
これは秋の涼しい風のせいか、穏やかな青空に浮かぶ雲のせいか、黄色に色づいた木の葉のせいか。
「ひとりきり」
朝、昼、夜。ずうっと、ひとりきり。友人といても、笑っていても、泣いていても。そんなことには、もう慣れたけれど。けれど、やっぱり寂しいもので、誰かといたくて、いたくなくて。それを繰り返してばかりなのだ。
「波音に耳を澄ませて」
波音に耳を澄ませて、瞳を閉じる。
そのまま、ゆっくりと砂浜を歩く。
左耳から聞こえる波の音が、何故かそんなに心地のよいものではなかった。早く立ち去ればいいのだろうが、これまた何故かそんな気分にもなれない。
夏の、黄昏時を少し過ぎた頃の薄暗い色を纏う空気、特にその時の海は昔から好きだ。いろんな感情が頭の中でせめぎ合って、どうしようもなくなる感覚になる。
今が、それ。
たまらず、嗚咽を漏らす。
溢れた涙は、砂に染み込んでなくなる。
波の音以外、何も聞こえない。
波の音以外、何もいらない。
だからただ、ここでいつまでも耳を澄ましていたいのだ。